06 悪人平和マン!
夏休みが始まり今日で三日。りゅーすけは変わらない毎日に飽き飽き……しているわけではなかった。
というのも、りゅーすけの隣には必ず妖精のリーナがいるからである。
例え睡眠中でも、例え読書中でも、例え筋トレ中でも、隣にはにこっと微笑むリーナがいる。
妖精と過ごすという滅多に味わえない日々に、りゅーすけの心が踊らないはずもない。
りゅーすけは自室でリーナとラジオ体操をし終えると、ぐいっと伸びをした。
「りゅーくん、今日は何をするの?」
「何をするって言ってもなあ……」
たしかにリーナと過ごす時間は退屈ではないのだが、これといってやることがない。
リーナとゲームをしようにも、コントローラーが大きいため遊べないし、かといって何もしないのも嫌である。
ーーリーナと遊べる……遊べる……。
りゅーすけがむむうと考えていると、突如としてスマホがブーブーとなった。
りゅーすけポケットにあるスマホを取り出すと、通知をじっと見つめる。そこには……。
「なるほど。これなら……」
りゅーすけはリーナをじっと見つめる。リーナは「ほえ?」と首を傾げていた。
「リーナ、今日やることが決まったよ」
「え? なになに! なにをするの?」
きらっきらと瞳を輝かせるリーナに、りゅーすけはひとつ指を立てた。
「アニメ鑑賞だよ」
りゅーすけはリーナを机に座らせて、スマホを正面に置いた。
「ねぇねぇ、この四角い変なのはなに?」
「これはスマートフォンだよ。遠くの誰かとお話しができたり、メッセージを送りあったり。沢山の機能があって全部は説明できないけどね」
「遠くの誰かとお話し……。それなら、リーナの世界にもそういうのあるよ!」
「え? そうなの?」
りゅーすけは少し驚いた。
もしかしてリーナの世界にもスマホがあるのだろうか……? あったら、りゅーすけの頭に描いていたファンタジーとは大きく変わってしまうが……。
「『会話鏡』って言うんだよ」
「かいわきょー?」
「鏡に相手を呼びかけると、そこから相手の顔が浮かんでくるの。会話鏡を持つには色々とじょーけんがあるらしいよ。リーナは持ってないけどねー」
と、リーナは早口でそう言った。
ーーかいわきょーか……。なんか名前がファンタジーっぽくないな……。
もう少しかっこいい名前を想像していたりゅーすけは、ガクンと肩を落とした。
「そ、それじゃあアニメ鑑賞しようか」
「あにめかんしょー……? またまた知らない単語が出てきますなあ。おっほっほ」
「誰のマネだよ」
「パパ」
「パパだったか……」
どちらかというとおじいちゃんのような気もするが、まぁそれはさておき……。
りゅーすけは「見てれば分かるよ」と言いながら再生ボタンを押した。
『私は恋に恋する平和マン!』
「うわわわ!? 絵が喋った!」
リーナは目を大きく見開き、思わず画面にくいついた。
「リーナ、僕が見えな……」
『今日は貴様を倒すために、仮面をつけての参戦だ!』
「おおー!!」
しかし、りゅーすけの言葉なんぞリーナには届いていない。リーナはさらに画面の前へ近づいた。
「そんなに近づくと目が悪く……」
『はっ、だからどうしたってんだ? 俺様は結んで開いて怪盗ヘビー! 俺様を倒せるとでも?』
「いけいけー! 悪人平和マンを倒しちゃえー!」
「リーナ逆! 逆だから!」
ーー素顔を隠してるキャラって、たしかに怪しいからわからなくもないけど……。
りゅーすけは苦笑しながら、リーナを肩へのせた。
「えへへー、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって」
「ううん、別にいいよ。ただ次からはあまり近くで見ないでね。目が悪くなったら大変だし」
「御意!」
「よろしい」
りゅーすけはリーナの頭を優しく撫でたあと、アニメを見る。
ーー見せたいアニメ、これじゃなかったけど……まぁいっか。
りゅーすけが見せたかったアニメは、『ほのぼの妖精』と呼ばれる、登場人物の全てが妖精の日常計アニメだった。
ーーでも、こんなに楽しんでいるならまた今度でも……。
「よし! そこだー! 平和マンをやっちゃえー!」
「だから逆だってー!」
それからというもの、このアニメが終わるまで、リーナはずっと怪盗ヘビーを応援していたという……。
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