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僕と妖精さんの夏休み!  作者: 岩田凌
夏休み編!
6/29

05 黄色いお花

「ねぇ、りゅーすけ、あなた今暇でしょ?」

「んーまぁそうだけど……」

りゅーすけはお母さんに呼ばれて、リビングへと来ていた。

りゅーすけ家のリビングは、キッチンがあったりこたつがあったり、すぐ隣にお風呂場があったりと色々とごちゃまぜな部屋である。

とはいえ、絶賛夏休み中のりゅーすけが掃除をしているため、ぐしゃぐしゃの新聞紙やら埃の塊なんかがあるわけでもない。少々狭いものの、綺麗な部屋なのである。

りゅーすけの言葉に、お母さんは何やらニヤリと口元をあげた。

「なら、この回覧板を秋下さん家に置いてきてくれない?」

「秋下さん……あぁ、隣の家の」

お母さんはこたつの中に置いていた回覧板を、りゅーすけにどーぞと差し出した。

ーーなんでこたつの中なのかは……突っ込まないでおこう。

りゅーすけは吐息をつくと、回覧板を胸に抱いた。

「近いけれど、事故に気をつけてね」

「御意!」

りゅーすけは兵隊の如く、左手をビシッと頭に置いてから、早歩きでリビングから出ていく。

「御意……あの子、あんな言葉使うかしら?」

なぁんて聞こえた気がするが、りゅーすけは「キコエナーイ」と耳を手で覆った。

りゅーすけは自室に行くと、梅風味のせんべいを頬張り、モグモグモグモグ……。

「りゅーくん、どこか行くの?」

リーナはせんべいを一口食べて、八の字に宙を舞った。

「これから近所の人に大事な物を渡しに行くんだよ。……これなんだけど」

りゅーすけは、リーナに回覧板を渡した。

リーナはせんべいをまた一口食べて、回覧板の感触を確かめた。

「なんか、絵本みたいに固いね。中には沢山紙があるけど……」

「丈夫に出来てるからね。……じゃあ、僕は行くけど」

りゅーすけはそう言いかけて……チラッとリーナを見た。

リーナはじーっとりゅーすけを見ており、足をじたばたとさせていた。口元にはせんべいの食べかすがあるが、まぁそれはどうでもいいだろう。

「……一緒に行く?」

「行くーー!」

リーナは顔をぱあっと明るくさせて、嬉しそうに宙を舞う。

それから、残り少ないせんべいを口に入れてモグモグモグモグ……。

そして、りゅーすけの肩に乗った。

「見つかるなよ?」

「御意!」

こうして、りゅーすけとリーナの小さなお出かけが始まった。


りゅーすけは眩しい太陽に目を細めて、お父さんからもらった麦わら帽子を被る。

ーー僕には似合わないと思うけどなぁ……。

りゅーすけはお父さんを恨みつつ、いつもよりゆっくり歩いた。

ーー真夏日にこうやって誰かと歩くのも久しぶりだなぁ。………妖精さんだけど。

中学時代は、よく友だちと一緒に登下校をしたものだ。

それも友だちとの会話に夢中になっていて、暑さなんて全く感じなかった(そのせいで、水分補給をろくにせず、熱中症になった)。

今ではみんな違う道に進んでいて。ある友だちはこの辺では偏差値が高い難関校に。ある友だちは家族の為にとすでに就職をしていたり……。

今、りゅーすけの隣には一緒に登下校する友達がいない。正直あまり寂しいとは思わないが、時間って進んでいくんだなあ……となんだかおじいちゃんのようなことを考えてしまう。

「りゅーくんどうしたの? 頭痛い?」

「大丈夫だよ。ちょっとした考え事をしてたんだ」

「考え事? どんなどんな?」

詰め寄るリーナに苦笑して、りゅーすけはひとつ指を立てた。

「隣に一緒にいる人が妖精さんで不思議だなーって」

「リーナもそれ分かる! リーナも一度も人間さんの隣で歩くことなかったもん」

「リーナ歩いてるじゃん……」

リーナはりゅーすけの肩にずっと座っている。飛ぶとバレてしまうと思ったのか、それとも気に入っているだけなのか。……おそらく後者だろうな、とりゅーすけは思う。

「えへへ……。あ、お花が咲いてる!

リーナは話を逸らして、道端に咲くお花を見た。

てっきり嘘ではと思ったが、りゅーすけも習って見てみれば、なるほど、たしかに一輪の花が咲いていた。

「このお花なんて言うの?」

「うーん、僕は花に詳しくないからなあ」

一時期花を愛でていたこともあったが、今は育てることはしていない。……好きなのは否定しないが。

小さい頃は写真ばかり撮っていたな……と懐かしむりゅーすけである。

「わー! 黄色いお花だ! エレキ花かな? ……ううん、そんなのこっちの世界にはないか。むむっ、君は一体どんな名前なの?」

なんて、楽しそうにお花に話しかけるリーナを見ると、なんだかちょっぴり興味が湧いてしまった。

思わず歩み寄ろうとしたが、りゅーすけはぶるぶるも首を振った。

「リーナ、お花もいいけど、今はやることがあるんだ。だから、また今度にしよう?」

「そっかー。りゅーくん、近所の人に渡さないと行けないもんね。えーっと、かいらんし?」

「回覧板だよ」

「そうだった! メモメモ……」

リーナはどこからがメモ用紙を取り出して大きな字で書いた。きっと『かいらんし違う! かいらんばん!』とか書いているのだろう。

ーー花の前で書いてるから、観察日記でも付けてるように見える……。

なんて微笑ましく見ていると、リーナがふわふわと飛んで、肩にちょこんと座った。

「遅くなってごめん。それじゃ、レッツゴー!」

「お、おー!」

リーナのテンションに振り回されながらも、無事に近所の人に回覧板を渡し、りゅーすけとリーナの小さなお出かけは幕を閉じた。


「……お花、か」

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