第68話 ダンジョン入り口付近にて。
俺、クリス、リードラにアイナでダンジョンの入り口を望む場所に来ていた。
見た目軽装に見える俺たちは好奇の的だ。
入り口から多くのパーティーがダンジョンの中に入っていた。
「女性パーティーか?」と思わせておいてメタボな男一人ってのは違和感があるらしい。
冒険者の男の何人かが話しかけようとしたが、リードラの威圧に追い返されていた。
「遅かったわね」
ミハルがふわりと現れる。
「んー、このダンジョンに入るには許可が要ってな、その申請に時間がかかった。
申し訳ない」
俺はペコリ頭を下げた。
「仕方ないじゃない。
この世界のルールなんだから。
まあ、七千年以上生きていたうちの数か月なんて、私にはちょっとしたこと」
すると、
「これが前の奥さん?
リードラと一緒だね。
でも少し老けてるかな?」
霊が見えるアイナはミハルを見て言った。
「あら、この子、私が見えるのね。
初めまして、私はミハル。
マサヨシの元嫁よ」
「初めまして」
アイナがペコリと頭を下げた。
「でも、女性に『老けてる』とか言っちゃダメよぉ。
喧嘩の元」
ミハルは優しい目でアイナを見ながら頭を撫でる。
アイナが目を瞑る。
「お母さんってこんな感じ?
私はお母さんの事を覚えていないから……」
アイナはミハルを見て言った。
「そうね、私はリードラを育てたけど、ただ元気に育って欲しいって思ってただけ。
私よりもリードラに聞いた方がいいのかも」
「我は母様の姿は見えん。
人の姿の母様と一緒に居ることはめったになかったからの。
ただ、ドラゴンの姿でも良く頭を撫でてもらった。
目を細めて笑ってくれた」
思い出すようにリードラが言った。
「ちゃんと母親してたんだな」
「私だって子育てします。
まあ、リードラも手がかからなかったしね」
ミハルは思い出すように遠くを見ていた。
「さて、ダンジョンを攻略してもらいましょうか」
「もとよりそのつもりだ」
「じゃあ、簡単に情報を。
このダンジョンは五十階層。
十階ごとにボス部屋がある。
そこのボスを倒すと、その階まで直通の魔法陣が使えるようになるわ。
ラスボスの私は当然五十階に居る。
そこに私のゾンビが居るから、倒しておわり。
私は解放されるってわけ。
その奥の部屋にダンジョンマスターが居るからそれを倒せばダンジョン攻略完了」
「説明が軽いな」
「重いほうがよかった?」
「そう言うつもりはないが……」
「さて、今のままだと……アイナちゃんだっけ?
あなたの弱さがネックになるわ。
それでも十階層ぐらいまでは単独で行けそうね。
魔力酔いするぐらいまで毎日戦っていれば、あなたも強くなれる。
頑張って!」
「うん、がんばる」
アイナはやる気満々というふうに返事をした。
「いい子ね」
ミハルはアイナの頭を優しくなでる。
ミハルが見えないし声も聞こえないクリスは手持無沙汰のようだ。
蚊帳の外なのが気に入らないらしい。
石を蹴ったりしていた。
そこで、
「クリス、魔力酔いって?」
と、聞いてみた。
すると、
「高ランクの冒険者がダンジョンに入る理由って知ってる?」
とクリスが聞いてきた。
「んー、俺みたいに目標としてじゃないのか?」
「それもあるわね。
ダンジョンの深部に入れることは、それだけ強い冒険者だという証明にもなるしね。
当然素材を売ってお金にする。
でも、もっと重要な事。
あなたは強すぎてわからないかもしれないけど、魔物から魔力を得るとステータスが上がるの。
ダンジョンが森の中深くに入らなくても敵が現れる。
それも階層ごとに強さが異なる魔物がね。
効率よく強くなれるってわけ」
魔力を得る……ゲームで言う経験値のような物だろうか。
「でもね、一度に魔力を得てステータスを上げすぎると、体が拒否反応を起こす。
当然よね。
自分のものとは違う魔力が自分の中に入るんだから。
人によってまちまちなんだけど……気分が悪くなって熱が出たり、最悪気絶したりって症状が出る。
そう言う症状のことを『魔力酔い』というわけ。
基礎能力は高くとも、魔物と戦ったことのないアイナは体内に魔力を取り込んだことがないぶん魔物に酔いやすいと思うわ。
だからダンジョン攻略は、アイナが魔力酔いで体調を悪くしたら屋敷に帰るという流れでいいんじゃないかしら?」
「わかった。
ありがとな」
と、俺が言うと、
「いいえ、どういたしまして」
と、クリスは返した。
そして、
「マサヨシの元嫁さん。
私が奪っちゃいますから!」
と、俺が話をしていたほうを向いて言った。
「活きがいい子いるじゃない。
あの子が一番?」
ミハルが聞いてきた。
「そんなの分かんねえよ。
まあ、最初に会った。
この世界の知識を教えてくれる」
「そう……。
じゃあ、がんばってねぇ。
私は五十階層で待ってるから」
「一緒に行かないのか?」
「バカね、私以外とイチャイチャしてるの見てたら、妬いちゃうでしょ?」
と、苦笑いしながらいうと、ミハルはフッと居なくなった。
俺、クリス、アイナ、リードラでゼファードのダンジョンの前に立つ。
ダンジョンを囲う壁の下に入り口の大きな両開きの扉。
「そこに許可証を扉にかざしてみて」
と、クリスに言われるがまま許可証をかざした。
すると「ギイ」と言って扉が開く。
入洞鉦はパスカードのようなものらしい。
「さあ行きましょうか」
先頭を行くクリスに続き、俺たちはダンジョンの中に入る。
そこは照明があるかのように明るく、レンガで組まれた通路が広がっていた。
「んー、クリス、ダンジョンの通路はレンガ造り?」
「いいえ、ダンジョンマスターの好みね。
魔力で作ると聞いているわ。
階層ごとに壁の素材が違っていたり、ワンフロアが一つの部屋になっていて鬱蒼とした密林だったり、逆に雪山だったりダンジョンマスターが適当に考えて作ってるみたい」
「だから、たまにダンジョン内部の模様替えなんかもあるの」
「こりゃ、十年かかるってのも頷けるな」
「ちなみにゼファードは見つかってから三百年以上攻略されていないの」
「ほう、それは強敵だな。
その攻略のためにも、まずは『扉が使えるか』だな」
俺たちは近くにあった部屋に皆で入る。
そして、収納カバンから扉を出すと、オウルの屋敷の庭へ繋ぎ扉を開けた。
おっと、屋敷だね。
屋敷の中で喜び手を振るフィナが見えた。
「それじゃ行ってくる」
と言いながら扉を閉めると、閉める直前に
「行ってらっしゃい!」
のフィナの声がきこえた。
「で、どうだった?」
と聞くクリス。
「問題なく使える。
食事も睡眠も風呂もトイレも屋敷で可能だ」
「凄いのう」
と、リードラ。
「そうね。
ダンジョンを攻略するうえで問題となる、食事と睡眠を克服できた。
これだけでも凄い楽になるの。
食料の重さは体の負担になり戦闘中の邪魔になるだけ。
長く潜る者ほど量は多くなるから、余計に戦闘中の負担は大きくなる。
そりゃ、食事のたびに量は減るけども、味気ない携帯食をずっと食べるストレスを考えてみて?」
「一日二日なら出来るが、一週間ともなると苦痛だな」
と俺は言った。
一度携帯食を食べさせてもらったが、ボソボソの乾燥肉に乾燥した野菜が入っていた。
お湯や水でもどして食べるのだが、塩味しかしない。
チキ〇ラーメンが本気で欲しいと思った。
クリスの話が続く。
「沼地なんかで戦う時は背嚢を外す訳には行かない。
中のものが濡れてしまう。
考えてみて?
毒にやられてキュアーの魔法や毒消しの薬が無かったら、別のパーティーを見つけて魔法をかけてもらうか薬を分けてもらわなければならない。
別のパーティーを見つけたとしても、魔力が無かったり、持っていないかもしれない。
何とか魔法陣にたどり着き、ゼファードの街に帰れたとしても、治療が遅れて毒が回って死んだり、腕を切り落としたりする可能性もある。
欠損部位を治すにも膨大なお金がかかる。
治せる治療師を探すのも大変。
それを警戒して寝ている間も歩哨を立てて周りに集中していないと魔物にやられてしまう。
まともに寝られないわ」
その苦労から、深部の素材ほど高額で買い取られるの」
「その点俺たちは、収納カバンにフィナの弁当を入れて、程々の時間で風呂に入って睡眠をとって、トイレにまで行ける。
格段に好条件って訳だな」
と俺が言うと、
「格段じゃなくて、最高の条件!」
となぜかキレ気味に訂正されてしまった。
いいじゃないか、条件がいいのは……。
「この中でアイナのステータスが一番低いから、序盤ではアイナを先頭に戦わせた方がいいかもしれない」
と、クリスが言った。
「ミハルも言っていた」
「うん、頑張る」
アイナは力こぶを作って言る。
「では我らはアイナのフォローだな」
アイナの頭を撫でながらリードラが言った。
「そう言うことね。
私が先頭。斥候をするわ。
その後ろにアイナ。
リードラはアイナの横に居て。
マサヨシは最後尾」
「「「了解」」」
これじゃ、クリスがリーダーだ。
まあ、ダンジョン初心者の俺としては助かる。
こうしてダンジョン攻略が始まった。
読んでいただきありがとうございます。




