20 僕と妖精さんの夏祭り!(後編)
「さて、そろそろかな?」
突如として道端に座ったゆうやはそう独り言のようにぽつりとこぼす。
りゅーすけはゆうやの隣に座り、オレンジジュースを飲んでから言った。
「そろそろって、この後何かあったっけ?」
「おいおい、りゅーすけ。お前それでも毎年夏祭りに来てる男か? まったく、見損なったぞ……」
「そう言われても……」
だいたい、りゅーすけがこの夏祭りに毎年訪れている理由は、この辺りでは手に入らない梅のお菓子を買うためである。それ以上でもそれ以下でもないのだ。
家に届いた夏祭りのチラシも、りゅーすけは梅のお菓子を販売する屋台以外は目に入っていない。何かイベントがあろうと、正直知ったこっちゃないのである。
ゆうやはカバンから一枚の紙を出すと、りゅーすけへ渡した。
その紙は、『今年もやります!』とでっかく書かれた夏祭りのチラシ。家にに届いたチラシと同じである。
りゅーすけは『予定イベント』と書かれた見出しを見つけ、そのまま視線を下へやる。
そこには、『八時から花火大会だぞん!』と書かれていた。
「あぁ、花火か! そういえば、祭りの一大イベントなんだっけ……?」
「あぁもなにも、祭りといえば花火以外にないだろ? まったく、梅でできたかってー頭……」
「梅さんを侮辱するやつは許さーん!」
「いてー! いでででで! 頭をぐりぐりするなこのバカ!」
ゆうやはりゅーすけの手を振りほどき、はぁ……と疲れたようなため息をついた。
「りゅーすけはもっと花火に興味をもて」
「ゆうやこそもっと梅さんに興味をもて」
そう言ってから、二人は小さく噴き出す。
ひとしきり笑ったあと、りゅーすけは夜空へ視線をおくった。
ーーこうやって外に出て星空を見るのもあんまりないよなぁ……。
小さい頃は星空ばかり眺めて笑っていたような気がするが、いつからかまったく見ないようになってしまった。
ーー天体観測とかって首が疲れるから嫌だよな……。
おそらくこれのせいである。首に痛い! という感覚がなければ良いのに、と思うりゅーすけである。
「そういやりゅーすけ、課題終わったか?」
「もちろん。ゆうやは?」
「俺は初日に一気に片付けわ。お前みたいにコツコツやれるかっての」
「何事もコツコツが大切……」
「はいはい何度も聞いとるわ。俺にはできないね」
「はぁ……これだから若もんは……」
「お前も若もんだろうが!」
ゆうやのツッコミに、りゅーすけはクスッと笑ってから、リュックサックからゲーム機を取り出した。
「本当に花火興味ねぇんだな」
「違うよ。写真撮るだけ」
「スマホあんのに?」
なるほど、確かにスマホの方が画質が良いし、綺麗に撮ることができる。起動が遅いゲーム機よりはよっぽど良いだろう。
「趣あるじゃん」
「ねぇよ! 何言ってんだお前!?」
「うーむ……ゆうやには理解できないか」
「その言い方イライラするな!」
りゅーすけはゆうやを無視してゲーム機で写真を撮る。
見ればやはりスマホより画質が悪くあまり良い画像ではない。しかし、りゅーすけはこの方が好きなのだ。……何故かはりゅーすけすらも分からないが。
「よし、あとは待つだけ……うわっ!?」
りゅーすけとゆうやが花火にわくわくしていると、急な強風が来て目を閉じる。
風は収まり、りゅーすけは驚いたとばかりに吐息をつく。
「なあ、りゅーすけ」
「ん? たこ焼きなら自分で買って……」
「帽子」
「うん?」
「お前の帽子、吹っ飛んでったぞ」
「は?」
ゆうやの目線の先、遠くに見えるのは、りゅーすけの麦わら帽子だった。
ーーまさか……。
りゅーすけは恐るお恐る頭を叩く。……いない。リーナが……いない!
「まずいー!!」
りゅーすけはゆうやに何も言わず、大急ぎで麦わら帽子を……否、それに捕まっているであろうリーナを追いかける。
「夏休み終了二日前だぞ! リーナ!」
りゅーすけは拳を握りしめ、大切な友だちを助けるために走り続ける。
ーーこんな別れ方、絶対に駄目だ!
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