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第75話 大集会

 正月の初登城は年明け二日目。

 その日は王都に滞在する貴族が集まるらしい。

 人によっては遠くからのお出ましになるようだ。


 俺は謁見の広間で立っていた。

 義父さんとアイナは楽しげに話す。

 アイナを連れてきた理由を聞いてみると、義父さん曰く、

「イタズラだよ」

 とのことらしい。


 王に会わせてみようとのことなのだろう。


 既に何人もの貴族が集まっており。

 その中でも義父さんに注目が集まる。

 十年もの長き間、病に臥せっていた鬼神が大集会に現れたせいだろう。


 そんな中、キョロキョロと何かを探してうろうろするイングリッドを見つけた。

 藍色の濃いドレスを着ている。

 俺と目が合うと、パタパタと俺のところに来て、

「やっと見つけました。

 クリスティーナ様から今日おいでになると聞いていたんです」

 と言ったあと、

「こんにちは。

 今年もよろしくお願いします」

 と、俺と義父さん、アイナに新年のあいさつをした。

「これはこれは、イングリッド殿下。

 こちらこそよろしくお願いします」

 と、義父さん。

 イングリッドが丁寧に言われるのを嫌っているので、

「今年もよろしく」

 と、簡単に。

 アイナも、

「よろしく」

 と淡白に返した。


「それにしてもドレスが似合ってるな」

 と俺が言うと、イングリッドは目に見えて赤くなり、

「マサヨシさんもその服、似合っています。

 あっ、お三人方ともシルクモスなのですね。

 しかし、シルクモスにしては少し違うような……。」

 と、首を傾げる。

「そう言えば、義父さん。

 ガントさんに服を作ってもらうと言っていましたね」

 聞くと、

「ああ、ガントの店で作ってもらった。

 アイナも連れてくる予定だったのでな、ついでにアイナの分も作ったのだ」

と言ったあと、

「『ちょっと違う』というのは、布地がマサヨシが見つけてきたシルクモスの亜種から作られたものだからかもな」

 とイングリッドに説明をする。

 それを聞き、

「亜種ですか?

 それは貴重ですね」

 と言ってイングリッドは驚いていた。


 義父さんは隷属して変化したとは言わなかった。

 「隷属化によってステータスが上昇する」というのは言わなくていいことという判断なのだろう。


「可愛い?」

 アイナが俺を見上げて聞いてきた。

 白いドレス。

 レースのかかったスカートがアイナによく似合っている。


 ガントさん、こういうのもできるんだな。


 アイナに

「ああ、アイナ、可愛いぞ。

 そのドレス、似合っているな」

 と言って俺が褒めると、アイナの顔も赤くなる。


「この前お土産でいただいたあのコタツのお陰で、冬を快適に過ごすことができています」

 と、イングリッド。

「そりゃ良かった」

「でも、ポカポカして居眠りしてしまっていけませんね。

 お付きによく怒られてます。

 あっ、あのお菓子も私とお付きの者で全部食べてしまいました。

 お付きの者から次いつ行くのかと催促です」

 苦笑いでイングリッドが言う。

「イングリッドもお菓子は要らないのか?」

「私も当然要りますけど、お菓子よりマットソン子爵家に集まる女性の方に興味がありますね。

『マサヨシ様』について色々聞けますし」

 そんな風に言うイングリッドは少し笑っていた。

「正直なところ、あまり近寄りたくない場だな」

「皆様の話は、まあ大体、マサヨシ様への愚痴でしたね。

 愚痴と言っても嫌だから言う愚痴ではなく、好意からくるもののように感じました」


 何を話していたのやら。


「私は留学と言う名の下にこのオウルに見分を広げるために来ております。

 夏にオウルの学校を終えると魔族の国に帰ります。

 その時はマサヨシ様のパーティーに馬車の護衛の指名依頼をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ問題ない。

 赤い一角獣という名にしてあるから。

 冒険者ギルドに頼めばいい」

「やた!

 マサヨシ様と旅ができます」

 とドレスを揺らしながら跳び跳ねるイングリッドは嬉しそうだった。


「それにしてもイングリッドも大集会へ参加しなきゃいけないのか?」

「私が参加することで、魔族と人の仲がいいところを見せたいんでしょうね。

 政治というものなのでしょう。」

「大きな声ではいえないが、面倒な話だな」

「ええ、正直面倒です。

 でも、王女という立場である私は、断ることはできません。

 まあ、マサヨシ様に会えましたから、今日は満足です」

 そう言ってイングリッドは笑っていた。



 しばらくイングリッドと話をしていると、

「美人と話をしているな」

 そう言って笑いながら、ミケル様が現れた。

 遠いところを大集会のために馬車で来たようだ。


 遠くからのお出まし組って訳なのだろう。


「イングリッド殿下でしたね。

 おはようございます」

 キョトンとするイングリッド。

 イングリッドも数が多い貴族を全員把握している訳ではないようだ。

「ああ、こちらはドロアーテ周辺を預かる領主。

 ミケル・ベルマン辺境伯です。

 義父さんがミケル様の剣の師匠らしいですよ」

 俺がイングリッドにミケル様を紹介すると、

「初めまして、イングリッド・レーヴェンヒェルムと申します」

 と、続けて挨拶をした。

「クラウスのオヤジさん。

 お久しぶりです」

 ミケル様が義父さんに声をかける。

「おお、久しいな

 マサヨシのお陰でこの通りだ」

 腕にできた力こぶをミケル様に見せ、義父さんが言う。

「マサヨシ、オヤジさんの病気は治ったのか?

 病気になる前より元気になっているようだが……」

 ミケル様が聞いてきたので、

「ああ、義父さんの病気は呪いが由来だったようです。

 その呪いを除去したので今は元気ですよ」

「その呪いを除去したのは誰だ?

 そこのアイナか?」

 とアイナを見てミケル様が言うと、

「違う、マサヨシ。

 私はおじいちゃんに治療魔法を使ったけどダメだったの」

 アイナが即否定した。

「お前、本当に魔法が使えたんだな」

「まあ、俺の本職は魔法使いですから。

 でも気付いたのは俺ではありません。

『呪いがかかっているかも』と言ったのはリードラという女性です。

 仲間のお陰で義父さんの治療ができたって訳です」

「しかし呪いなど誰が?」

「義父さんは心当たりがあるようですね」

「そうなのですか?」

 ミケル様は義父さんに聞く。

「まっ、そのために大集会に出席するのだ。

 楽しみだのう」

 義父さんは本当に楽しそうに笑った。



 その後、義父さんの周りに誰か来るということはなく、遠巻きに見守るのみだった。

 俺、義父さん、アイナ、イングリッド、ミケル様の五人で話を続けていると、一人のカイゼル髭の中年の男がチャラそうな若者を連れて現れた。

 多くの貴族がその二人の周りに集まって頭を下げていた。


「あれは何者?」

 ミケル様に聞くと、

「お前知らんのか?」

「何せ、養子に入ったのも最近なんで……」

 俺は苦笑いをして頭を掻いた。

 ミケル様は「仕方ない」と言うような顔をすると、

「フリーデン侯爵だ。

 跡継ぎ息子を連れてきたようだ。

 一番上の娘を王の第三夫人に据え、寵愛を受けているという。

 王に子が無い今、フリーデン侯爵の娘が一番に子を授かるのではないかと言われているんだ」 


 アイナが王の子ということになると、揉めそうだな。


 フリーデン侯爵が義父さんの前に来ると、

「まだ生きていたのか、死に損ないめ」

 と、憎たらしげに言った。

 それを涼しい顔で、

「お陰さまでな、良い養子を得て気が楽になったせいか、体が良くなった。

 ああ、これが儂の息子、マサヨシだ」

 と、義父さんが返す。

「フリーデン侯爵、はじめまして、マサヨシと申します」

 俺は、簡単に挨拶をした。

 義父さんとフリーデン侯爵が話をし始めると息子は、

「ははっ、噂通り鬼神の息子はオークだったようだ。

 こんなやつ、俺にかかれば一撃。

 俺は、この界隈の道場では負け無しなんだ」

 と言って俺を見下した目で見ていた。


 まあ、メタボは動けないというのが定説。

 そう思われても仕方ない部分はあるのだが……。


「それは凄いですね。

 私など足元にも及ばないでしょう。」

 俺がチラリと義父さんを見ると、義父さんが頷く。


 では、ここからご退場願いますか。


 俺はピンポイントでフリーデン侯爵の息子にリードラ級の威圧をかけた。

 腰を抜かした後、床に失禁の痕が広がる。

「フランどうした!」

「今、なにか、とてつもなく恐ろしい感じがして……立っていられなくなって……」

 恐怖に震え裏返った声でフリーデン侯爵の息子が言う。


 失禁は狙っていなかったんだがなぁ。

 ちょっとやり過ぎ?

 義父さんは苦笑いしている。

 やはり、やり過ぎだったのだろう。


 貴族たちがフリーデン侯爵の息子の痴態を遠目で見て囁きだした。

「これではいかんな。

 早く着替えてこい!」

 そうフリーデン侯爵に言われて、急いで息子は謁見の広間を飛び出していった。。

 息子が歩いた後には点々と跡が付く。

 義父さんが追い打ちをする様に、

「そう言えば、お前の傍らに居たお抱えの魔法使いはどうした?

 噂では、最近、急に苦しみだしたとか。

 呪いでも返ってきたのではないのか?」

 と、義父さんはあえてフリーデン侯爵にきいた。


 やはりこの侯爵が例の……。

 情報元はセバスさんかな?


「ふん、そんなことは知らんよ。

 あの魔法使いも歳だ弱ってきたのだろう」

 そう、フリーデン侯爵は答えたが、言葉に勢いがない。

 何かに関与しているのは間違いないようだ。

 フリーデン侯爵は指示を出しフラン・フリーデンの失態の跡を急いで消させていた。


 そんな中、謁見の間の脇からきらびやかな服を着た男が現れるのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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