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僕と妖精さんの夏休み!  作者: 岩田凌
夏休み編!
15/29

幕間 我が娘、リーナよ

『我が娘、リーナよ。元気にしているか? パパはとっても寂しいぞ! なぜなら、リーナ! 我が愛しの娘、リーナよ! お前の手を握ってやることができていないではないか! きっとリーナも寂しいだろう。しかし、例え寂しくとも、夏休みが終わるまでは帰ってはならんぞ。怨むのなら……ジャンケンで負けたリーナを怨むのだ! ほっほっほ! あぁ、会いた……』

「おい、いい加減書くのを辞めないかルチル。今は会議中なのだぞ?」

そう言って、ルチルの手紙をさっと奪い取ると、老人はまじまじと読んだ。

「……ルチル、お前重症だな」

「なに!? 我は病に倒れたのか!」

「違うわアホ! お前の娘に対する愛が狂いすぎていておかしいってことだ!」

「愛は大事だぞ?」

「ああ、もうこのバカ親父は……」

老人は髪を思いっきりぐしゃぐしゃにして、ぼりぼりと頭をかいた。

その様子を見て、ルチルは不思議そうに首を傾げるのみだった。

議長はうおっほんとわざとらしく咳払いをすると、無精髭を撫でつける。

「ルチル、カラミスの言った通り、今は会議中だ。今日は議長がいないため、代理人として私が変わりにやっているだけまだマシと思え。もしもこの場に議長がおれば、貴様の刎を貪るだろう」

「……失礼しました、議長代理人」

「代理人はいらん。今は議長と呼べ」

「はっ」

議長の厳しい叱責に、ルチルは深く頭を下げて謝罪。

議長はやれやれとため息を吐くと、青晶と呼ばれる青く輝く鉱石をポケットから取り出した。

その青い光は、直線に進んでいき、蕾の花が描かれた壁画に当たる。

すると、蕾の花は、ゆっくりと開いていき、美しい満開の白い花と化した。

ーーいつ見ても凝った演出だな。これを娘にも見せてやりたい……。

「改めて……これより、妖精会議を始める!」

議長の声とともに、妖精会議は幕を開けた。


妖精会議といっても、参加できるのは全ての妖精ということではない。

妖精の中でも特に時を生きる老人や、はたまた危機的な村を己の知識で解決した若者など、なにか功を成した者が参加することを許可されている。

しかし、ルチルはというと、ぶっちゃけなにかを成し遂げたわけでも、特別長生きしたわけでもない。せいぜい愛しい妻と結婚し、可愛らしい娘を育てた普通の父親に過ぎない。

だというのに、ルチルが参加した(というかさせられた)のは、ちょっとした理由があるからだ。すなわち……。

「このままでは、リーナの父であるルリルが、リーナに会いたすぎて暴走する可能性がある。そこで提案なのだが……」

そう言って、議長は似合わないメガネを正した。

「ルチルをリーナのいる世界に行かせるのはどうだろう?」

「……は?」

議長の提案に、ルチルはもちろんのこと、他の議員らも目を見張った。

どうせリーナ関係のこととは思っていたが、まさかこんなことになろうとは……とでも言いたげな表情が議長に向けられた。

一方ルチルはというと……。

ーーなに!? 我は……我は、愛しの娘と! リーナと会うことが出来るのか!?

当の本人はなんとも嬉しそうである!

ルリルが鼻水を垂らしてうるうると瞳をうるわせているのを見て、カラミスはうわぁ……と若干引いていた。


「少しいいかのう」

「良いだろう。王女の右腕とまで呼ばれたファクよ」

「その二つ名は死語じゃよ、議長殿」

ファクと呼ばれる老婆が手を挙げ、議長は努めて冷静な口調で言った。

「こやつをあちらの世界へ行くこと。それは正直構わない」

「な、なにを言っているんですかファクさん! それでは……」

「まあまあ。人の話は最後まで聞きなされ」

「し、失礼しました」

一人の議員をさらっとなだめて、ファクは言葉を続けた。

「わしの知識が正しければ、毎年、あちらの世界へ行って良いのは一人のみ。それ以上行った場合は、二度とこちらの世界に戻ってはならないという記述がある。……それを、お主は破るというのか? 伝統あるひとつの『約束』を、お主は破ってもよいと?」

ファクの問いかけに、議員の大半が大きく頷く。

議長の言っていることは、言わば妖精の大昔から続いてきた『当たり前』を壊すということ。それに賛同するものは、せいぜい娘が愛しくてたまらないルリルだけだろう。

しかし、議長はゆっくり首を振った。

「無論、その『約束』を破る行為は、私とてしたくありません。……しかし、これ以上は無理なのです」

「議長、無理とは一体?」

議長は拳をぎゅっと握りしめて、机にドン! と叩いた。

「だってあいつ、もうここにいないもん」

「は?」

議員は一斉に、ルチルが立っていた位置を見る。なるほど、そこには確かにルリルがいなかった。……ルリルがいなかった!

「あんのバカ親父ー!!」

そんな叫びはもちろんルリルには聞こえていないだろう。

隣にいたカラミスは額に手を当てて、冷や汗をかいた。

「ぎ、議長! こ、これはもしかしたらルリルのじっ、実験かもしれませんよ!」

「実験……?」

「は、はひっ! きっとルリルは、二人で危険がなく帰ってこれるかどうか検証してるんですよ!」

ーーうわあ……ワシ何言ってんだろ。

何故あんなバカ親を擁護しているのかはカラミスとて知らない。知らないが、した方がいいと思ったのだ。

「だから、あいつの帰りを待ってましょうぜ!」

ーーって、言ったって逆効果だよな……。

カラミスとて、この発言が返って火に油を注いでいることくらい知っている。……本当になぜ言ったのだろうか。しかし……。

「なるほど、さすがはルチルだな」

「は?」

「うんうん、それに、あいつだって娘に会いたいだろうしね。いいんじゃないかい?」

「そうだな」

ーーあれ? なんかみんなおかしくないか? ……つーかこの会議やる意味あったのか? ……これでいいのか?

そんなカラミスの疑問などいざ知らず、かくして妖精会議は幕を閉じたのだった。

次回からはいよいよ後半です!活動報告更新しましたのでそちらもよろしくお願いします。

また、よければブックマーク・感想などよろしくお願いします!

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