初めての魔法
さて、今日から魔法の練習だ。
この日のために魔法の教科書をあらかじめレンタルして読んだのだが、その内容が……
ライト。明かりを灯す魔法。呪文は 光よ 杖に宿りて照らせ この二節である。
なめてるのか。
呪文唱えるだけで魔法使えるのか本当に。
魔力をコントロールすることもなく、呪文の発音に気を付けることもない。
こんなものを技術として認めていいのであろうか。
「(まあ、これ以外にいいものはないのだが)」
この屋敷には魔法に関する本がない。
本自体が貴重なこの世界では、読める本にも限りがある。
今日レンタルしたこの教科書だって貴重な物だか購入しなかったのだ。本当は買いたかったのだが高い上に用途があまりないのでレンタルにとどめた。
まあ、両親に頼んだら買ってくれるだろう。やらないけど。
「しかし本の印刷とかは後で考えないといけないだろな:
本棚の本を眺める。
ここにある本の大半は小説やらエロ本、中には衆道(BL)まである。
完全に両親の趣味だ。
今はどうでもいいけど!
「坊ちゃん、そろそろ時間でございます」
「ああ、分かった」
俺は使用人に連れられて外に出た。
今日から専属の家庭教師が付いて魔法の習得をすることになった。
「若様始めまして。今日から貴方の魔法について教えることになりました。リークと申します」
一礼する壮年の男性。
彼は三五歳でとある研究所に勤めていた学者だったが、職場が汚職によって潰れて新しい職場探しのため一時的に家庭教師となったという。
貴族出身というのもあってか、それとも実家より俺の家の方が爵位が上の為か。
こんなガキ相手にも終始礼儀正しい人だった。
キレイなお姉さんに手取り足取り個人授業も夢見ていたが、そんなものは現実にはないわな。
「先ずは基本である魔法の光を習得して頂きます」
ようやく魔法が出てきました。
魔力については五歳の頃からやっていたおかげで何か効果がある筈だ。
「いいですか? 呪文を唱える際には成功する自分自身を強くイメーしてください。体の内側で消費される精神力を感じ取り、それをもっと強く引き出そうとしてみてください」
先生の言葉に頷いてライト―――明かりを灯す魔法を唱える。
すぐ魔法に頼るから文明が発達しないんだよと思いつつ、町を照らす街灯イメージして杖を振る。
「光よ 杖に宿りて照らせ」
唱えると同時に杖から光が照らされる。
色は紫。
かなり毒々しく、時折見かけた紫外線ライトみたいだ。
「おお! す、素晴らしいですアルコ様! まさか一度目で成功させるとは!」
なんてオッサンが大はしゃぎしてるんだ。ギャラリーの使用人連中も普通にはしゃいでる。
「……なるほど、これが魔法か」
対する俺は冷静にこの現象を観察していた。
ただ呪文を唱えるだけで引き起こせる現象、魔法。その正体がやっとわかった。
コレ、周囲の幽霊みたいなの―――精霊の力を借りているのか。
目に魔力を込めることで見えるフワフワしている光。
呪文を唱えると同時に消費される俺の体内の魔力と、集まってくる『見えない光』。
呪文と同時に杖へ集まり、杖から引き出された俺の体内の魔力を消費して光を灯したのだ。
これなら確かに魔力の流れとか運用法とか要らないわ。だってこの精霊さんたちがやってくれるもの。
俺は一切魔力を動かしてない。
どれだけの量を使うのか、どんな風に流すのか。その操作は全部この精霊たちがやってくれていた。
おそらくイメージしながら呪文を唱える事で精霊さんたちに命令を下し、魔力という絵ベルギーを提供してして魔法を引き起こすのだろう。
杖はさながら精霊さんたちを操る指揮棒のようなものか。
以前まではただの火の玉としか思ってなかったのだが、成程成程。こいつらこそ魔法において大事な要素だったのか。
「(……周囲の奴らは見えてないようだな)」
試しに精霊さんをツンツンと指で突く。しかし誰も俺にリアクションを取るものはいなかった。
見えてるのに無視しているのか、それとも見えないのか。
もし後者だと余計なことに巻き込まれる可能性があるので黙っていよう。
「(しかしそれにしても……)」
もう一度軽く杖を振るう。
同時に迸る電流。
ソレは派手な音を立てながら地面の草を焼いや。
「(魔法を使うのはこんなにも楽しいのか!)」
ソレを見て俺は思わずにやけてしまった。
魔法、
前世ではありえなかった、空想とされた技術。
そんなロマンあふれるものをここではいくらでも使えるのだ。
しかも、この世界には魔物やら魔族やらの人間に敵対する存在がおり、そういったものには遠慮なくこの力をぶつけられる!
ああ、楽しみだ、この力を思う存分振るって敵を撃退したい!
女神様から貰った特典で龍を騎馬にして、空から雷を落としてみたい!
「すばらしいです! ただ雷を出すだけですが、十分すぎる威力です!」
「これでサンダーアローやライトニングサーペイントを使ったらどれだけの威力になるのでしょうか!」
そして何よりもこの声。
周囲が俺を称賛し、持ち上げてくれている。
前世ではバカにされる人生だったけど、ここなら『僕』を特別視してくれる!
ああ、なんて心地よいんだ!!
「リークさん、俺にもっと魔法を教えてくれ!」
「ええ、もちろんでございます!」
こうして、俺はその一日中を魔法の練習に使った。




