第85話 下層へ向かおう2(さらに下へ、そしてボス戦の前)
二日ほどすると俺の体調が戻る。
そして、再びダンジョンの下層を目指した。
レーダーで確認した魔物をしらみ潰しに倒しながら、十四階、十五階……十八階層まで進み、その日は問題なく終わる。
各階の敵を全滅させながらという戦いではあったが、マールもアイナも魔力酔いにはならなかったようだ。
「今日は魔力酔いが起こらないな」
とアイナとマールを見ながら俺が言うと、
「マールは元々魔力に親和性の高い種族であるエルフだから慣れたのかもしれないわね。
アイナは既にボス戦で濃厚な魔力を得たことで、耐性が備わってきたのかもしれない」
クリスとそんな話をしていると、降りる階段が見えてくる。
そして、十九階層に降りた時、俺のGな時計から
「ピピピピ……」
と言うアラームが鳴った。
「今日はここまで。
よく頑張ったな。
魔力酔いは?」
と、アイナの頭を撫でながら聞いた。
「うん、今日は気分悪くならなかった。
初めてだね、こんなに頑張れたのは」
アイナは俺を見上げながら嬉しそうに言った。
「強くなったってことだろ」
「そうなんだけど……」
とアイナは残念そうにする。
「アイナ、残念そうだがどういうことだ?」
「だって魔力酔いになったら、マサヨシを独り占めできるでしょ?
美味しい物も作ってくれるし」
と、悪いと思っているのか苦笑いしながらアイナが言う。
「それは確かに……。
私も、旦那様に優しくしてもらえました」
と、マールも言う。
「ふむ、いつもと変わらないつもりなんだがなあ。
気になる相手が体調を悪くしたら普通は優しくなるとは思うんだが……」
「気になる相手」認定が嬉しかったようで、二人はニヤニヤしていた。
「私なんて、放置よ」
「我もだな」
と、文句を言ってくるクリスとリードラ。
「んー、そんなこと言われても困る。
そりゃ、二人の調子が悪くなれば、俺だって心配するんだぞ。
でも、その傾向も無い。
放置しているわけでもないと思うがなぁ……。
ベッドの中では『抱っこ』とか『もっとギュッと』とか言っている奴の相手もしているし」
俺がクリスのことをバラすと、クリスの顔が目に見えて赤くなった。
言うつもりは無かったが、放置だと言われればそうではないと言いたくもなる。
「ばっ、馬鹿!」
「ほう、クリスは添い寝の時にそんなことを言っておったのか」
リードラがクリスを見て笑った。
「いいでしょう?
二人っきりなんてめったにないんだから」
と拗ねるクリス。
「あのな、俺は『全員に分け隔てなく』って訳じゃないだろうが、放置をしているつもりはないんだ」
と俺が言うと、
「ごめん、言い過ぎた」
クリスが謝った。
「だな。
でも、やはり構って欲しいのは嘘ではないぞ。
主の周りに居る者は、主と居たいと思っておるのだ。
それを独占できると聞いたら、羨ましかろう?
我々が愚痴が言うのも仕方ないのだ」
と、リードラが訴える。
「悪かったな。
できるだけ皆と一緒に居るようにするよ。
さあ、屋敷に帰ろう」
そう言って扉を出し、俺たちは屋敷に戻った。
次の日は十九階からの攻略。
それも順調に進む。
「あっ、これで十九階層終わりね。
敵は?」
レーダーに魔物の反応はない。
「見当たらないな」
と言うと、
「それじゃ、下に降りますか」
とクリスは階段を降りた。
俺たちも続く。
そして、その階段を降りるとすぐにデカイ扉が見えた。
マップには一部屋しかない。
ワンフロアが全て一つの部屋になっているようだった。
さて、ここのボスは何でしょね?
レーダーにはでっかい部屋に無数の魔物の光点が映る。
一番奥に一つだけ離れて何かが居た。
あれがボスなんだろうな。
「ボス部屋だねぇ、敵は数えきれないほどだけどどうする?」
「やるんでしょ?」
と、クリス。
「腕が鳴る」
とアイナ。
「旦那様やりましょう」
とマール。
「まあ、何とかなるだろうて」
とリードラ。
皆やる気満々である。
「じゃあ、行こうか!」
そう言って扉を引いたが、動かない。
「ふむ、十階は内開きだったよな」
と俺が言うと、
「外開きだよ」
アイナが蝶番がありそうな場所を指差した。
「あっ、確かに、蝶番が見えません。
押して開ける外開きです。」
マールが言う。
「そんなら」と、押してみたらメチャクチャ軽かった。
「おっとっと」
「あっ」
「キャッ」
バタン
「へ?」
扉が閉まり、リードラとクリスの姿が見えなくなる。
「ああ、またかぁ」
俺は頭を掻いた。
今度はアイナとマールを守りながら戦わなきゃいけないわけか……。
目の前を走る無数の目。
見ると、クモだった。
数えきれない数のクモが俺を襲ってくる。
大きさは三十センチ程度。
黒と黄色の縞々、工事現場の立ち入り禁止板のようだ。
まあ、確かに立ち入り禁止なんだろうがね……。
俺達三人は走り、部屋の角に場所を取った。
俺一人なら走って逃げればいいんだが、今は一人ではない。
そして、後ろから攻撃されるのは困る。
「ここで、踏ん張るぞ。
魔法使うから俺の後ろに居るように」
「「はい」」
アイナとマールはそう言うと俺の後ろに下がった。
俺はマシンガンを両手にイメージして、撃ち続ける。
燃料気化爆弾をイメージして使ったら、熱や爆風更には酸欠で死にそうだな。
こんな狭い所では使えないか……。
チャレンジしたら自滅したなんて目も当てられん。
倒したクモが重なり、小山ようになっていく。
すると、下からは無理と感じたのか、壁を這いあがり上にクモが回った。
レスキュー部隊のように降下してきて途中で止まり液体を降らせる。
スーツに液体がかかると白い煙が上がった。
毒か?
少々髪にかかったが、大丈夫っぽい。
「お前ら、俺の下に来い」
そう言ってアイナとマールを抱え込むと、上に向かって火球を打った。
「ボウン」
という音と爆風の後、パラパラとクモの破片が落下してくる。
飛散した体液がスーツの上で煙を上げた。
「大丈夫か?
酸系の毒のようだったが、被っていないか?」
と、俺が聞くと、
「うん、大丈夫」
「ええ、ご主人様に抱えられるなどご褒美です」
と二人は返事をする。
「マサヨシは?」
「ああ、大丈夫」
さすがシルクモスの服、汚れただけのようだ。
まあ、おれのVITなら何とかなりそうだがね。
実際、服は特に傷みはなかったし、毒が染み込むようなこともない。
ふと落ちてきた足を見ると、
ん、足が長い。
クモのサイズが大きくなった?
足だけで一メートル以上あるぞ?
ああ、これがボス?
てことは、今まではザコだったのか?
これがボス?
奥を覗くと他のクモよりも目に見えて大きく、赤々と光る複数の目がこちらを見ていた。
その前を今までとは違う二メートルほどのクモがカサカサと走ってくる。
いや違う、あれが本当のボスだ。
ならば、今のが中ボスってところかね。
何となくファン〇ジーゾーンの最終面を思い出してしまった。
体が大きくなったクモに弾が当たっても、外殻が固くなかなか止まらない。
豆鉄砲じゃダメ?
それならば……。
俺はフェアチャイルドA-10の三十ミリガトリング砲にイメージを変更した。
某飛行機漫画で髭モジャのドワーフのような男が乗っていた奴の機首についていた奴だ。
昔見た漫画では対地攻撃に無類の強さを誇っていた。
「ブーン」という音がして弾が飛び出す。
本来人の手では抑えきれないはずの武器の重さや反動などはなく、ただ見て取れるほどに大きくなった魔力の弾がスペック通りの毎分三千九百発の速さで飛び出した。
それが両手から飛び出すのだ、完全にオーバースペックである。
当たったクモは大小問わず消し飛ぶ。
元々の形さえ分からない。
圧倒的破壊力で確実に周囲のクモを撃破できるようになり、俺はクモを減らしていく。
前衛に出てきた子グモやオスグモの数が目に見えて減り、まばらに散らばるのみになった。
「アイナ、マール、行けるか。
あとは、残ったザコと奥に見えるボスを倒すのみだ」
俺が二人に声をかけると、「コクリ」と頷く。
俺も家宝の大剣に変更しボスの前へ向かうのだった。。
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