10 鍵を閉めて!
「はぁ……やっぱりお風呂はいいなあ……」
りゅーすけはドライヤーで髪を乾かしながら、ふとそんなことを呟いた。
「どうしたの、りゅーすけ。普段、そんなこと言わないじゃない」
「どこかぶったか? ほれ、父さんに見せてみろ」
「二人して酷いよ! 別にこれくらい言ったっていいじゃんか!」
りゅーすけは両親に軽くツッコミを入れて、タオルを首にかけた。
りゅーすけの両親は、りゅーすけすら思わず一歩後ずさるほどの心配性である。
以前は「りゅーすけは太陽に当たると危険だ!」とか言い出して、両親揃って仕事を抜けて学校まで来たことがあった。
ーー太陽に当たると危険って、吸血鬼じゃないんだから。はぁ……。
りゅーすけはタオルを洗濯機へポイッと入れて、「おやすみなさいー」と言いながら頭を下げる。
両親は何故か拍手をして、何故か「気をつけるのよ」と言って、何故かそろってくしゃみをした。
そんな息子から見てもちょっぴり珍しい両親に別れを告げ、りゅーすけはスタタと階段を上っていく。
以前は一段飛ばしで上っていたが、リーナに「危険なことはしてはいけません!」と叱られたため、今は全くしていない。
ーー一段飛ばしの方が早いのになあ……。
なんて思いつつ、りゅーすけは自室の扉を勢いよく開ける、と……。
「あ、やっほーりゅーくん。お風呂気持ちよかったー?」
そこには、どこからか持ってきた小さな桶の上で、髪を洗う妖精がいて……。
「うーん……」
「りゅーくん!?」
りゅーすけはドサッとその場に倒れてしまった。
目が覚めると、そこには毎日のように見る天井があった。
りゅーすけは上半身を起こすと、ぶるんぶるんと頭を振った。
ーーあれ? なんで僕はここで寝て……。
りゅーすけの記憶は扉を開けたところから完全になくなっている。扉からベッドに来る間、一体なにがあったのだろうか。
「よかったー。りゅーくん、急に死んじゃうからびっくりしちゃったよ〜」
「勝手に殺すな」
「えーっと……ドヤア?」
「違う、ごめんなさいだよ」
「ご、ごめんなさい!」
リーナはりゅーすけの目の前でぺこりと謝罪。りゅーすけはよく出来ましたと頭を撫でる。
ーーん? 頭? 頭……頭……髪……髪……あ。
りゅーすけはさっきまでの記憶を取り戻したのか、近くにあった真っ黒な袋を頭に被せた。
「へ? りゅーくん!?」
突然の奇行に、リーナは思わず大きな声を上げてしまう。
ーー平常心だ! これはたぶん思い出したらいけないやつだ!!
そう、りゅーすけは決してさっきまでの出来事を思い出したわけではない。……いや、少しは思い出してしまったが、完全に、というわけではないのだ。
「りゅーくん! 危険なことをしてはいけません! 前も言ったでしょ?」
「いいや! 今回は頼むからこのままにさせて! お願いします!」
「むーりーでーすー!」
言いながら、リーナはりゅーすけの被っている真っ黒な袋を取ろうとする。
「ふんぐぐ……」
すかさずりゅーすけも、真っ黒な袋を引っ張る。
「なにをー!」
「こんにゃろー!」
両者互角。一進一退を繰り返している。……これはなかなか酷い光景である。
しかし、りゅーすけは疲れたのか、ついに袋を取られてしまった。
勝者はリーナ。りゅーすけは「うわあああ」と悲鳴をあげながら顔を覆った。
ーーなんでリーナはそんなに怪力なんだよおおお!
……負けて悔しいわけではなかったようだ。というかいつから勝負になっていたのだろうか?
「それで、りゅーくんはどうして袋を被ったの? あとなんでさっき死ん……気絶しちゃったの?」
「えぇ……言わないとダメ?」
「お互い困ったことがあったら相談するって言ったのはりゅーくんでしょ?」
ーーあー、そんなこと言った……言ったっけ?
「悩みがあるなら言って。リーナ、相談に乗るから」
リーナはいかにも心配そうな顔で、りゅーすけをじっと見つめる。
悩めるりゅーすけになった要因はリーナなのだが、どうやら分かっていないようである。
りゅーすけはひとつ息をつくと、ベッドの上で胡座をかいた。
「リーナはもうちょっと自分を大切にした方がいいと思う……」
「……? 大切にしてるよ?」
「そういうことじゃなくてですね……」
りゅーすけはぽりぽりと頭をかいた。
「前に言っただろ? その……か、身体を洗う時は、ちゃんと鍵を閉めてから洗えって」
「あー、そういえばそんなこと言ってたね」
リーナはなるほどと手を叩いた。
とはいえ、リーナがそれを怠るのも仕方がない。
リーナのいた世界、というより妖精は、異性に対して裸を見せるということに羞恥心がないのだそう。
もちろん身体を洗う際も、特に周りの目は気にせず、鼻歌を混じえて洗うのだ。
妖精の文化としてそれが当たり前。それを直せと言われても、リーナにとっては難しいのかもしれない。しかし……。
「他の世界や国ではそういう人がいるのも分かってる。けど、僕のいる国はその……」
「その?」
「と、とにかく! 恥じらいを持てとは言わないけど、ちゃんと鍵は閉めてね! おやすみ!」
りゅーすけはもう色々と恥ずかしくなり、布団の中に潜ってしまった。
「りょーかい! 次からは服を着て洗うね!」
「そういうことじゃなーい!!」
こういうの書くのは初めてです…………はい。
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