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僕と妖精さんの夏休み!  作者: 岩田凌
夏休み編!
28/29

22 りゅーすけとリーナ(後編)

りゅーすけはリーナを肩に座らせると、オレンジジュースをぐいっと飲む。

山道を登ってからというもの、一度も水分補給をしていなかった。本来ならばミネラルウォーターや麦茶が一番なのだが、贅沢は言ってられない。

リーナは涙が収まったのか、もう瞳をハンカチで拭くことはしていない。

リーナは鼻水をずずっと吸って、顔を下へ向けている。

りゅーすけはオレンジジュースの入ったペットボトルを地面へ置くと、リーナへ話しかけた。

「ここまで来させたのはリーナの仕業だろ?」

「うぐっ……」

図星だったのか、リーナはビクッと肩を震わせた。

「当たりだっかぁ……」

「で、でも、あの風はリーナがやったわけじゃないからね!」

リーナは誤魔化すようにそう言った。

りゅーすけは疑わしげに、リーナをまじまじと見る。

「じーっ」

「本当! 本当だって〜!」

リーナは両手をぶんぶんと振って、必死に伝えようとする。

りゅーすけはなんだかそれがおもしろくてクスッと笑ってしまった。

「あの強風のせいで、リーナと麦わら帽子は確かに飛んでいったけど、途中からはリーナ自身が飛んでたんだよね?」

りゅーすけはリーナの翅に軽く触れる。

リーナは「う、うん……」と力なく言った。

強風は文字通り確かに強かったが、ほんの一瞬。一定の高さを保って飛び続ける麦わら帽子を見て、りゅーすけはリーナなのではと予想した。

最初はカラスだと思ったが、麦わら帽子を咥えていなければ、足で掴んでいたわけでもない。そもそも、カラスらしき黒い影はりゅーすけの目には映っていなかった。リーナしかいないのである。

「こんな人気がないところに、どうして僕を連れてきたの?」

「えっと、それは……」

リーナは体育座りをして、膝に頬を置いた。

「……なんか、寂しくなっちゃって」

「寂しい……?」

「楽しみにしていた夏祭りをして、りゅーくんと楽しんで……でも、あと少しで故郷に帰るんだって思うと、悲しくなっちゃって……」

「…………」

リーナは月を見上げて、はぁ……と吐息をつく。

「りゅーくんとこうやっておしゃべりしたり、遊んだり、お菓子を食べたりするのも、あとちょっとなんだね……」

元々、リーナはりゅーすけの夏休み期間中のみ、この世界に滞在することになっていた。

しかし、気がつけば、夏休みが終わるまであと二日。りゅーすけとの日常は、あと少しで終わってしまうのだ。

りゅーすけもそれは分かっていた。カレンダーの日にちにバツ印をつける度に、終わりに近づいていることを理解していた。

リーナはぐすんと鼻水を吸う。

「りゅーくんは、リーナといて楽しかった?」

「それは最終日に言うセリフだけど……」

「今、聞きたいの」

詰め寄るリーナに、りゅーすけは思わず苦笑した。

「そりゃあとっても楽しかった。今までの夏休みの中で一番ね」

りゅーすけにとって、夏休みというものは、部屋でゴロゴロできる素晴らしいものだった。

けれど、リーナが来てからは、ゴロゴロなんてできず、とにかくリーナとしゃべって、どこかへ出掛けて、時には対戦して……。やることが沢山の充実した夏休みだった。

りゅーすけはぶっちゃけ、誰かと遊んだり楽しんだりすることがあまり好きではない。友だちは数人いるが、基本的に遊びは断るし、一人の方が気が楽で寂しいとも感じなかった。

けれど、リーナといると、そんな考えが吹っ飛ぶほど楽しかった。

どこにでも生えていそうな花も新鮮に感じ、一人で遊ぶゲームよりも不思議と二人で遊んだ方が楽しかった。イタズラもしょっちゅうで、けれどそれが苦痛だとは感じなかった。

「リーナと会えて良かったって思ってるよ」

「そっか……」

リーナは翅を広げて、りゅーすけの目の前へ浮かんだ。

月をバックに笑顔を向けるリーナは儚げで翅が星のように輝いて見える。

「ねぇ、りゅーくん。リーナね、またこっちの世界に行きたい。ジャンケンで負けて、毎年毎年、りゅーくんのところへ行きたい」

「でも、ランダムなんじゃないの?」

りゅーすけがそう言うと、リーナはぷくーと頬をふくらませる。

「りゅーくんは夢がない! でも、りゅーくんの言う通り。行き先は、全部偉い人が決めるもん」

「そこは始めて知ったんだけど……」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「初耳だよ!」

りゅーすけがそう突っ込めば、リーナは思わず噴き出してしまう。

そんなリーナを見て、りゅーすけも釣られて笑った。

ひとしきり笑ったあと、りゅーすけはリーナへ手を差し伸べる。

「リーナ、まだまだ夏祭りは始まったばかりだよ? 一緒に楽しもう?」

「……うん!」

リーナはりゅーすけの手を繋ぎ、ゆっくりと山道を下っていく、と……。

ヒュー……バン!!

大きな音が聞こえ、りゅーすけとリーナは夜空を見上げる。

「綺麗……りゅーくん、あれってもしかして……」

「花火、だね……」

汚れた衣服に、所々にあるすり傷。祭りにはやけに似合わない姿……。

けれど、二人にとって、この日は深い深い思い出の一ページへ刻まれていくのだった。

次回で最終話になります。

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