15.5 これからもよろしくね!
りゅーすけは不思議そうに物置部屋をきょろきょろと見る。
机の下を探したり、おもちゃ箱の中を探してみたが、結局ルチルを見つけることは叶わなかった。
ーー本当にあっちの世界に戻ったのか……。
りゅーすけはソファに座ると、ルチルの飲みかけの麦茶の入ったコップをじっと見る。
せめて全部飲んでから行けば良かったのに……。
りゅーすけははあ……とひとつため息をつくと、片手にコップを、もう片方の手に小説を持って、物置部屋から出た。
「……って、あれ? リーナ?」
「わわっ! りゅーくん……」
そこには、りゅーすけの部屋で眠っていたはずのリーナが、カレンダーを指でなぞっていた。
リーナは誤魔化すように両手を広げる。
「リ、リーナはただ、このカレンダーを見たくて……」
「僕の部屋にもあるじゃん。わざわざここに来なくても見れると思うけど……?」
「むぐっ!」
リーナはしまったー! と言わんばかりに額に手を当てた。
ーー聞いてたのかな……?
まぁ、仮に聞いていたとしても、リーナには秘密にすべきことを話していたわけではな……。
ーーいや、普通に聞いたな……。
リーナの今よりもさらに幼い頃のことを、ルチルから沢山聞かされていた。もしも聞いていたのならば、リーナにとってはとっても恥ずかしいだろう!
りゅーすけは念のためリーナに言った。
「……いつから聞いてた?」
「……リーナのあーんなことやこーんなことってところから」
ーーうわぁ……結構最初じゃん……。
「す、すみませんでした……」
「あ、謝らなくていいよ? べ、べつに恥ずかしいとか思ってないもん……ないもん!」
なんて言っているが、リーナの顔はりんごの如く真っ赤である。
りゅーすけは心の中でもう一度謝ると、物置部屋の扉を開いた。
「リーナのお父さん、帰っちゃったね」
「まだ一日しか経ってないのに……。りゅーくんが明日までいて良いって言ってくれたのに……」
「…………」
「パパ、リーナのこと嫌いになったのかな? 前よりダメな子になっちゃったのかな?」
リーナは瞳を潤ませて、ぎゅっと唇を噛んだ。
そんなリーナに、りゅーすけはおずおずと手を握った。
リーナの手はとても小さく、強く握ってしまえば簡単に壊れてしまいそうだ。
ーーこんな小さな手で握力が僕よりも強いのおかしくないか……?
などと一瞬思ったが、忘れるようにぶるぶると首を振った。
「そんなことないよ。リーナのお父さんは、ちゃんとリーナのことを愛してるよ」
「……ほんとに? 嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ。大丈夫」
りゅーすけがそう言うと、リーナはぶわっと涙をこぼす。
ルチルに……またパパとしばらく会えないという気持ちと、自分のことを愛してくれているという嬉しい気持ち。そんな複雑な涙だった。
リーナは涙を拭くと、りゅーすけに優しく微笑み、
「夏休みももう半分だけど……これからもよろしくね、りゅーくん!」
そう言って、りゅーすけの手にリーナの手を重ねたのだった。
ーー痛い痛い痛い! リーナ力強いって!
その後、リーナの大泣きが終わるまで、りゅーすけは非常に痛い思いをしたという……。
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