第7話 ステータスを見られたら、やっぱりバケモノ扱いされました。
受付から離れ食堂の机に座ると、
「マサヨシ、ステータスを見せて!」
と、興奮気味にクリスが言ってきた。
期待に満ちた目だ。
いざ開けてみて、最低ランクだったらそれはそれで面白いと思うが、わざわざイバラの道を歩きたくはない。
「ステータスオープンと唱えればいいんだよな?」
クリスが頷く。俺もステータスに興味があるので、
「ステータスオープン」
と、唱えてみた。
クリスが俺の前に来て覗き込む。
んー、クリスの頭で俺ステータス見えない。
クリスは俺のステータスを確認すると、無言で振り返り、きょとんとして俺を見てる。
若干引いてる?
ん、どうした、何があった?
最低ランク?
イバラの道か?
マサヨシ 男性 22歳
HP:145823
MP:96574531
STR:EX
INT:EX
AGI:EX
DEX:EX
VIT:EX
職業:創魔師
冒険者ランク:F
クリスが離れたのでステータスを見ると、そこには二文字……EX。
ん? どこぞの湿布?
ありゃ、老眼が治ってるぞ。
細かい字は遠目にしないと見えなかったんだけどな……。
「で、EXって何?」
と、俺が聞くと。
「EXなんて……」
クリスが固まっていた。
「どういうこと?」
「ステータスの表示の意味は、Eランクが一般人程度、Aランクが一万人に一人、Sランクが十万人に一人、って感じ……単純計算だと、EXは一億人に一人になるの、ある意味伝説ね」
クリスが説明してくれる。そう言えばそんなことも聞いたな。
「ふんふん」
俺は頷くしかない。
「STRやINT毎に一億分の一だから、全ステータスがEX、非常識なHPとMPのマサヨシは……」
クリスは当てはまる言葉を探していたようだが、
「要は、バケモノなのよ」
例える物が無くて、再び俺はバケモノ扱いになってしまったようだ。
「ステータスは人に見せないほうが良いよな? 揉め事の原因だよな?」
って、クリスに聞くと、
「そうして頂戴」
クリスの目が真剣だった。
「ふむ、で? 職業は創魔師? 聞いたことある?」
「私は聞いたことが無い」
クリスは言った。
珍しい職業なのだろうか?
「すみません、創魔師って職業わかります?」
俺は振り返り、受付に居たリムルさんに聞いたが、首を傾げるばかりだった。
ただ、
「もしかしたら、あなただけの固有の職業なのかもしれません。たまにあるんですよ、そういうの」
ほうほう、固有の職業。
しかし、創魔師って何だ?
魔法を創ることができる?
確かにマップやレーダー、銃器魔法、高速移動は、俺がイメージしたものが魔法になったものだ。
魔法は『イメージ』って地でいく職業ってことか?
だったら、納得できる。
しかし、俺が一番驚いたのは年齢が二十二歳ってこと。
そういえば、こっちに来てから一度も鏡見てなかったな。
異世界転移って若くなるの?
大体年齢そのままで転移するような話が多いんじゃないの?
心と体型がオッサンで年齢だけが22歳。
ステータスはフルEX?
いろいろ考えてみた。
そして出た結論。
変な感じだが、老眼が治ってたのは良かった。
そう思った。
こうして冒険者ランクFの見た目メタボな冒険初心者が誕生した。
俺のステータスを見たら、やっぱりクリスのステータスも見たくなる。
「さて、人のステータスを見たんだ、クリスも見せてくれよ」
「これが私のステータスね。ステータスオープン!」
そう言って、進んでステータスを見せてくれた。
クリスティーナ=オーベリソン 女性 44歳
HP:24783
MP:15754
STR:SS
INT:S
AGI:SS
DEX:S
VIT:A
職業:レンジャー
所有者:マサヨシ
冒険者ランク:B
こういう世界の姓持ちって、大体貴族だよな。
「お前、いいとこのお嬢さんじゃないのか? 姓ついてるし……」
「まっ、まあね。事情があるのよ。機会が来たら話す……」
クリスが焦っている。
俺の不意打ちに困っているようだ。
「いいとこのお嬢さん」は図星らしい。
「了解、期待しないで待ってるよ。
で、これってすごいステータスなの?」
俺は基準がわからないので、素直に聞くと、
「マサヨシ、私も驚いたわ。元々ステータスは高い方だと思っていたけど、このステータスなら通常のSランク冒険者よりも強い。
Sランクと言ってもパーティーを組んでのSランク……そのパーティーのメンバーのステータスとしては、一番高いものでもA程度よ」
クリスが誇らしげに言った。
続いてはと……。
「クリス、レンジャーって職業は何?」
「シーフの上位職、自然と精霊とともに生きる職業。
簡単な治療もできるわよ。精霊魔法もちょっと使えるかな。
斥候もできるから任せてね。
あっ、前衛もできる」
器用貧乏……という言葉が浮かぶ。
でも、言っちゃいけない気がした。
「冒険者ランクB、凄いねぇ」
俺がちょっと誉めると、
「私が居たら、あなたもダンジョンに入れるわよ」
クリス、ちょっと鼻高々?
「おっと、クリスって四十四歳か? 俺に近いのな」
クリスはびっくりして俺を見た。
「えっ、さっきステータスでは二十二歳って書いてあったじゃない!」
「そんなに驚かなくても……。
あのな、俺、元々向こうの世界で四十超えてたんだわ。
で、こっちに来てから年齢だけが二十二歳に戻った。
実際わけわからん。
俺、二十二歳の頃はもっと痩せてたんだけどな。
体脂肪率十%ぐらいだったんだぞ。
でも、ほらこれだ」
俺はクリスにメタボ腹を見せた。
「体脂肪率?
んーわからないけど……もしかしてそれで私を襲わなかった?
枯れてる?」
俺に聞いてくるクリス。
「そうだね、人間で四十超えてると言えば、もう人生の半分終わってるからなぁ。
性欲が無いわけじゃないけど若いころよりはね……。
クリスは綺麗だからなぁ、襲わないのはもったいないと思う。
でも、さっきも言ったけど、性欲云々じゃなくて亡くした嫁さんの顔がちらつくんだわ。
俺はクリスに会って楽しいし、仲間としてこの生活が続くといいと思ってる。
今はそれじゃダメかね?」
「ばっ、なっ、まあ、私も……楽しい。だから今は仲間としてね……」
クリスはモジモジしながら顔を真っ赤にして答えるのだった。
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