第65話 さて、モグリをやめますか……。
魔法書士協会なる建物の前に俺は立っていた。
おお、デカい。
協会の本部っていうのもあるんだろう。
今までモグリで活動してきたが、時間もあるので正式に魔法書士の免許を得ることにしたのだ。
モグリのままでは、あまりよろしくないとも聞いたしな。
前の世界の試験のように、金を払って講習を受けて検定を受ければ試験内容は緩く、試験代だけ払って一発の試験を受ければ試験内容は厳しいらしい。
どこの世界も世知辛い。
ということで、協会の中へ入った。
受付に居る金縁眼鏡をかけた受け付けのおばちゃんに、じろりと見られる。
「なんだい?」
「ああ、魔法書士の免許を取ろうかと……」
「あんた、その魔力量なら一発かい?」
「私の魔力量がわかるので?」
「この眼鏡で見て赤く光ればINTがA以上なのはわかる。
その気配ならSはあるね」
おばちゃんは、金縁眼鏡のフレームを持ちレンズを光らせながら俺に言った。
そういう魔道具のようだ。
ある意味スカウ〇ー。
「まあ、そんなところです。
一発試験でお願いします」
「試験官は手強いよ。
大丈夫かい?」
「何とかしてみます。
ところで、試験は何をすれば?」
「試験官が作った契約書を破棄すればいい。
『一発試験に合格しなければ、検定を受けます』って内容だから、破棄できなくても心配しなくていいよ」
結局検定を受けさせる方向に持っていくのね。
協会の収入が増えるって訳か。
まあ、一発試験の難易度ってのは高いものなんだがね……。
「料金は金貨三枚。
ちなみに検定は金貨三十枚ね」
おお、いきなり十倍。
円換算で三千万……高っ。
俺は収納カバンから金貨三枚を取り出し、受付に置いた。
おばちゃんは金貨をさっと受け取ると、
「ラルフ、出番だよ」
と、声をかける。
すると、アクビをしながら、スキンヘッドで頭に刺青をした男が出てきた。
基本は講習からの検定らしく、一発試験は少ないらしい。
そのせいで、試験官の出番も少なく暇なようだった。
ちなみに刺青はINTを上昇させる物らしい。
「フン、あんたが試験を受けるのか?」
見下すように俺を見ながら言った。
「それじゃ、契約をするから契約台の上に手を置いてくれ」
俺はラルフという男に従い、契約台の上に手を置くと、契約書を取り出し契約を開始する。
「ボウ」っと、契約書が光り、
「これで契約は成った」
と男は言った。
「俺なりに、契約が解除できないようにしてある。
これを解除すればあんたは合格。
できなきゃ、検定を受けてもらう」
自信があるのか、ラルフという男が笑っていた。
俺は契約書を持ち、最大級の魔力を流す。
何か障壁のようなものがあったが、魔力に吹き飛ばされたようだ。
それを感じた瞬間「ボウァ」契約書はフラッシュコットンのように燃え尽きた。
燃え尽き灰さえなくなった契約書だったもののあった場所を見て唖然とするラルフという男。
「ここ一年、燃やされたことは無かったんだがなあ……」
と、頭を掻いて呟いていた。
「合格でいいですね」
と、俺が聞くと、
「あっ、ああ。
合格だ。
おばちゃんすまん。
合格者を出してしまった」
と、ラルフという男が申し訳なさそうにおばちゃんに報告した。
「仕方ないよ、この男はINTがS以上だ。
ラルフはAで刺青を入れているからAでも上位には入るだろうがSには負けるだろ?
おばちゃんは慰めるようにラルフという男に言うと、
「あんたやるねえ」
と言って歯茎を出してニヤリと笑った。
何かが違う。
「仕事ができたらあんたに回すようにするよ。
名前を書いとくれ」
そう言って、書類を出した。
俺は書き慣れない名前を書く。
「えっ、マサヨシ・マットソン?
マットソン……ああ、噂の鬼神の養子」
おばちゃんは手続きをしながら話し続ける。
「こりゃ驚いた、鬼神の息子は脳筋じゃなかったんだね。
貴族様の息子じゃ、なかなか依頼は難しそうだ。
とはいえ、INTがS以上なのはわかったから、何かあったら頼むよ」
そう言い終わると、バンと出来上がった免許証を受付に出した。
結局一発試験に合格する者……つまり契約を破棄されない者を探しているようだ。
一発試験で合格する者はINTが高い者に限定される。
そういう者を探すことで、簡単に破棄されては困るような契約……つまり貴族同士や国同士の契約を結ぶときに呼ばれるらしい。
そう言う契約は協会に直接依頼が来て高額の依頼料が払われる。
つまり、協会の顔を潰さないような手駒を見つけるのが一発試験ということなのだろう。
当然、魔法書士にも高額報酬が払われるのだが……。
「とりあえずその免許証があれば商売はできる。
契約一件につきいくらと設定するのは魔法書士が決めればいい。
まあ、あまりに安すぎると、同業者と喧嘩の原因になるから注意だ。
あんたの場合は貴族様になるだろうから、商売はしないかもしれないがね」
「えっ、ああ。
心しておきます」
俺は免許証を受け取りカバンに仕舞う。
「それじゃあお世話になりました」
そう言うと、魔法書士協会を出るのだった。
屋敷に戻り、コタツで免許証を見ていた。
「何それ?」
俺の前にクリスは座り、靴下を脱いで足をくっつけてきた。
「冷たっ。
何するんだ!」
「温まった人の体から、暖かさを貰うのよ。
いいじゃない」
「冷たい思いをする者の事を考えてもらいたいな」
「あー暖かい。
もう、そんなに冷たくないでしょ?」
「はいはい……。
一応質問に答えておくぞ。
これは魔法書士の免許証だ。
『モグリはあまりよろしくない』とサイノスさんに言われてな。
今しがた試験をしてもらってきたんだ」
「ふーん、これが魔法書士のねぇ……。
わたし興味ない。
奴隷だし……」
「まあ、普通はそうだろうな。
まあ、こっちに来て初めての免許だ。
使える所で使わせてもらいます」
そう言って、再び収納カバンに仕舞うのだった。
読んでいただきありがとうございます。




