第79話 また増えました。
大集会が終わると年明け行事のようなものは終わったようだ。
朝の訓練を終え、朝食も食べてコタツで寛いでいると、玄関に誰か来たようだった。
セバスさんがラウラを連れて現れる
「マサヨシ殿、末永くお願いする」
ラウラは頭を下げた。
「結果は一年半でいいんだけど……」
「いいえ、私の答えはもう決まっておるのだ。
あなたのような強い者はおらんだろう。
だから、あなたと添い遂げる」
「『屋敷に住む』って言うのは義父さんとヘルゲ様で決まってたようだから、好きにしてもらっていいよ」
ちょっと適当に扱ってしまったかな?
と思ったのだが、ラウラは少し身もだえていた。
ラウラはそっち系らしい。
既に部屋の準備が終わっているのは知っていたので、
「セバスさん、部屋のほうへ連れて行ってあげて」
と、言っておく。
「畏まりました」
セバスさんはラウラを連れ、部屋へと向かった。
手伝いの業者なのか下男なのか分からない男たちが荷物を持って続く。
それをコタツに横になって眺めていると、
「おはようございます、マサヨシ様」
何度も聞いたことのある声だが、屋敷で聞いちゃいけない声がした。
「イングリッドじゃないか。
どうかしたのか?」
再び体を起こし、声のほうを見る。
「えーっと、朝食を頂こうかと……」
ばつが悪そうな顔をしている。
「王城でも食事は出るだろう?
ここより豪勢だと思うのだが?」
「でも、王や王妃とともに食べる食事は料理が温かくとも会話もなく雰囲気は冷たいのです。
ですから、私は少し食べると部屋に戻ってしまいます。
しかし、それでは少し足りなくて……。
それに、王城ではいいものが出ますがここより美味しいものは出ません」
「食事の後から来るのは良いとして、学校は?」
「準備もありますから馬車が出発する時間には戻ります」
「まあ、遅刻しないようにな」
そう言うと、イングリッドは食堂へ向かった。
その後ろ姿を確認すると俺は再びコタツで横になる。
すると、
「さっきの誰?」
と言う声と共に背中に手を入れられる。
冷たいっ!
と思って振り返るとクリスが居た。
「誰も何も見たことはあるだろう?」
「ええ、イングリッドの護衛だった娘でしょ?」
クリスはコタツに正座で入ると、俺の背中で再び手を温め始めた。
「そう」
「『そう』って、それが何で屋敷に?」
「仕方ないだろう?
伯爵様から子爵への縁談だよ。
断りたくても断れまい?
位が違うんだから……。
それも義父さんとヘルゲ様の間で話はついていたようだ」
「ふーん。
で、どうするの?」
「向こうは、うちに来る気満々だからね。
俺の意志は関係ないらしい。
別に本妻でなくてもいいということだ」
「だったらいいわ。
私が一番に会ったんだから、本妻にしてもらわないと……」
「そこ、こだわるんだ」
「当然」
胸を張るクリス。
「まあ、じゃじゃ馬とはいえ王女だからなぁ。
伯爵よりは上になるか……」
「そんな事よりも私が一番にマサヨシに会ったんだから、私が本妻」
「まあ、それはどうでもいいんだが」
「どうでも良くない!」
クリスの声をスルーして、
「どうやって、クリスの結婚の許可を貰いに行くかなぁ……。
クリスの父親である王に言わなきゃいけないんだろ?」
ハア……とため息をつく俺。
「それはまあ、ダンジョン攻略が終わってからでいいんじゃない?
子供ができてからでもいいし……」
クリスはポッと頬を染めた。
「えっこっちの世界の結婚ってそんなもの?」
「そうね、人についてはわからないけども、エルフの世界ではそんなものね。
私の父もお母様に手を付けて兄様ができてから王妃にしたって聞いてるし……。
特にエルフは子が授かり辛いから『できたから結婚』というのもあるの」
「まあ、しばらくは様子を見るか。
向こうからの接触もあるかもしれない」
「どうなのかしらね。
私も手紙を書いたことないし。
私が今どこに居るのか把握してるのかしら?」
クリスは顎に手を当て考えていた。
そうだよな、ドロアーテやメルヌの街から一気にオウルに飛んだ訳で……。
クリスの後を追う者が居ても見失っているかもしれない。
奴隷に落とされても助けが来なかったぐらいだ、その前から見失っていたのかもなあ。
「手紙ぐらいは出しておけよ、それだけでも喜ぶかもしれない。
『バカ』な子ほどかわいいというからな」
「『バカ』は余計よ。
でも手紙ぐらいは書いておこうかしら。
差出場所はドロアーテ辺りで……。
手紙を出すときは連れて行ってね」
「ああ分かった」
俺がそう言うとクリスは早速コタツを出て俺の部屋に向かったようだった。
手紙を書きに行ったのだろう。
その後、マールとベルタが現れる。
その後ろにひときわ背の大きなピンク髪のメイドが現れる。
「マール、まさかラウラか?」
「はい、花嫁修業と言うことでベルタの下でメイドとして働いてもらいます」
「私の下、いいわねラウラ」
とベルタがラウラに確認をする様に言う。
「おいおい、ラウラの事を呼び捨てでいいのか?」
「ラウラ様が言いましたので、私どもはそれに従っているまでです」
マールが答える。
「私は新参者。
底辺からの出発でいいのだ」
「言葉!」
マールの厳しい声が飛ぶ。
「いいのです」
と、ラウラが言うと、
「よろしい」
と言うマールの声が響いた。
「お前、騎士団は?」
「やめた。
どうせ、自分の伴侶を見つけるために入っただけだしな」
いつもの言葉で話してしまうラウラ。
すると再び、
「ご主人様への言葉づかい!」
とマールの声が飛ぶ。
「やめました。
どうせ、私の伴侶を見つけるために入っただけですので……」
と、ラウラが言いなおす。
マールの声が飛ぶたびに、快感に震えるのはやめような。
「まあマールもベルタもラウラも程々に」
「畏まりました」
マールが頭を下げると、ベルタ、ラウラと順に頭を下げ、メイドの仕事に向かうのだった。
花嫁修業ってあんなのだったっけ?
ミランダさん、マール、それにベルタ? 指導の下、ラウラの花嫁修業なるものが始まるようだ。
クリスが手紙を書き終わると、俺のところにやってくる。
俺とクリスはドロアーテの冒険者ギルドに行ってリムルさんに依頼してエルフの国へ手紙を出す。
そして帰りがけに、
「奴隷になったけど、いい男を見つけて同棲してるって書いたから、騎士団辺りが飛んでくるかもね」
と揉め事のフラグの話をするクリスが居た。
奴隷落ちした王女の所有者ってだけでも揉めそうだ。
どうなることやら……。
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