09 永遠トンネル探索隊(後編)
ひゅーひゅー。
「うわー!!」
「りゅーくん!?」
ぶおーぶおー。
「あわわわわあわわ!!」
「りゅーくんったら!」
ぶおんぶおん。
「うぎゃー!!」
「りゅーくん!!」
りゅーすけはゼェハァと荒い息を立てながら、その場に座り込んでしまった。
それはさっきまで全力疾走をしていたからというのもあるが、それ以上に体にまとわりついてくる恐怖が原因である。
りゅーすけはぐびぐびとお茶を飲み、けほけほとむせる。
リーナに背中を撫でてもらないながら、りゅーすけは全身から流れる汗を拭き取る。
「…………」
「…………」
しばし無言だったりゅーすけとリーナだったが……。
「ねぇ、その、りゅーくん」
最初に切り出したのはリーナだった。
りゅーすけは無言のまま、リーナの言葉を待った。
「りゅーくんが行きたくなかったのって、このトンネルが怖いから……とか?」
「…………」
ーーむぬぬ……リーナはなぜ分かるんだ。いつもボケボケなのに……。
りゅーすけはうんとは言えず、隠すようにお茶を飲んだ。
実の所、りゅーすけは暗いところがあまり好きではない。
そもそも暗いところが好きな人はあまりいないとは思うが……。
小さい頃、このトンネルで兄の手を離してちょっとした迷子になったことがあった。
今はもうそんなことなどありはしないが、それでも、小さい頃のトラウマというものはそう簡単には消えてくれない。
このことを言えば、おそらくリーナは心配してすぐに帰ろうと提案してくれるだろう。
それもたしかにりゅーすけの望みではある。あるのだが……。
ーーリーナは僕の夏休みが終わったらあっちの世界に帰る。リーナはこっちの世界のあれこれを沢山見たいって行ってたし……。
りゅーすけのできる範囲ではあるが、リーナのやりたいことは、見たい場所はできるだけ叶えてあげたいと思うのだ。
りゅーすけとてこのトンネルに深い深い思い出があるわけでもない。……いや、ある意味あるか。
とにかく、例えこのトンネルが嫌でも、リーナの叶えたいことならば……。
りゅーすけは震える足を無理やり立たせる。
リーナはりゅーすけの肩に乗り、服を引っ張った。
「りゅーくん、やっぱり怖い……」
「わけがないだろ。何言ってるんだ?」
「へ?」
すっとんきょうな声を上げるリーナに、りゅーすけは無理やり言葉にする。
「さっき行っただろ? このトンネルは僕が学校に行く時に歩く所だって」
「え、言ってないよ?」
ーーあれ、そうだっけ?
りゅーすけは誤魔化すように軽く咳き込む。
「と、とにかく、そんなに心配する必要はないよ」
「ほんとに? 嘘ついたら針千本抜かれて舌も抜かれるんだよ?」
「どっからそういうの聞いてきたんだよ。まぁ、とにかく大丈夫だって」
りゅーすけは真っ暗闇の中、リーナの頭を安心させるように優しく撫でた。一度でリーナの頭をわかった自分がちょっと怖い……。
「それじゃあリーナ、ちゃんと肩に捕まってろよ」
「うん! ……うん?」
言うが早いか、りゅーすけはさっき以上の速さでトンネルを駆け抜けていく。
「ゼェハァゼェハァ……」
「りゅーくん? やっぱり怖い……」
「ゼェハァ!! ゼェハァ!! ゼェハァ!!」
「誤魔化そうとしても意味ないよ! リーナ分かっちゃった……」
「なに? 僕がゼェ……このトンネルをハァ……好きだってことが?」
「ぎゃーくーだーよー! バカりゅーくん!」
……結局、りゅーすけは恐怖に抗えず、リーナはトンネルをじっくり堪能することすら叶わず、無事にトンネルから出ることできた。
もちろん、亡霊などおらず、襲われることもなく。
もしも懐中電灯があれば、こんなことにはならなかっただろうに、と後々後悔するりゅーすけとリーナなのだった。
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