第81話 下層へ向かおう1(マールの参加)
第80話をでぶでぶ様のご意見を参考に加筆修正をしてみました。
時間がありましたら読み直してもらえると幸いです。
アイナも年が明ける前までには魔力酔いから復帰し元気になっていた。
魔力を得て強くなったのか、漂う雰囲気が違う。
「アイナでは儂の相手としては強すぎる。
今後はラウラとやろう」
と義父さんが苦笑いしながら言っていた。
と言うことで、アイナの相手はクリス、義父さんの相手はラウラになり、バランスが良くなったようだ。
朝から暇そうだったクリスもアイナにやられないよう頑張っている。
そして、久々のダンジョン。
扉で十階の魔方陣の場所へ向かう。
いつもの四人にマールが付いてくる。
俺の扉は正式な入り口ではないため、マールも入ることができるようだ。
「戦いのフォローをするのもメイドの勤め」だそうな。
玄関で目を見ながら言わなかったのは嘘混じりの部分もあるのだろう。
「仕事は?」
「ベルタがメイドとして育ちまして、よく働きます。
あの子もマサヨシ様の奴隷ですから、能力が上がっているのでしょう。
ラウラの指導も彼女で十分かと……」
セバスさんが手を振って「行かせろ」アピールをしたので、
「わかった。
でも、無理をしないように」
と、許可を出した。
「ちなみにマールは魔物と戦ったことがあるのか?」
と聞いてみると、
「私もメイドの端くれ。
護身術鍛練と体の強化で魔物と戦ったことはあります。
数は少ないですが……」
自信がないのか後になるほど声が小さくなった。
「でも、戦闘術と暗殺術はセバスさんに教わりましたので、何とかなるかと……」
そうマールが言ったあと、セバスさんをチラリと見ると、苦笑いしながら頭を掻いていた。
「メイドに暗殺術は要らないと思う」
と俺が言うとマールは、
「それは違います。
暗殺術を知っているからこそ、主人を守ることができるのです」
と言いきった。
そう言う考え方もあるか。
さっと俺の横に来ると、
「ココだけの話ベルタもセバス様に戦闘術と暗殺術を学んでおります。
多分、ラウラより強いのではないでしょうか?
セバス様も筋がいいと言っております」
セバスさんとマール、ベルタに諜報部隊でも率いさせたほうがいいのかね?
「まあ、アイナにしろマールにしろまだ魔物の魔力には弱いだろうから、どちらかが魔力酔いになったら、帰る方向で……」
と俺は言う。
思ったようにはいかないものだ。
週休二日なんて思ってても、その通りにいっていない。
まあ、体調を考えながら安全第一で……。
そう考えながら、Gな時計のタイマーを二時間に設定するのだった。
十一階層以降は巨大コックロや蛾の幼虫や成虫、カマキリのような昆虫系の魔物が現れる。
中にシルクワームの幼虫が居なかったのは残念。
それを無心に狩るアイナとマール。
冒険者の数が少なくなるせいか、敵の遭遇率が上がっていた。
しかし、アイナは聖騎士の剣で固そうな殻をバターを切るように両断する。
マールはナックルガードがついたミスリル製の短剣二本で殻の隙間を狙い、足を切り落として動けなくしてから急所を的確に攻撃していた。
セバスさんがマールのために武器屋にオーダーしたものらしい。
なにげに準備万端。
「出番がないのう」
と、暇そうなリードラ。
「気を抜いちゃダメでしょ」
クリスは冒険者歴が長いせいか、周囲の確認を怠らない。
「確かに、後ろからなにかが急速に接近しているな」
レーダーで周囲を確認していた俺が振り向くと、そこには大きなカブトムシ。
角込みで五メートルほど。
外殻は、銀色に輝いていた。
「ジャイアントビートルじゃない。
これはいい鎧の材料になるわ。
金属色だから見た目もいいし、下手な金属より硬くて軽い。
タロスに鎧を作ってあげたら?
あなたの騎士団の団長にでもするんでしょ?」
とクリスは言ったが、そんなことはお構いなしに俺に襲いかかるジャイアントビートル。
角で突き上げられそうになるのを耐えながら、
「ちょっとは心配しろよ」
と、俺が言うと、
「マサヨシなら大丈夫」
クリスはニッコリ笑って言った。
俺は「援護がない」と確信すると、家宝の大剣を片手で抜き関節の部分をぶった切る。
頭、胴、腹のパーツに分断すると、白い体液が噴き出した。
ばらくうねうね動いていた足が気持ち悪かったが、動かなくなるのを確認すると、収納カバンに仕舞った。
すると、
「「マサヨシ(様)すごい」」
というアイナとマールの声とともに羨望の目が刺さる。
「えっ、ジャイアントビートルはそんなに強かったの?」
と俺は聞くが、そんな言葉は無視され、
「アイナ、マール。
マサヨシは別物。
ステータスに関しては化け物。
真似をしてはならんぞ。
魔物を弱らせ確実に殺るのだ」
と、リードラが諭すように言っていた。
その説明もどうかと思うが……。
その後そっと、
「あの二人ではちとしんどいかもな」
とリードラが教えてくれた。
そろそろ休憩かな?
と思っていると、
「あっ」
マールのメイド服のスカートが切り裂かれ太ももが見えた。
巨大なコックロの尖った足が当たったようだ。
浅く切れたようで血が流れている。
すかさず、リードラがフォローに入ると、十階のボスから手に入れた肉切り包丁のような剣を両手に持ち、周囲に居るコックロを外殻ごと叩き切り瞬時に殲滅した。
それをマールは唖然と見ている。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
「にしても、メイド服のまま戦うのもどうかと思うぞ?」
と聞くと、マールはニコリと笑って、
「私はあなたのメイドですから。
ベッド以外あなたの前ではこれが私の仕事着なんです」
と糸と針で穴を補修しながら言った。
そういや、寝間着以外の私服を見たことはないな……。
「ガントさんに言って、シルクモスの布でマール用のメイド服をあつらえてもらうといいよ」
「えっ、いいのですか?」
「ダンジョンの服装がメイド服なら頼めばいい。
怪我をされては困る。
布が無いと言われたら、庭でウロウロしている幼虫を連れて行くといい」
マールはぴょんと跳ね、嬉しそうにしていた。
「アイナもクラウス様もマサヨシも持ってるわよねえ。
マールがいいなら、私もいい?
普段着と鎧下が欲しい!」
本当に欲しいのだろう、クリスは上目遣いでねだる。
「なんでだよ」
「シルクモスの幼虫の服なんてめったに手に入らないもの」
じっとクリスに見られた後、俺はため息をつくと、
「ああ、いいぞ。
ただし、義父さんとアイナの分で布が残っているかどうかもわからないんだ。
依頼するのならばマール、クリスの順番、それでいいな?」
「いいわよ。
今日の分が終わったら、早速マールと頼みに行くわね」
「リードラはどうする?」
「我は鱗だからのう。
欲しくなったら言うのでいいぞ」
まあ、リードラは鱗で色も形も変えられるから、それでいいのかもしれない。
「我は服を脱ぐのは面倒だ。
すぐに襲えんからな……」
と言う声が聞こえたのは無視しておこう。
再び二時間の設定をして魔物と戦う。
その間に十三階層程度まで降りることができた。
するとマールの動きがおかしくなる。
「酔ったか?」
と、俺が言うと、
「いえ、行けます」
とは答えたが、あからさまに表情が険しく息が荒い。
「いいや、ダメだな、今日はここまで」
アイナも少し酔っていたようで、俺がそう言うとコテンと座った。
「私はギリギリかな」
と、アイナが言う。
「じゃあ、帰ろうか」
こうして俺たちは家に帰るのだった。
俺に抱かれたマールを見て、
「アイナだったら我慢できるんだけど、マールだと少し悔しいのよね」
クリスの一言。
「そうだのう。
アイナだったら許せるのだが、マールだとちと悔しいのう」
リードラの一言。
大人体形と子供体形の差かね?
「お前らだって魔力酔いしたらこうして連れて帰ってやる。
文句言うな。
クリスなんて助けてからドロアーテまでずっと抱っこだっただろうに」
高速移動の件を言う。
「そっそれは、あの場合仕方ないじゃない?」
「だから、今は仕方ない」
と笑いながらクリスに行った。
「うー」
何とかクリスを丸め込めたかな……。
「我は?」
じっと見つめるリードラ。
「んー、無いね。
そもそも、体調悪くなるの?」
「んー、ごくたまにだの。
十数年に一回
脱皮の時だろうか?」
「だったら、その時にしてやるよ」
「わかったぞ。
期待しておるからな」
そう言うと、リードラはニコニコしていた。
近いのかね?
フラグ?
何故だか魔力酔いをするとパン粥と言うのが定番になっているようだ。
マールの風呂はさすがにクリスに頼んだ。
しかし、マールが涙目だったのは何でだ?
俺が作ったパン粥を差し出すと、マールが首を振る。
「フーフーが欲しいです。
旦那様に冷やしてもらいたいのです」
「こんな時しか甘えられないか……。
まあ、いつも頑張ってもらっているし良いかな?
でも、ダンジョンに攻略に参加した理由はこれをしてもらいたいからとかは無いよな?」
と言うと、
「えっ、いいえ、決してアイナ様が羨ましかったとかそういうことでは……」
とあからさまにマールは動揺した。
「態度でバレバレだろう」
認めたのかマールがシュンとする。
「俺が黙っておけばいい事だから言わないが、わざわざ危ないダンジョンに来る必要もなかろうに」
「でも……好きな人の傍に居られるというのは嬉しいんです。
アイナちゃんやクリス様、リードラ様が羨ましかったんです。
私だって、旦那様の奴隷になり能力は上がっています。
だから、セバスさんに無理を言って戦闘術と暗殺術を学んでいたんです」
「許可も出したからな、付いてくるなとは言わない。
でも、無理はしないように」
そう言うと、俺はスプーンに掬ったパン粥を冷やしマールの口に運んだ。
パン粥を食べ終わり、食器を調理場に持って行こうと立ち上がると、じっと俺を見るマール。
「どうした?」
「アイナ様は添い寝でトントンとしてもらったとか」
「それをしろと?」
「私の口からは言えません」
結局それって言っているのと同じだろうに……。
俺は食器を一度置くと、マールの隣に横になり、マールの背をトントンと叩いた。
すると、マールはスースーと寝息を立てすぐ寝てしまう
「これでよろしいでしょうか、我儘メイドさん」
そう言ったあと、俺は食器を片付けに調理場へ向かうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
予約設定ミスってしまいました。
ちょっと早め投稿です。




