16 りゅーくんの友だち
ルチルがあちらの世界へ帰ってはや一日、リーナは不満げにビー玉を蹴っていた。……どこから持ってきたのだろうか。
「パパってば、リーナに何も言わずに来て、何も言わずに帰るなんて……。せめて帰る時くらいリーナに言ってよ!」
「まあまあ、パパもお仕事が忙しい中来で……」
「ぶんぶん!」
りゅーすけがそう言っても、リーナはぷくーと頬をふくらませたままだった。
ーー昨夜からずーっと同じようなことを聞かされる身にもなってみてくれ……。
リーナのご機嫌が斜めなのは、なにも今朝から始まったことではない。
りゅーすけが睡眠中でも、耳元で「パパめパパめ……!」と囁いてくるのだ。
それも、独り言なのかと無視していたら、「りゅーくん聞いてるの!?」と言ってきたのだ。
せめて大好きな睡眠くらいさせてほしいものである……。
そのため、りゅーすけの目元はクマができておりやたら眠い。いや、それはいつものことなのだが、まあそれはさておき……。
ーーそういえば、リーナパパからなんかもらったっけな。
りゅーすけはビニール袋から丸い食べ物を手のひらに転がす。
見たところ飴のようにも見えるが、所々に変なトゲのようなものが刺さっている。毒々しい色のため、りゅーすけは思わず「うわっ」と口に出した。
「りゅーくん聞いてる!? ってそれは?」
リーナはりゅーすけが手のひらで転がしていた、飴のようなものをじーっと見つめる。
「あぁ、リーナのパパにもらったんだよ。リーナが好きな食べ物だって……ごわっ!?」
りゅーすけが言い切る前に、リーナはビー玉をひょいっと上に投げる。それから、りゅーすけの手のひらと一緒に、食べ物をパクリと食べる。
「あの、リーナさん、痛いんですけど……」
りゅーすけは噛まれた手のひらをハンカチで拭きながら、涙目で答える。
しかし、リーナはそんなことなど気にも留めず、もう一個! とでも言いたげな顔でりゅーすけを見つめた。
りゅーすけは吐息をつくと、袋から食べ物を上げようとし……。
「なにやってんだ、りゅーすけ」
「……ゆうや?」
部屋の前では、いつの間にか友だちであるゆうやがじーっとりゅーすけを睨んでいた。
「……ていうか、ゆうやは家からこっちまで遠いだろ? なんで来たんだよ」
「来ちゃ悪いか?」
「別にそうは言ってないけど……」
りゅーすけは、ゆうやが持ってきたスイカを一口食べてから麦茶を飲んだ。
ーースイカ美味し……。
「近くにばあちゃん家があるんだ。それでついでにと思って、お前ん家に来てやった」
「わざわざ様子を見に来てくれたってわけねー」
「違うわ。……それで、りゅーすけ。お前さっきまでなにやってたんだ?」
ーーやっぱり聞かれるよなぁ……。
りゅーすけはどうしたものかと首を傾け、梅干しをぱくぱくぱくぱく……。
ーー本当のことは言えないからな……。
リーナと出会ったあの日、他の人には見られてはいけないと言っていた。
それはつまるところ、りゅーすけがゆうやにリーナのことを教えてはいけないという意味にもなる。
本来ならば、リーナのことを教えてあげて、友だちになってほしいのだが、約束が最優先である。
りゅーすけはたまたま近くに転がっていたビー玉を気づかれないようささっと持つと、机にころころと転がした。
「ビニール袋にビー玉があってさ。なんでだろうなあって考えてたんだよ」
「お前は相変わらずどうでもいいことを考えるよなあ……」
「僕にとっては計算式を考えるより遥かに大事なんだよ」
「数学嫌いめ」
「うっさい」
りゅーすけはゆうやの頭を軽く叩き、スイカを一口食べた。
ーーとりあえず誤魔化すことはできたかな……?
りゅーすけはビニール袋に入っているリーナにVサインを送る。
リーナは暑いからなのか水魔法を使って、暑さをしのいでいた。……それ以上使うとこぼれそうなのでやめてほしいが。
ゆうやは「さってとー」と言いながら、似合わない派手なバッグを持った。
「もう行くのか?」
「このあとはひいおじいちゃんの家に行かんと行けないしな。悠長にしてられん」
「そっかー。……スイカありがとな。また来年もよろしく」
「誰が持ってくるか! そんじゃあな」
そう言って、ゆうやは部屋から出ていってしまった……かと思いきや、扉を少し開けて、なぜかVサインをした。
「祭りの日は、一緒に屋台めぐろーぜ!」
そう言って、ゆうやは今度こそ扉を閉めて、階段を降りていった。
リーナはビニール袋からひょこっと顔を出すと、何やらにやにやしながらりゅーすけを見た。
「な、なんだよ……?」
「りゅーくんって、リーナ以外にも友だちがいたんだね!」
「失礼だな!?」
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