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第92話 義父さんへのお節介

「ところで、クラウス様は?」

 急にソワソワし始めるプリシラ様。

「義父さんがどうかされましたか?」

「えっ、まあ、元気になられたと聞いたものですから……」

「はい、病気も治り、私が出会った時よりも元気になっていますよ。

 呼びましょうか?」

「呼ぶ?」

 プリシラ様は首を傾げた。

 事情を知っているイングリッドはクスリと笑う。

「はい、この場所に呼びます。

 ちょうど休憩の時間ぐらいでしょうから……」

「えっ?どうやって?」


 おっと、プリシラ様が挙動不審。


「校長?

 マサヨシ様は便利な魔道具をお持ちです。

 ですから、クラウス様をここにお呼びすることもできるのです」

 イングリッドが俺の説明を始めた。

「えっ、ホントに?

 けっ化粧は?」

「ご安心ください、プリシラ様の化粧は問題ありません」

 イングリッドがそう言ったあと、俺は扉を出して執務室に繋いだ。

 ノックをすると、

「おお、マサヨシどうした?

 その扉で来るとは珍しい。

 まあ、入れ」

 と義父さんが言った。

 執務室に入り、

「義父さん、プリシラ・グスマン伯爵が会いたそうだったので、王都の学校の校長室から繋ぎました」

「おお、あのお転婆がな」

「二人はお知り合いのようでしたし、私の収納カバンにはマールが淹れた熱々の紅茶が入ったティーポットもあります」

「そうだな、最近顔も合わせておらんから、お茶でも飲むのもいいかもしれん」

 そう言うと立ち上がり、俺の居る校長室に入ってきた。


「おお、プリシラ殿、久しいな」

 プリシラ様に義父さんが優しく声をかける。

 しかしプリシラ様は声も出ない。

 何なら涙を浮かべている。

「どうしたのだ?」

 固まっているプリシラ様を心配したのか、義父さんが聞いた。

「んー、待ち人が来たからじゃないですか?」

俺が言った。

「待ち人?

 儂がか?」

「ええ、義父さんを待っていたようです。

 推測ですがね」

 俺は義父さんに言った。

「プリシラ殿、そうなのか?」

「私は二度とクラウス様に会えるとは思っていませんでした。

 聞いたのは『原因不明の病気にかかり、自領で療養をする』という話。

 そして『不治の病であり、二度と王都に戻ることは無いだろう』という噂。

 隣国との戦争の時に魔法への過信で戦場に一人突出した私を、魔力切れで今にも敵兵に捕まろうという所でクラウス様に助けていただきました。

 その恩さえ返していないのに……。

 居なくなるなんてズルいと思っていたのです」

「ズルい言われても、実際に呪い由来の病気だったしな。

 儂にそんなにこだわらなくてもいいだろう」

「誰のせいで、私が未婚だと思うのですか!」

「誰のせいなのだ?」

 キョトンとしながら義父さんはプリシラ様に聞く。

「あなたのせいです!

 あなたが私を助けたから、あなた以外を見れなくなった」

「それこそ、そんな事を言われても困る。

 私は子爵家の当主。

 あなたは伯爵家の当主。

 家の事を考えれば、無理なことは明白」

「それでも、クラウス様以外を見られなくなった……」

 プリシラ様は義父さんをじっと見ていた。

「あー、プリシラ様、義父さん?」

 既に揉め始めている話を俺は止めた。

「こんな事を話しに来たのですか?

 このままではお茶が飲めません。

 まあ、まずは茶を飲みましょう」

 時間が進まない収納カバンの利点。

 俺はソファーの前にあった机にマールが淹れた熱々の紅茶が入ったティーポットとティーカップを四つ、クッキーを出した。


「あっ、クッキー」

 イングリッドが喜び手に取る。。

「おお、クッキーか。

 これはいい。

 プリシラ殿もどうぞ」

 義父さんがクッキーを勧めると、

「えっ、ああ、甘い。

 おいしい。

 こんなお菓子は、食べたことが無い」

 プリシラ様も女性。

 甘いものが好きなようだ。


「プリシラ殿は変わらないな。

 何年振りか?

 あの頃のままだ。

 そういえば、エルフの血が少し入っていると言っていたな」

 義父さんはプリシラ様を見ながら言った。

「そう、私の高祖母はハーフエルフ。

 年齢の割に若く見えるのはそのせいなのでしょう。

 それにしても相まみえるのも十五年振りでしょうか……。

 クラウス様との縁談が進んでいる途中、お兄様が亡くなられて私が当主となるため、縁談が破談になった。

 それは家を守るためにしかたのない事。

 私も三十八になりました。

 あの頃でも十分行き遅れでしたが今では財産目当ての男しか来ません」

 苦笑いをしながらプリシラ様が言った。

 クラウス様は私より十二上でしたから、五十ですね」

「そうよな。

『あの時は、なぜこんな若い女性が?』と思ってはいた。

『破談になるのも仕方ない』ともな」

 義父さんは苦笑いをしながら言った。

「そうではないのです。

 あなたは私を助けてくれたではないですか。

 簡単に私を片手で抱え上げ、颯爽と戦場を一騎駆けするクラウス様を見て……私は……」

 プリシラ様は言葉を詰まらせた。

「要はプリシラ様は義父さんが好きなのですね?」

 俺は話をブッ込んだ。

 ボッと赤くなるプリシラ様。

 そして、

「そんなはずはないだろう?

 プリシラ殿はプリシラ殿の父上に言われて私との縁談を進めたと聞いている」

「違います!

 確かにお父様から『クラウス様はどうだ?』と言われました。

 それは私にとって好機だったのです。

 私の好きな人と結ばれるのですから!」

 そう言ったあと、プリシラ様はハッと口を押えた。


 しばらく沈黙が続く。

 俺は口火を切って、

「じゃあ義父さん、頑張りましょうか。

 元気なんですから何とかなります」

 と、義父さんに言った。

「どういうことだ?」

 義父さんは意味がわかっていないようだ。

「プリシラ様には子が居ない。

 このままでは伯爵家は私のように誰か養子をとるか、子をなすしかないんでしょ?」

「そうなるな。

 養子はわかるとして、プリシラが子を成す?

 相手は?」

 俺、イングリッド、プリシラ様の視線が父さんに集まる。

「儂か?」

 義父さんはキョトンとしていた。

「それ以外ないでしょう?」

 ウンウンと頷くイングリッドとプリシラ様。


 プリシラ様が頷いていいのか?


「もう長い間そんな事をしたことは無いぞ!

 無理だろう?」

 義父さんは顎に手を置き考えている。

「んー、それはわからないですけど、多分一緒に寝てもらうだけでもプリシラ様はうれし泣きしますよ。

 あとは、長寿種であるエルフの血が混じったプリシラ様ですから、子を成す確率が低くとも、子供はできるかもしれません」

「そうは言われてもな?

 プリシラ殿の気持ち……」

「私は構いません。

 伯爵家の血統を残すためです!

 私の魔法使いの血にクラウス様の戦士の血が混じればさらにいい血統になります」

 とプリシラ様は食い気味に返事をしてくる。


 まあ、本音は別だろうけどね。


「おっおう」

 プリシラ様の勢いに困惑気味の義父さん。

「こんなふうに言っていますが、プリシラ様は多分義父さんが好きなんです」

 と俺が言うと、

「そう、やはり女は好きな男に抱かれたいものですから」

 とイングリッドが腕に抱き付く。

「ん?」

「だから『女は好きな男に抱かれたい』です。

 言ったでしょう?

 私はあなたが好きなのです。

 何人周りに女性が居ようともです。

 人の事だけでなく、自分の事も考えてくださいね」

「おっおう……」

 俺もイングリッドの勢いに困惑した。


 結局、プリシラ様の勢いで義父さんは付き合うようになる。

 表立っては会えないので、二つの家を繋ぐ扉を作った訳だ。

 後は当人にお任せしてと……。

 ミランダさんも義父さんの変化に気付いたのか髪の飾りなどを付けるようになった。

 んー、何かお節介なことしたかな?


読んでいただきありがとうございます。

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