第98話 下層へ向かおう4(宝箱回収開始)
誤字脱字が多く、ご迷惑をかけております。
二日の休みが終わり、順調にダンジョンを攻略する俺たち。
二十五階を越えたころに、
「カリーネに聞いたんだけど、現状で一番深層まで潜っているのは私たちらしいわよ。
もう手を付けられている宝箱もなくなりそうだから、そろそろ宝箱も集めましょうか」
とクリスが言った。
そう言えば、宝箱を一個も開けてなかったな。
ダンジョンと言えば宝箱。
楽しみである。
今まで魔物しか表示させなかったレーダーに宝箱を表示し、しらみ潰しに宝箱の確認と魔物との戦闘を行う。
「マサヨシ」
「ん?」
「レーダーに罠も表示させてね。
見落としがあったら困るから」
周囲が暗いうえに、罠自体も巧妙で見えづらくなっていることもあるのだろう、クリスから依頼があった。
「了解」
罠を標示させるといくつかは有る。
「とりあえず何個かはあるようだが、この周辺には無いな」
「ありがと」
と言ってクリスはリードラの後ろに付いた。
大分深い所に来たせいか、
「さすがに罠付きの宝箱が多いわね」
クリスが言っていた。
罠の解除で時間がかかっているようだ。
すると、
「宝箱ごとマサヨシのカバンに入らないのか?」
と根本的な事をリードラが言った。
ほう、宝箱ごと回収ねぇ……。
確かに宝箱ごと回収してしまえば、宝箱の罠を解除してわざわざ開ける時間を減らすことができる。
ダンジョンの攻略速度が上がるだろう。
「ん?やってみるか」
俺はそう言って、収納カバンの口を宝箱に触れさせてみた。
するとスッと宝箱が消える。
「おっ、入ったね。」
クリス、アイナ、リードラ、マールが目に見えて呆れていた。
「金貨が三十枚と銀貨が二十三枚だってさ」
と言うと、
「えっ、中のものまでわかるの?」
クリスがさらに驚いた。
「罠付き、毒の霧とも書いてある」
「一度収納カバンに入れたら内容物と罠がわかるのね。
罠がわかれば、こちらも処置をしやすくなるから助かるわ。
宝箱を回収しつつ戦って、休みの日にでも庭で罠の解除と開錠ををするわね」
「ふむ、それはいいんだが失敗して毒ガスとかでないのか?」
「大丈夫。
あなたのお陰でDEX上がってるから滅多なことで罠が発動したりしないから」
んー、滅多なことはあるらしい……。
できれば「ない」と言って欲しかった。
宝箱の処理を後回しにしたことで、攻略速度がほぼ元に戻り、一日一階のペースで進む。
その間は中身もそこそこに、とにかく宝箱の回収と戦闘に勤しんだ。
そして、宝箱の回収を始めて初めての休みが来た。
俺はクリスと屋敷の壁沿いに宝箱を出していると、。
「マサヨシ、クリスよ、何をしておるのだ?」
俺たちに興味を持ったのか義父さんが聞いてきた。
「今回の五日間で見つけてきた宝箱を出そうかと……。
まだ、罠の処理をしていないので触らないでくださいね」
義父さんは少し顔を顰め、
「物騒だな。
この屋敷の周囲にも屋敷もあるし人は居る。
変なものが飛び出したりしては困るだろう?
メルヌ側のコカトリスやフォレストカウの居る平原で出したほうが良くないか?」
おう、確かに……。
俺は頷く。
「そうよね」
クリスも同意した。
俺たちは宝箱を回収する。
「間抜けだな」
「ちょっとね」
そう言いながら、義父さんの忠告通りに扉でメルヌの平原へ向かった。
背後に興味を持ったコカトリスとフォレストカウが集まってきている。
あまり気にせず俺は大小の宝箱を出した。
するとクリスは並ぶ宝箱を見て舌なめずりをする。
レンジャーはシーフの上位職らしく腕がなるようだ。
そして、宝箱を出し終わると、黙々と罠を外し始めた。
突然。
「あっ、ダメ!」
とクリスが言った瞬間、俺の目の前を何か光るものが通り過ぎていった。
針だ!
周りを囲んでいたフォレストカウの一頭に刺さると、急に痺れて泡を吹いて震え始めた。
毒針だったようだ。
それも即効性。
急いでキュアーをかけると症状がきえる。
「おい、クリス!
気をつけろよ」
と少し大きめの声で言った。
「ごめん」
シュンとするクリス。
「怪我や毒なら急げばフォローできるだろうが、即死だと困るぞ。
俺も魔法として一応リザレクションとかも使えるだろうが、条件が厳しいんだろ?
それにそんな魔法使ったことも無いし、成功させる自信がないぞ」
「心配してるの?」
「そりゃ……な」
「嬉しい!
わかった、気をつけるね」
再び鼻歌交じりで機嫌よくクリスが罠の解除を始めるのだった。
大丈夫か?
その後はクリスにミスはなく次々と宝箱の罠を解除していった。
防具や武器だけでなく、金貨銀貨に指輪や腕輪などの貴金属が入っている。
「防具や武器、貴金属に付与されているのはサイズ調整の魔法ぐらい。
でも、まともな魔法が付与されているのが一つあったわ」
そう言って一個の指輪を取り出し俺に渡した。
「まあ、あの階層じゃ仕方ないのかしら」
とクリスは愚痴を漏らす。
「ん、ちなみに何の魔法が付与されているんだ?」
「プロテクションね。
飾りは綺麗だから、アクセサリー代わりに着ければ護身にはなりそう。
クラウス様に渡す?
ただ、魔力は装着者から取り込むようだから、魔力が少ない者は使えないかもね」
そう言えば「プロテクション付与」と書いてあるものがあったな。
「だったら、クリスが付ければいい
お前、けっこう魔力あるだろ?」
「えっいいの?」
パッと嬉しそうになるクリス。
「ほい、手を出せ」
俺はクリスの右手を手に取ると薬指に指輪を入れた。
「右の薬指で良かったんだっけ?」
「私は指輪を貰えたから十分。
左の薬指は結婚式で指輪を入れてもらうからね」
クリスは指輪を見ながらニヤニヤしていた。
「この世界でも結婚指輪は左の薬指?」
「当然でしょ?
でね、エルフの結婚式じゃ白金以上の指輪が好まれるの」
「白金以上?」
「そう、オリハルコンやヒヒイロカネ。
ヒヒイロカネは赤く輝くから奇麗なのよねぇ……。
高いけど……」
チラチラと俺を見るクリス。
ねだっているようだ。
それぐらいの甲斐性は必要かね……。
「はいはい、その時には準備するようにします」
しかし、高いけどってどのくらい高いんだ?
それに。クリス、アイナ、フィナ、リードラ、マール、イングリッド、カリーネ、ラウラかあ。
クロエは……どうなんだろ?
指折り考えた。
両手要るのはちょっと問題では?
んーどっちにしろ稼がねばならんか……。
結局、程々の宝箱に数えるのがおっくうになるほどの白金貨をはじめとした硬貨、貴金属がうず高く積み上げられる。
何かの海賊映画の金銀財宝のようだ。
一つの宝箱にまとめた白金貨、金貨、銀貨の山を見て、
「まあ、普通、一度にこんな数の宝箱を開けることは無いんだけど、凄いわねぇ。
お金は……これだけでも子爵家の数年分の予算にはなるんじゃないかしら」
そして、サイズ調整の魔法しかかかっていない男性用女性用を問わず多くの武器防具類が山のようになったのを見て。
「まあ、それでもサイズ調整の魔法がかかっているだけましかしら。
その分普通のものよりは高く売れる」
ボソリとクリスは言った。
実際凄い金額だと思う。
「冒険者って金になるように感じるんだが……」
俺もボソリと呟いた。
「ならないわよ?」
素でクリスが返す。
「何言ってるの?
これはマサヨシだけ。
考えてもみて、これだけの宝箱を転移の魔法陣まで持って帰るってできる?」
宝箱の体積で立方米単位だよな……。
重さでもトン単位。
武器も荷物もある状態で何往復も運べないか……。
「無理だな」
俺は言い切った。
「そう、さっきも言ったけど、あなただからこそできること。
中を見ようと罠を外している所で敵に襲われたりもするの。
それだけ集中が乱されて、失敗する確率も上がる。
よしんば、宝箱を開けても、お金も武器も量が多いとかさばるから持ち帰る量が限られる。
依頼があったらそれを優先でしょ?
結局持って帰った物が売れなくてお金が得られなければ、武器や防具の直しや食料や薬の補給の金額を差し引いたら赤字になるのよ。
私たちのパーティーの後から宝箱目当てで入って来た冒険者なんて目も当てられないんじゃないかしら。
再配置が起こるまで宝箱も魔物も一切その階に無いし居ないんだから……」
「魔物も宝箱もないダンジョンか……。
無駄に部屋を漁って何もなかったら凹むだろうな
ただの無駄足だ」
「そういうことね。
もっと困るのは、魔物が居ないからって奥に進み過ぎた時に急に再配置して、周りは強い魔物だけになる事。
逃げられればいいけど……」
「お金は何かに運用した方がいいのかね?
でもやりたい事もある。
貴金属や武器、防具はは統一感が無いから売り払い?
んー、わからん……どうしよう」
とクリスに聞いてみる。
「そんなこと私にわかるはずがないじゃない」
指輪をした手を見ながらクリスが言った。
連れない対応。
「まずはクラウス様に聞いてみたら?」
とのこと。
でも正論。
「そうだな、そうしようか」
俺は硬貨と武器防具を仕舞うのだった。
あっ、硬貨がカウントされる。
えーっと、白金貨二十二枚、金貨七百七十一枚、銀貨千五十一枚なり……。
「先に帰るけど、どうする?」
「ん?抱き付く」
クリスが急に抱き付いてくる。
「指輪のお礼。
私をあげるわよ?」
「言っただろ?」
「『ダンジョンを攻略するまで手は出さない』でしょ?
それでも、言いたいの。
そんだけ思ってるってことなのよ」
そんなクリスを見て、
「こんな俺をありがとうございます」
俺はペコリと頭を下げた。
「そんなあなただからついて行きます」
と言ってクリスも頭を下げる。
その後自分の顔が赤くなるのがわかる。
そして、頭を上げるとクリスも顔が赤くなっていた。
読んでいただきありがとうございます。




