15 ちょっぴり寂しい……?(後編)
それからというもの、ルチルはリーナのあーんなことやこーんなことを早口で教えてくれた。
小さい頃のリーナは無口で寂しがり屋だったことや、何もないところでよく迷子になっていた、などなど……。
そうやってリーナの様々なことを話しているルチルは楽しそうで、りゅーすけもついつい「他には?」と聞いてしまった。
話が終わると、ルチルは疲れたのかぐびぐびと麦茶を飲んだ。
ーー冷蔵庫にはなかったぞ? どっから持ってきたんだ?
りゅーすけは一瞬考えたがすぐにやめる。細かいことなどどうでもいいのだ。
「りゅーすけ殿は、リーナといて楽しいか?」
「当たり前ですよ。リーナといると時間を忘れるというか……」
「ほほう、つまりは恋しちゃったと?」
「しませんよ! あいつとは友だちだって言ったでしょう?」
慌てて首を振るりゅーすけに、ルチルは疑わしげな目を向ける。
そもそもりゅーすけは、恋がいったいなんなのかよく分かっていない。一目惚れ=恋だと誰かに教わるでもなく勝手に思っている。
リーナに一目惚れをしていないため、恋ではないと確信しているのだ。
「リーナは純粋無垢だからな。変な男に声をかけられないか心配だ……」
「いや、それはたぶん……」
りゅーすけは例の鍵の件を思い出しそうになり、両手で顔を覆った。
「オモイダスナオモイダスナ……」
「ふむ、なにかトラウマでもありそうだな……。この話はやめにしよう」
「そうしていただけると助かります……」
ルチルはわざとらしく咳払いをすると、そーっと扉を開けた。
「……なにかありましたか?」
「いいや、なんでもない。気のせいだったようだ」
「はぁ……?」
なにか音でも聞こえたのだろうか。りゅーすけにはミンミンゼミの鳴き声しか聞こえなかったが……。
ルチルは机に座り、物珍しげに部屋を見た。
ルチルが座る机には、りゅーすけがあらかじめ持ってきていた小説や缶コーヒーはもちろん、綻びのあるくまのぬいぐるみや、触ると「あざす!」と言う、奇妙なおもちゃが置いてある。どちらも、りゅーすけが小さい頃によく遊んでいた物である。
「この机もそうだが、部屋もやけに散らかっておるな」
「ストレートにいいますね……」
「ほっほっほ! 私は嘘をつけないのだよ」
ルチルはなぜか誇らしげに胸を叩いた。
ーーそういえば、リーナって一度も嘘ついたことないよな。親子だなあ……。
そんなルチルを、りゅーすけはニマニマとした顔で見つめる。
恥ずかしくなったのか、ルチルは麦茶を飲んで話題を変えた。
「私の刎は透明でな。リーナはもちろん、私も見えないのだ」
「そ、それって大丈夫なんです? 誤って物にぶつかったりとかは……」
心配するりゅーすけに、ルチルはひらひらと手を振った。
「あぁ大丈夫大丈夫。透明といっても、私がくしゃみをすれば虹色になる故」
「なんだそのシステムは!?」
ルチルにとっては、当たり前なのだろうが、数々のファンタジー小説を読んできたりゅーすけにとっては正直がっかり感が否めない。妖精=神秘的なイメージが薄れていく……。
「ほっほっほ! りゅーすけ殿はキレ味も良い。リーナが楽しいと言っていたのもよく分かる」
「え? リーナそんなこと言ってたんですか。いつもは言わないのに」
「言うのが恥ずかしいだけなんだろうなー。リーナはちょっぴり恥ずかしがり屋でもあるから」
ーー恥ずかしがり屋なら身体を隠せよ……。
とツッコミたかったが、それ以上に、リーナが言っていたことに、りゅーすけは嬉しさを隠せないでいた。
というのも、リーナは一度もりゅーすけに楽しいと言ったことがなかったのだ。楽しんでいるのだと分かっていても、本当なのか心配になる時もあった。
それがついに晴れて、りゅーすけはたまらなく喜んでしまったのだ。
「りゅーすけ殿」
ルチルに急に呼ばれ、りゅーすけは「はひっ」と声が裏返る。
さっきまでのルチルとは違い、真面目な表情でりゅーすけを見つめていた。
りゅーすけは背筋を伸ばし、思わず顔を強ばらせる。
「リーナは……我が愛娘は、りゅーすけ殿との生活を毎日楽しんでおる。どうかあの子に、色々なことを教えてやってほしい。……それと、夏休みが終わる最後まで、あの子のそばにいてあげてほしい」
「…………」
ルチルは刎を広げて、りゅーすけの目の前へ行く。そして、ゆっくり頭を下げた。
しばし経つと、ルチルは頭を上げて、複雑な表情でりゅーすけを見た。
「なんせ、あの子はりゅーすけ殿ともっと仲良くなりたいのだからな」
そう言って、ルチルは小さな眩い光とともに、その場から姿を消したのだった。
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