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第8話 男女別々の部屋にしたくても、部屋が無くて大部屋になる。

「とりあえず、昼めし食って宿にしよう。

 クリス、宿ってどうやって見つけるの?」

 宿の捜し方がわからない俺はクリスに聞いてみた。

「宿は冒険者ギルドで斡旋してくれる。さっきの受付嬢に聞いてみたら?」

 奥に居たリムルさんに、

「すみません、宿の斡旋をしてもらいたいのですが?」

 と頼んでみると、リムルさんは俺の前に座り、

「畏まりました。どのような条件にしましょう」

 と聞いてくる。

「一人部屋を二……」

 と俺が言うと、食い気味に

「有りません」

 とリムルさんが言った。


 早くね?

 否定が早すぎるぞ?


 すると、

「そうね、二人部屋でベッドは二つでも一つでもいい。

 できれば部屋に風呂もトイレもあるといいわね。

 一泊一人銀貨三枚でどう?」

 後ろからクリスが割り込んできた。

「いかんだろう? いくら奴隷とはいえ俺と一緒に寝ることは無い」

「私らしくすればいいと言ったじゃない。

 私はマサヨシと同じ部屋でいい。だから二人部屋!」

 言い切るクリス。

 リムルさんが、

「マサヨシ様、申し訳ありませんが今の状況では一人部屋を二つ取ることはできません。

 宿屋からの斡旋分では、現在二人部屋が三つあるだけです。

 その中で、クリス様の条件に該当するのは一件。

 木漏れ日亭ですね。

 この部屋のベッドは二つですので一緒に寝るということは無いかと……」


 妥協案か……。


「わかりました。その木漏れ日亭の宿をお願いします」

 俺がそう言うと、リムルさんはサラサラとメモを書き、

「これをお持ちください」

 と言うと俺にメモを差し出した。

「ありがとうございました」

 と言って俺は受け取ると、クリスと一緒にギルドの外に出るのだった。


 メモにはギルドから木漏れ日亭への道のりと、紹介者であるリムルさんのサインがある。

 メモの通りに行くと「木漏れ日亭」と看板を掲げた宿屋が見えてきた。

 中に入り、

「すみませーん」

 と声を上げると、

 カウンターの奥から主人らしき女性が出てきた。

「木漏れ日亭にようこそ、私は女将のルーザです」


 結構なお年かな? 

 細身で白髪。

 背はクリスくらいか。


「宿取りたいんですけどいいでしょうか。

 これがギルドからの紹介状です」

 ルーザさんにメモを渡した。

「はいはい、冒険者ギルドの紹介ですね。

 えーっと、風呂トイレ付きの二人部屋。

 はい、ございます。

 一泊お一人様銀貨二枚。

 朝食と夕食をつければ一回につき銅貨二十五枚の追加になります。食事代は宿を引き払う時に清算していただきます」

 俺はチラリとクリスを見ると、クリスが頷いている。


 妥当なのだろう


「女将さん。

 とりあえず一週間でお願いします。

 場合によっては変更があるかもしれません。

 短くなっても返金は有るのでしょ?」

 とクリスが聞く。

「はい、それはもう」

「それでは、とりあえず一週間で押さえてもらえますか?」

 クリスがそう言うと、

「それでは、ここにお名前を」

 宿帳を出してきた。

 そこに俺は俺とクリスの名を書く。

「それではお部屋の方へお連れします」

 ルーザさんは鍵を取り

「では行きましょう」

 そう言うと、俺とクリスを連れ部屋へ向かった。


 扉を開けると居間。

 ツインの寝室が入って左にあった。

「こちらがお風呂になります。

 この浴槽にある魔石に魔力を通すとお湯が出ます。

 同じく蛇口にある魔石に魔力を通すとこちらからもお湯が出ます。

 水も出ますので適温にしてお入りください」

 続いて、トイレの説明だ。

「この棒を引っ張れば水が出ます。

 拭き取りはそこにある木の棒か、魔法が使えるなら洗浄魔法でお願いします」


 一応水洗なんだな。

 ただ、ウォッシュレットは無い。

 木の棒でケツを拭く気はないので洗浄魔法はウォシュレットをイメージのあとドライヤーのイメージで確定だな。


 クリスとかどうしてるんだろ……。

 さすがに聞けないな。


 トイレに溜まったものは浄化槽のような物があって、そこに増殖できなくしたスライムを飼うことで処理しているそうだ。


 意外とゲノム編集?


「これで説明を終わります。何か質問がありますか?」

「ありがとう、よくわかりました」

「当然、事前に確認は行いますが、お風呂の掃除やシーツの交換でお部屋に入ってもよろしいでしょうか?

 洗濯物も部屋に据え付けの洗濯籠に入れておいてもらえれば洗濯しておきます」

 綺麗な風呂とシーツ、衣服の洗濯をしておいてもらえるのは助かる。

「よろしくお願いします」

「畏まりました。マサヨシ様、クリスティーナ・オーベリソン様しばらくの間ですが、ごゆっくりしてください。

 これがこの部屋の鍵になります」

 ルーザさんは俺に古めかしい鍵を渡す。

「それでは失礼しますね」

 そう言うとルーザさんは部屋を去っていった。



 俺は収納カバンをベッドの上に置いた。

 クリスも袋を別のベッドの上に置く。

「俺、湯を入れてくる。

 そんで、風呂に入るからな。

 入ってくるなよ」

 そう言って風呂場の方へ向かう。


 浴槽の魔石に魔力を送り込むと、数秒で湯が張れた。

 手を突っ込むと、適温。


 いいねぇ。


 下着の着替えが無いので脱衣所で服を脱ぐと、洗濯機と乾燥機をイメージした魔法でワイシャツと下着を洗って乾燥させた。

 衣類の乾燥を終え、備え付けのタオルを持ち風呂場に入る。

 そしてかけ湯をすると、俺は浴槽に浸かった。

「あ゛―――、気持ちいい。

 この世界にも風呂があるのは嬉しいな」

 そう言って天井を見ていると、サラサラと何かがこすれる音。

 脱衣所を見ると人影。


 衣擦れの音だったか……。

「入ってくるな」は芸人の振りのつもりはなかったんだがな……。


「クリス、一人で入れよ」

 俺が言うと、

「もう遅い、来ちゃった」

 そう言って何も隠さずクリスが現れた。

 色白の体に、編んだ髪を下ろして、かかとぐらいまで伸びる髪。

 はっきりとしたボディーラインが俺を誘う。

 しかし、これがクリスの肢体。

「バカ、見せるな。お前の好きな者に見せればいいだろ?」

「マサヨシ、私が今好きな男はあなたよ」

 そう言って隠そうとしないクリス。

 そして、俺に体を見せつけながら話を始めた。

「ある日、私は奴隷商人に捕まってしまった。

『珍しいエルフの冒険者』ということが理由。

 ドロアーテの豪商に見初められたみたい。

 フーティーの街で食事に薬が入っていたみたい。

 目が覚めればこの隷属の紋章が付いていたの。

 奴隷として調教が始まる。

 処女として残されたのは商人の意向だったみたい。

 そんな私を救ったのはマサヨシ。

 私を助けてくれた」

「言っただろ?

 俺はその気はないよ。

 何度も言うが、嫁さんの顔がちらつくんだ。

 だから、今はダメ。

 ただの逃げかもしれないが、踏ん切りがついていない」

 俺はクリスの裸から目をそらした。

「自信無くすわね。少しは反応するかと思ったけど……」

 苦笑いのクリス。

「んー、十分クリスは綺麗だと思うぞ?

 でもな、好きになった女を嫁さんにするって結構な縛りだと思うんだ。

 一生ずっと暮らす覚悟をする訳だからな。

 その覚悟の余韻が残っている。

 だから、もう少し待って欲しい」


 脈略の無いこと言ってるなぁ。

 情けない。


 俺は鼻を掻く。


「私はエルフだから、あなたが踏ん切り着くまで待ってあげる。

『今は』って言ってたしね。

 でも、あなたがお爺さんになる前には踏ん切りをつけてね。

 でないと、あなたの子供を作れないから」

 ニコリと笑うと、クリスは風呂に飛び込み抱き着いてきた。


 お互いに体を洗い、ドライヤーをイメージした魔法でクリスの髪を乾かしながら、脱衣所に置いてあったブラシでクリスの髪を梳かした。

「あっ」

「んっ」

 とか、妖しい声を上げるクリス。

 そのうち金色でストレートな髪になる。

「これいいわね」

「だろ?向こうの世界の道具をイメージした」

「お風呂の時は乾かしてくれる?」

 クリスが甘えてきた。

「ああ、それくらいなら」

 そんな約束をして、リビングに戻った。


 その後、食事を取って部屋に戻ると、クリスは分かれていたシングルベッドを繋げ、強引にクイーンサイズのベッドを作る。

 俺をチラリと見て、

「じゃ、お休み」

 と言って、大きくなったベッドで眠り始めた。

「一緒に寝る」という意思表示らしい。


 まっいっか。


 クリスの細い背中を確認すると、

「おう、俺も寝る」

 そう言って、俺もクリスを背にするように寝るのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通に面白い 凄く読みやすい [気になる点] 年齢が若返っているのに、体型が変わらないってことは何で年齢を判断してるのかが気になった。 [一言] 異世界行った初日に初対面の人と同じベッドで…
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