13 リーナパパ、登場!?(後編)
「……なるほど、それでこちらの世界に」
「ほっほっほ! 私もまさか本当に来れるとは思わなかったがなー」
リーナパパこと、ルチルはりゅーすけが入れた麦茶をちびちび飲んでからぽりぽりと頭をかいた。
ルチルと同じくベッドに座るリーナは、実に複雑そうな顔でりゅーすけを見ていた。
ーーいや、そんな顔されても……。
りゅーすけとていきなりの展開についていけるわけがない。とりあえず梅を食べて心を落ち着かせた。
「しかし、いいんですか?」
「なにがだ?」
「リーナ……リーナさんからは、こちらの世界には二人来ては行けないと聞いております。その約束を破るのはいけないと思いますが」
「むむう……」
りゅーすけの真面目な言葉に、ルチルは視線をさまよわせる。
りゅーすけにとって約束事は睡眠ほどではないが、三度の飯より大事なことだと思っている。
それを破るということは、相手の信頼を下げ、裏切るということなのだ。
いくらリーナのお父さんだからといって、りゅーすけは容赦しない。何故なら……。
ーーもうすでにゲーム情報が生放送で公開されている……。このタイミングで来るのは罪が重いぞ、リーナのお父さん!
……割とどうでもいい理由である。
りゅーすけの言葉に、ルチルは顎を撫でる。
「いや、私も止められると思っていたのだ。しかし、みんな何故か歓迎していてな」
「は?」
りゅーすけはぽかんと口を開けた。
「歴史上初の試みだと言って笑顔で見送ってくれたよ。みんな優しいなあ……」
ーーえぇ……。あっちの世界って約束とかあんまり重要視されてないのか?
もしくは単に優しすぎるからなのか……。なんにせよこちらの世界へ来てしまったのは変わりないのだが。
りゅーすけはチラリとリーナを見る。……もうなんでもいいやとでも言いたげな顔をしている。
「それで、何日間ここにいるんですか? 先に言っておきますが、僕の夏休みが終わるまで、というのはやめてください」
それだと、なんだかリーナの覚悟が崩れてしまいそうで。
リーナは大切な人としばし別れることを決意してこの世界にやってきた。リーナの決意を、りゅーすけは最後まで尊重したいのだ。
「……それくらい分かっている。明日にでも私は帰るさ」
「パパ……」
リーナはちょっぴり寂しそうにぽつりと呟いた。
ルチルはリーナの頭をわしゃわしゃと撫でて、ぎゅーっと抱きついた。
リーナは嫌がる素振りも見せず、されるがままになっている。
大人な対応なのか、もしくは恥ずかしくて固まっているのか。……けれど、リーナの瞳は涙で潤んでいた。
ーーこういうの見るとな……。
りゅーすけはため息を吐くと、リーナとルチルから背中を向けて、人差し指を出す。
「……二日」
「え?」
「二日後には帰ってください。それが守れないなら、わ、悪いことをします。……たぶん」
歯切れの悪いりゅーすけに、ルチルはほっほっほ! と笑い、リーナもつられて笑ってしまう。
「ありがとうございます。……ところで、あなたの名前は?」
「りゅーすけです。……リーナのただの友だちですよ」
背中を見せたまま、りゅーすけはそう言ったのだった。
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