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僕と妖精さんの夏休み!  作者: 岩田凌
夏休み編!
25/29

19 僕と妖精さんの夏祭り!(前編)

ドンドンと耳に響く太鼓の音。

ジュワーと心地の良い音が聞こえる屋台。

辺りはもうすっかり真っ暗だというのに、右を見ても左を見ても人、人、人……。

りゅーすけはストローで作ったスプーンにかき氷を置いて、ゆっくりと口に含む。

シャキシャキというこれまた心地良い音が聞こえたかと思えばすぐに液体になる。りゅーすけはちょっぴり残念そうに飲みこんだ。

「よくかき氷とか食えるよな。頭がキーンってなるだろ? キーンって」

「なら一気に食べなきゃいいじゃん。ゆうやはなんでもかんでもひと口ペロリだからいけないんだよ」

「おいおい、一気に食べるからこそ食いもんはうめえんだぞ?」

「あのなぁ……」

りゅーすけのアドバイスに、しかしゆうやは分かってないなと否定する。

りゅーすけたちがいる場所は、りゅーすけの家からかなり下にある、ほしころ川の近く。そこでは毎年恒例の夏祭りが行われている。

今年で九十回目となる祭りで、りゅーすけも毎年のように参加している。

……決して屋台に梅のお菓子があるから来ているとかそういうわけではない。

ゆうやはりゅーすけの麦わら帽子を見て、不思議そうに指を差した。

「お前が麦わら帽子……? 一体なんの風の吹き回しだよ」

「あぁ、これは……」

りゅーすけは麦わら帽子をぎゅっと握り、どうしたものかと考え込む。

ーーリーナをひと目から隠すため……とか言えないよなあ……。

そう、麦わら帽子の中には、リーナが入っている。

リーナがどうしても一緒に行きたいと言ったため、父から麦わら帽子を借りて中に入るようにしていたのだ。

……が、もちろんそんなことなど言えるはずもない。

悩みに悩んだ末、りゅーすけはこう答えた。

「……お、親が持ってけって……」

「あぁそっかー。りゅーすけの親ってとにかく心配性だもんなー」

ーーなんでゆうや知ってんだ? 誰にも言ってないのに……。

……中学時代、両親がわざわざゆうやの家に行って麦茶をあげていたのだが、もちろんりゅーすけは何も聞いていない。

「麦わら帽子、似合ってると思うぞー」

「あ、ありがと……」

ーー嘘ついてごめんよゆうや……。

罪悪感が胸に込み上げてくるりゅーすけである。

ゆうやは突然りゅーすけに持ち物を渡すと、耳打ちをした。

「りゅーすけ、俺トイレ行ってくるわ」

「……誰も聞いてないんだから普通に言えよ普通に」

「だって恥ずかしいもん!」

「嘘つけ」

りゅーすけはゆうやの背中を押すと、しっしっと片手を降る。

ゆうやは「冷てーな」と呟くと、トイレへ向けて一直線に走っていく。

りゅーすけは階段に座ると、オレンジジュースをひと口。それから焼き鳥を口に入れる。

「梅ジュースとかないの?」

「うおわぁ!?」

いつの間にやら麦わら帽子から出てきたリーナを見て、りゅーすけはすっとんきょうな声を上げる。

りゅーすけは落ちた麦わら帽子を手に取り、リーナが見られないよう壁にする。りゅーすけはリーナにデコピンをし、ため息を吐いた。

「うぅ……りゅーくんのバカぁ……」

「バカはそっちだ。今は隠してるからいいけど、もしも誰かに見つかったら大変なことになるだろ?」

「そうだけどぉ……」

リーナは額を撫でて、りゅーすけの膝に座る。それから、屋台をじろじろと楽しそうに見た。

「……まぁ、いつもと違う景色だし、リーナが興奮するのも分かるけど」

「ほほう! つまり自由行動をしていいと!?」

「そうは言ってない」

「むぐう……」

リーナはしゅんとうなだれ……、そこに植えられていた花をじっと見つめる。

「お花、元気ないね……」

「リーナは花が好きだよな。やっぱり妖精だからか?」

リーナはりゅーすけの方へ身体を向け、人差し指を頬に当てた。

「それもあるけど、やっぱり可愛くて綺麗で、こっちも元気になるから……かな?」

「そっか……」

そういえば、りゅーすけも幼い頃は悲しくても花を見ればどうでもよくなったことがある。花には人を、妖精を元気にさせる力がある、というのは間違いではないのだろう。

りゅーすけは屋台にある花屋へ視線を向ける。

そこには、色とりどりな花束はもちろん、花の種や観葉植物なんかも販売されていた。

ーー花ね……。

りゅーすけは財布を取り出し、中身を確認。

ーーあの花束、何円するんだろ……。

などと考えていると、後ろから誰かが背中を押してくる。

りゅーすけは慌ててリーナを頭にのせて麦わら帽子を被ると、そこにはトイレを済ましたゆうやがいた。

「おいおい、なにに慌ててんだ? お! トイレか? トイレに行きたいのか!?」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」

「だってトイレじゃん!」

「答えになってない!」

りゅーすけはゆうやにツッコミを入れてから、財布をポケットの中に入れる。

ーーまたあとで、かな。

りゅーすけはリーナの頭を撫でるように、麦わら帽子を優しく叩くと、ゆうやに引っ張られて夜の道を進んでいく。

夏祭りはまだまだ始まったばかりだった。

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