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第74話 年が明けて……。

 大集会は明けて二日と言うことなので、ゆっくり寝て、いつもより遅い起床。

 空はすでに明るくなっていた。

 花火が終わるころ、俺は部屋に戻ってベッドに一人で入ったはずなのだが……俺の周りには、クリス、リードラ、カリーネが寝ていた。


 酒臭い……。

 いつまで飲んでいたのやら……。

 最近は順番を決め俺の部屋に来ていたのだが、この流れでは酔った勢いなのだろう。

 まあ、これからも多くなる気がした。


 俺は起きると寝間着を脱いで顔を洗う。

 そして、シルクモスの黒のスーツに着替え執務室に向かった。


 部屋の外でセバスさんが立っているということは、義父さんは起きているようだ。


「中に?」

 セバスさんに聞くと、

「ええ、いらっしゃいます」

 と、答えた。


 聞くに年明けに当主の元へ行き挨拶をするのが習わしらしい。

 俺は執務室の扉をノックすると「入れ」の声を待ち中に入る。

「この世界での新年のあいさつをどうすればいいのかわかりません」

 俺は頭を掻きながら義父さんに言った。

「そうだな、儂も何十年か前に儂の父親へ挨拶をしたことはあるが、息子からされるのは初めてでな。

 よくはわからん。

 なに、ただ当たり前の事を言えばいい。

 ただ、一年の最初の一日が始まっただけ……『おはようございます』でいいんじゃないのか?」

「ええ、そうですね。

 おはようございます。

 今年もよろしくお願いします」

 と俺は言った。

「ちなみに、お前の世界ではどうなのだ?」

「俺の居た場所では『明けましておめでとう』ですね」

「それもいいな。

『あけましておめでとう』……か。

 来年はそれでいこう」

 そう言うと、義父さんは笑った。


 執務室を出て食堂へ向かうと、ミランダさん、マール、ベルタはすでに起きて、朝食の準備をしている。


 マールの動きにキレが無い。

 ちょっと酒臭い。

 あの三人に付き合ったかね?


「マール、ちょっとおいで」

 俺が呼ぶと、マールが俺の前に来た。

 マールの腹の辺りに手を添え、「体内のアセトアルデヒド除去」をイメージして体調を整える基本の魔法「キュア」をかけると、マールの目が見開いた。

「体が楽に……」

と言って驚く。

「これで気分が悪くないだろ?

 まあ、あいつらに付き合わされたんだろうけど、ほどほどに。

 あっ、紅茶を出してもらえるかな?」

 と俺が言うと、

「ありがとうございました。

 すぐにお持ちします」

 と、ペコリと頭を下げ、マールは調理場に向かった。

 俺はマールの紅茶を飲むと庭に出る。



ふと空を見上げると晴天。

風がやや吹いている程度。

「正月かぁ……。

 凧だよな……。

 子供たちは喜ぶかね……」

 空を見上げながら考える。

 収納カバンから切れ味の良さそうなオリハルコンのナイフと表示されている物を出し、木片を細く細く削り、竹ひごモドキを作った。


 思ったように削れるのは、DEXのおかげかな?


 糊は……無いから「糊」って感じで紙と木片をくっつける。


 紙って、この世界じゃ高いんだよな……。

 目指すは和凧。

 懐かしい。

 子供の頃はこんな事もしていた。

 ゲイラカイトって手もあるが。

 気分的には和凧。


「おーい、お前らの誰か、手伝ってくれ」

 するとノソノソとシルクモスの幼虫が現れた。

 彼らは寒さにやられることもなく端っこで丸まっている。

「ちょっと糸が欲しい」

 すると、一匹が近くにあった木に向かってピュッっと糸を飛ばす。

「ありがとな」

 俺は飛ばされた糸を再びオリハルコンのナイフで切り、その糸で凧に反りを作り、糸のバランスをとった。


 足をつけてと……。

 ん、オッケー。


 高さが五十センチ、幅で……三十五センチ程度の和凧が出来た。

「また糸を貰えるか?

 この木の棒に巻き付けたい」

 俺が木の棒を差し出すと、再びピュッと木の棒を狙って糸を吐く。

 先端は粘着性があるらしく木の棒にくっついた。

「じゃあ、巻くからそれに合わせて糸を出してくれ」

 木の棒に糸を巻き付け始めると、シルクモスが糸を吐く。

 程々のところで止めてもらって、凧に括り付けた。


 風を見て凧を飛ばす。


 ああ、揚がった。

 この世界に凧なんてあるのかね?

 屋敷内だから目立つこともあるまい。

 ただ白一色は少し寂しいな。

 絵も描けばよかった。


 白い無地の和凧が空を舞う。

「俺、こんなに凧の扱い上手かったっけ?」

 と呟くと、

「当たり前でしょ!

 私が助けているんだから」

 と言って精霊王女たるマナがひょっこり顔を出した。

「そういうことか。

 ありがとな」

 俺が礼を言うと、マナは体内に戻る。


 すると物珍し気に凧を見上げながらエリスがシルクモスの一匹を抱いて現れた。


 モス〇を抱く少女。

 映画か?


「マサヨシさんそれ何?」

「空を飛ぶおもちゃ。

 凧って言うんだ。

 飛ばしてみるか?」

「うん!」

 俺から糸を受け取ると、凧揚げを始める。


 意外と上手いな。

 マナ補正か?


「あー、エリスちゃん何それ」

「凄いね、空飛んでる」

 アイナとフィナも現れ、交代しながら凧を揚げはじめた。


「ここで食べてください」

 気を効かせたのか、マールが紅茶と牛乳、パンを載せたトレイを持って現れた。

 バターと蜂蜜も準備してある。

 手が空いたメンバーがパンを食べ、残った一人が凧を揚げた。

「こんな遊びがあったんですね。

 空を飛ぶおもちゃは珍しいと思います」

 マールが凧を見上げる。

「ああ、俺の子供の頃のおもちゃだ。

 思い出して作ってみた」

「ご主人様は異界から来たと聞きました。

 ですから、こんな遊び方も知っているのですね」

「なぜそれを?」

「クリス様から聞きました。

 カリーネ様もエリスちゃんも知っていますよ」

 と言って、笑うマール。

「そう……まあ、そういうこと。

 ああ、女性陣も居るから羽根つきもいいね」

「楽しそうですね」

 と、マールが言うので、

「作ってやってみるか」

 ということになった。


 まずは羽だな。


 メルヌに行って、コカトリスのリーダーに頼んで羽を二枚ほど失敬した。

 リーダーに

「あなたに言われたら、断れないでしょう?」というような悲しい目をされた。


 申し訳ない……。

 さて、玉は……。


 木切れを球形に削った。

 ちょっと穴を開けて、そこに羽を突っ込んで、アローン・◯ルファでくっつける。


 うし、羽子の出来上がり。


 倉庫を探すと硬そうな板を見つけたので、ウォーターカッターで羽子板の形に四枚くり抜いた。

 柄の部分のバリをとって出来上がり。


 これで羽根つきセットの完成だ。


「マール、待たせた。

 この羽子板で、この羽子を打ち合う遊びだ。

 負けた方が勝った方に落書きをするというのがルールだが……今回は、言うことを聞くようにしようか」

 そう言って、羽子板を渡すと、

「私が勝てば、ご主人様が私の言うことを聞いて、私が負ければご主人様に辱しめを受けるわけですね」

「辱しめ?

 語弊はあるが、まあ、そんなところだ」

 するとマールが念入りにウォーミングアップを始める。


 えっ、そんなに真剣?

 遊びのつもりなんだが。


「羽子板と言うものをもう一枚使わせてもらってもいいでしょうか?

 私の得物は二刀なので」

「それは別にいいが……」

 マールの背にオーラのような物が見えた。


 そう言えばマールも俺に隷属しているから、ステータスの底上げが起こっているはずなんだよなぁ。


 緊張感が走る。

 二人の間に広野の風が吹く。

「そっ、それじゃ始めるぞ?」

 コンとマールに向かって羽子を打ち上げると、マールは体をクルクルと回転させ、打ち返してきた。

 回転による威力の増加でスピードがのる。

 俺はステータスをフルに使って打ち返した。

 返した羽子に、マールは反応する。

 暫くラリーが続いた。

 スピードが乗り、打ち返す音が「コン」というのんびりした音から、「キン」という金属でも叩くような音に変わる。

 俺が少し高めに羽子を返したとき、マールは回転しながらジャンプをして、高さに回転力を加えた重い一撃を打ち込んできた。


 ハイジャンプ大回転?

 某野球漫画か?


 それでも俺は拾うことができたが、羽子板が砕け羽子が地面に落ちるのだった。

「さっ流石です」

 着地した後ふらつき、

「羽子板がもう少し耐えていたら、私の敗けでした

 もう動けません」

 肩で息をしながらマールは言った。


 そりゃ、そんなに回ったら目もまわるだろう。

 それに、羽子板ってスポコンだったっけ?


「じゃあ、引き分けでいい?」

「それはそれです。

 私の言うことを聞いてもらいます」

 と、提案は通らなかった。

 そして、

「私の希望は……」

 マールは間を置くと、真剣な顔で

「今度私も抱き枕にしてください。

 フィナちゃんでさえ、ご主人様に抱かれたとか?」

 と言った。

「んー。

 抱いたと言うより抱きつかれて頭を撫でたら寝てしまった感じなんだがな。

 まあ、一緒に寝るのは問題ない。

 順番は女性陣で話し合ってもらえば……」

「皆様に許可をもらえれば、寝所に入ってもいいのですね?」

「ああ、マールこそ俺で良ければだが」

 こうして、マールの添い寝の日が追加されることになった。


 なぜか、羽子板で俺に勝つと希望を一つ聞いて貰えると言う話になっている。

 俺が暇と見れば、挑戦者が現れるようになった。

 マール戦での敗戦以来、羽子板をプロテクションの魔法で強化し、羽子板を保護するようにしている。

 それ以来は負けなしである。


 はあ……。

 羽根つきは楽しくやろう。



読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嫁候補と仲良く正月遊びぃぃぃぃぃぃぃ♪ 仲が良い事は 良き事なりぃぃぃぃぃぃぃ♪ [気になる点] 凧を目立つ様、派手にしたら何かの伝達手段に応用出来そうww 羽根つき!商用販売しちゃえば言…
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