第82話 大暴走というものらしい。
「うーさむ……」
夜、何となく尿意で目が覚めてトイレに向かう廊下は寒かった。
そんな中で転移の扉が開き、メルヌ側からセバスさんが駆け足で現れる。
「マサヨシ様、ちょうど良かった。
冒険者ギルドから早馬です。
これを……」
セバスさんは封蝋が付いたギルドの手紙を俺に渡した。
「これはグレッグさんの?」
「はい、マサヨシ様宛です。
ギルドからの早馬が来ました。
急いでみて欲しいとのことです」
さっそく俺は手紙を封筒から出し読み始めた。
内容は……。
ある冒険者のパーティーが森の中に魔物が溜まって居る場所を見つけたのだ。
種族は関係なく、コボルドからオーク、ジャイアントやその上位種、更にはドラゴンまでが集まっていると調べがついた。
過去の歴史ではこの状況になると魔物たちの暴走が始まると聞いている。
大暴走と言われる現象だ。
今のドロアーテは外壁を閉ざし防御を固めた。
メルヌの外壁ではそうはいくまい。
早急に住民の避難を勧める。
とのこと……。
「大暴走とは?」
セバスさんに聞いてみると、
「数百年に一度、ダンジョンが魔物を吐き出す現象と言われています。
攻略されていないダンジョン内部の魔物の数が飽和した時に起こる現象ということです」
と説明を受けた。
「言われていますとは?」
「原因は解明されていません。
ただ、実際に何度か起こっており、規模によってはいくつもの街が消えたとか……。
「この辺にダンジョンは?」
「私も聞いたことがありません。
ただ、ドロアーテ周辺には森が多く手付かずのところもあります。
そのせいでダンジョンが埋もれて見つからず、大暴走が起こりそうになっているのかもしれません」
「対策としては?」
「基本『門を閉め耐え忍ぶのみ』と言われています」
数千数万の魔物ならば、弱い魔物だったとしても数の暴力で潰される。
一過性のものならば、過ぎ去るのを待つのもいいのかもしれない。
でも……。
「今なら、魔物は固まっている。
全てを倒せば……」
「しかし、そのせいで大暴走が始まっては!」
セバスさんは俺を止めようとした。
危険だと判断したのだろう。
「セバスさん、それでも少なくとも数は減らせるだろ?
その分は被害が少なくならないか?
今は数を減らすことを優先したい」
「しかし、大暴走に参加する魔物の数は数千数万だと言われています。
人がその魔物の相手をできるとは考えられません」
「それぐらい相手にできなければ、鬼神の息子とは言えないよ。
リードラを連れて行く」
「えっ?」
「子供はいい。
大人たちを起こして屋敷への住民の受け入れ。
魔物が来たら、屋敷で防衛。
できるだけ早く戻ってくる。
義父さんにもこの手紙を見せておいて」
「たった二人で行くのですか!
では私も……」
「セバスさん、ちょっと待って!
俺はバケモノ、リードラは高位のドラゴンだ。
死にはしないよ。
空も飛べる。
セバスさんは、義父さんの世話もある。
悪いがセバスさんは俺よりは弱い。
居ても邪魔になる。
だから、義父さんの傍に居て、街を守るフォローをしてもらえると助かるんだ」
そう言うと、セバスさんの返事を確認する前にリードラの部屋へ行った。
「何だ?主よ夜這いかの?
我は準備はできておるが」
リードラが体を起こして言った。
この件多いな。
夜に訪問すると夜這いになるのかね?
鱗をローブ状にしていないので、全裸なのがわかる。
見えそうで見えないが、そこは気にしないでおこう。
「んー、残念。
お仕事だな」
と俺が言うと、
「だろうな」
リードラはそう言って苦笑いだ。
「ダンジョンの大暴走が起こりかけているらしい。
今なら魔物たちが集まっている。
暴走が起こる前に、潰せるかなと……」
「無茶を言う。
大暴走は、数万の魔物が吐き出されるというのに」
リードラは全裸で立ち上がると鱗を変質させローブを纏う。
「生き残るなら、俺とリードラぐらいじゃないか?」
あーあ、意識して魔物をレーダーに表示させたら、ドロアーテの方向に魔物の塊が見えるな。
レーダーの縁が光り輝いてるや。
俺が廊下を歩き始めるとリードラは俺の左後ろに付いた
「さて、行こうか」
庭に出てそう言うと、リードラはドラゴンの姿に戻る。
その背に俺は乗り、光点が集まる場所へ飛んだ。
光点同士が近づきすぎているのか、レーダーは点ではなく面で光っていた。
上から見ると、魔物の赤い目が光る。
〇ウシカ状態かよ!
怒りに満ちているって?
「おるわおるわ……
主よどうするのだ?」
リードラが声をあげた。
「そうだなあ……。
俺らにできることって言っても、魔法で削ってあとは戦うしかないんだけどね」
核は……むりだなぁ。
あと知ってる範囲攻撃と言えば……イメージするなら燃料気化爆弾。
可燃性ガスを高圧にして一気に膨張させた後に点火だな。
事象の元を魔物たちの中央に作ったあと、安全な距離まで離れ、魔法を起動する。
「リードラ、俺が逃げろって言ったら、全力で逃げてくれ」
「心得た」
俺は魔物たちの中央に燃料気化爆弾をイメージした魔法を仕込む。
「さあ、逃げろ!」
リードラは翼を畳み、空気抵抗を小さくして飛び始めた。
俺はリードラの前に風よけの魔法を展開し更に空気抵抗を減らす。
一瞬「ドン」という音がしたから、音速を越えたようだ。
どのくらい離れただろうか……安全な距離を取ったと思った時に魔法を発動させた。
小さな光が見えるとそこから白い雲が地を這う。
衝撃波が走ったようだ。
光が更に大きくなり、黒い雲を巻き込んだ大きなきのこ雲になった。
しばらくすると「ドーン」という轟音が聞こえるのだった。
「これが主の魔法」
「これは対魔物だけだな。
使ってしまった後でなんだが、この世界には必要ない。
戦争で使ってこの数の人を殺したら俺が耐えられないと思う。
要は小心者なんだよ。
お前ら女性陣だけで手いっぱいだ」
苦笑いしながら俺は言った。
爆風が去り魔物が居た場所を確認すると、魔物の屍の中に巨大な魔物が立っているのだった。
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