第86話 下層へ向かおう3(ニ十階ボス戦)
少なくなったクモがアイナとマールが切りつけることで目減りしていく。
残敵をほぼ掃討すると「キシャー」と大きな声をあげ巨大なクモが現れた。
「デカッ」
「大きい」
「確かに……」
胴体だけで二十メートル以上はあり見あげるようなクモ。
足を加えたら倍ぐらいあろうか。
これが、本当のボス……メスグモ。
警戒音なのか顎をカチカチと鳴らす。
その顎には液体……。
液体が床に落下すると煙が上がる。
さっきのクモと同じ酸系の毒なのだろうか。
家族を殺した俺たちに怒りをあらわにしているようだ。
おもむろに電柱よりも太い足が信じられない速さで動きだした。
外殻が堅いのか、床を抉る。
おいおい、俺の高速移動より速いんじゃないのか?
高速移動は時速九十キロメートル程度、その速度を凌駕するメスグモの移動速度。
三人の中で一番の殺傷数を誇る俺にメスグモは襲い掛かってきた。
ヘイトを稼いでたからなぁ。
まあ、その方がアイナとマールに目がいかないから助かるが……。
六本の足を移動用に使い、残りの二本を叩きつけ突き刺すように攻撃してくるメスグモ。
たまに、糸や毒を飛ばしてくるが軽く回避する。
うーん当たりたくないなぁ、死なないまでも痛そうだ。
VITがEXとはいえ、わざわざ痛いことをしたいとは思わない。
しかし、あのクモの移動速度速すぎ。
俺は擦れ違いざまにメスグモの移動用の足を狙って攻撃した。
分断された足がガランガランと音をたてて、体液を振り撒きながら転がっていく。
それでも怯まずにメスグモは俺目掛けて攻撃をしてきた。
その度にメスグモの足をバッサリと切り落とし、一本また一本とメスグモが足の数を減らす。
さすが家宝の剣。
切れ味が増す魔法が付与されているだけある。
俺のSTRの恩恵もあるのだろう。
メスグモ自身の重さのせいか足が一本減るたびに目に見えて移動速度が落ちてくるのだった。
移動用の足が残り二本になると攻撃用の足も使い俺を狙うようになった。
確実に足を狙い、二本の足を切り飛ばす。
「ズン」という音がすると、地面に這いつくばる。
それでもメスグモは体を引きずって俺を狙った。
そして、残りの二本を切り飛ばすとメスグモは威嚇するだけの塊になるのだった。
こうなればこっちのものだ、糸を飛ばしたり、毒を飛ばしたりもするが、ただの砲台のようなもので死角が多い。
メスグモの異変に気付いた生き残ったクモたちが散発的に攻撃してくるがアイナやマールが瞬殺した。
「アイナ、マール、メスグモの後は任せる。
魔力酔いになっても、俺が世話するから大丈夫」
そう二人に言うと、アイナとマールはお互いを見て頷き、クモの胸頭部と腹の隙間に近づき、二人で同時に突き刺した。
「キシャー」という威嚇ではなく苦痛の声のようだ。
メスグモの体からは体液が噴き出した。
しかし二人はぐりぐりと剣を揺すり奥へと刃を差し込んでいく。
すると、メスグモの叫び声は次第に小さくなりこと切れた。
と同時にアイナとマールの体調が悪くなるのだった。
魔力に酔ったのだろう。
ネトネトの体液まみれの二人を魔法で洗うと、アイナを背負いマールを肩に抱き、俺は一度クリスとリードラの元に戻った。
俺の姿を見て、
「アイナもマールも酔ったのだな」
と、リードラは苦笑いしながら言った。
「さすがに、ボスの魔力は大きかったようだよ。
二人とも見事に酔った」
俺も苦笑いをする。
「で、ボスは?」
クリスが聞く。
「デカいクモだった。
あとで見てくれるか?」
「ええ、いい素材なら、回収しておかなきゃいけないし」
「しかし、先に酔ってる二人を屋敷に戻したい。
その後戻ってきて俺とクリスとリードラで拾うか?
素材を放置していたら、何か問題はあるのかね?」
「問題は……ないわ。
まずは二人をベッドへ寝かせましましょう。
ボスが居ないせいで、ボスの部屋の扉が開かないとしても、扉の向こう側にはマサヨシの扉で行ける」
そして俺は扉を出し、五人で屋敷に戻った。
ミランダさん、ラウラ、そしてベルタにフィナが俺たちを出迎える。
「アイナとマールが魔力酔いでな。
二人の服を脱がして、風呂に入れて、飯食わせて、寝かせてくれ」
「わかった、美味しいの作るね」
「タッタッタッタ……」と走って調理場に行くフィナ。
「風呂は私に任せろ!
二人を私に渡してくれ」
胸をドンと叩くラウラ。
「ラウラ、ダメ!
『お任せください』でしょ?
あっ、私も一緒にお風呂に入りますご安心を」
と、ベルタは言った。
凸凹コンビはいい感じらしい。
「いいえ、アイナ様は私が抱きましょう。
ラウラさんはマールを頼みます」
ミランダさんが言うと、
「わかりました」
とラウラが返事をした。
それぞれがてきぱきと動いてくれる。
「アイナ、マール、ちょっと後始末に行ってくるよ。
帰ったら様子を見に行くからゆっくりしてるんだぞ」
と声をかけると、
「「うん」」
と二人は頷く。
そして、再びボス部屋の中に入るのだった。
「ああ、これって、ジャイアントポイズンスパイダーね。
すごい数。
子グモが多い。
誕生したばかりかしら?
ここの大きいのは……子育てを手伝うオスグモ?
どんな魔法を使ったの!
形が無いじゃない!
外殻を売ったらいいお金になるのに」
急に怒りだすクリス。
「仕方ないだろ。
この数を相手しながらアイナとマールを守るために、クリスを助けたときの魔法の強力なやつを使ったんだ。
素材よりは、二人を守りきった俺を気にして欲しいもんだ」
そう俺が言うと、
「ゴメン、言いすぎた」
元気がなくなるクリス。
反省しているようだ。
「別にいいよ。
俺も言い過ぎたかもしれない。
それじゃ、続きを頼む。」
「わかったわ。
これはジャイアントポイズンスパイダーのメスね
大きい……。
こんなメスグモが居るんだ」
俺たちが戦ったボスを見て驚くクリス。
「これは回収ね。
後はオスグモも形があるものは回収」
言われた通りに俺はクモを回収する。
「魔石ってわかる?」
「ちょっと調べてみる」
レーダーに表示させると、無数に光るものが見えた。
オスグモだけじゃなく子グモも持っているようだ。
「けっこうあるな。
時間がかかりそうだ」
それでも魔石を残らず回収した。
領地を経営する必要があるし、ダンジョンの周辺にも街を作る必要もある。
金があるに越したことは無い。
「あとは?」
「もう必要な物は無いわね」
「じゃあ、帰るか」
以前の通り魔法陣を起動させ、入り口脇に戻ると、そこから扉で屋敷に戻るのだった。
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