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第6話 ファンタジーの身分証と言えば冒険者ギルドカードでしょう。

 森に覆われた街道を木漏れ日の中を走る。

 街まで五百メートルほどに近づくと、遠目に城塞都市のような高い外壁が見えてきた。

 そこで俺は速度を落とし止まる。



「この移動方法のままでは目立つと思う。

 クリス、悪いんだが、ここから歩くぞ。

 しかし、この世界の道は曲がりくねってるな。

 道が直線じゃないから、ここまで意外と時間がかかったぞ」

 俺が文句を言っていると、

「あのね、マサヨシ、馬車だったら何倍もかかっているのよ。

 だから十分に早いの」

 俺の道への考え方と目的地までの時間感覚がずれていたのか、クリスに注意されてしまった。


 高速道路使えば時速百キロなんて簡単だし、大体直線だからなぁ。


 俺はクリスを下ろす。

 すると、

「こっちは慣れるまで大変だったんだから! ずっと力を入れていたから体が凝っちゃったじゃない!」

 愚痴を言いながらクリスは軽く柔軟を始めた。

「そうだな、俺は前の世界でこの程度の速さを体験していたから余裕だったけど、クリスは違うよな。自分の事だけでクリスのことまで考えられなかった。申し訳ない」

 と言って、俺は頭を下げ謝った。

「でっ、でも、マサヨシに抱かれていると安心できた」

 目をそらしながらクリスが言う。

 少し頬が赤いような気がした。


 クリスはフォローしてくれたのかもしれない。


「ありがとな。さて、ドロアーテに行くか」

 そう言って軽くクリスの頭を一撫ですると、二人で入り口の門に向かって歩きだした。



「でかいな」

 俺は、威圧感のある外壁を見上げる。

 手続きを待つ住民の列が見えてきたので、俺とクリスはそこに並んだ。

 思ったより門番の事務処理が早くサクサクと進む。

 そして、ついに俺の番になった。

「お前、名前は?」

 と、事務的に言われたので、

「マサヨシと言います」

 と、事務的に返した。

「身分証明は?」

「森の中でずっと魔法の修業をしていたため、持ち合わせておりません。冒険者ギルドに登録して、ギルドカードを作ろうかと思っております」

 定番な回答だ。大きな町だから俺みたいな人間も多いのか、門番は気にせず手続きを進める。

「珍しい服だな」

 質問が続く。

 俺が着ているのは彼にとって異世界の服だ、珍しいだろう。だが、

「魔法使いは魔力を上げるための服を着ますから。奇抜なものもあります」

 と、適当なことを言っておく。

「まあいい。仮の証明書を出すから3日以内に冒険者ギルドに登録して返しに来てくれ。それまでに返さないと更に銀貨2枚の罰金になる。注意するように! 入街税と仮の証明書作成手続きで銀貨5枚だ」

「はい、丁度」

 俺は五枚の銀貨を門番に渡し仮の身分証を受け取った。


 俺の方が早かったので、クリスが終わるのを門の傍で待っていた。

「お待たせ」

 クリスが軽く手を上げ近寄ってくる。

「全然待ってない、気にするな」

 女性とのデートの待ち合わせのような会話が久々で新鮮だった。



 二人で町を歩く。

 メインストリートなのだろうか、両側には店が並ぶ。

 中世ヨーロッパの街並みに近い。

 ただ、周りには人だけでなく尻尾や耳の付いた獣、ずんぐりむっくりなドワーフ、そして傍らにはエルフ、いろいろな種族が居た。


 俺はふと、檻を載せ中に数人の子供を入れた馬車に気づいた。

 じっと見ていると、

「私もあの子たちと一緒の運命が待っていたの。私の場合はもっと酷い性奴隷ってやつがね。『デンドールって商人に可愛がってもらうんだな』と彼も言っていたし、あのままだったら、私にはどんな運命が待っていたか……」

 クリスはそう言いながら震えていた。

 性奴隷になる運命を想像していたのかもしれない。


「もう気にするな」

 俺はクリスを抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でる。

 するとクリスはコクリと頷き、俺の胸に顔を(うず)めてくるのだった。


 クリス先導で街の中を歩く。

「大体街の大通りに冒険者ギルドってあるのよねぇ。

 それも無駄に大きいの」

 そう言いながらクリスは看板を確認していた。

「あっ、あったあった」

 確かに無駄に大きい建物と無駄に大きく張り出した「冒険者ギルド」の看板。

 ちなみに、「商業ギルド」や「職人ギルド」というのもあるそうだが、一番大きいのは「冒険者ギルド」と、クリス先生がおっしゃっていた。



 何気にウエスタン、両開きのスイングドア。

 ギルドの中に入るとテーブルが数個ある軽食が食べられる食堂のようなものとギルドの受付があった。

 二階は何だろう?

 西部劇のサロンみたいだ。


 俺とクリスが入ると混む時間じゃないのか人は少ない。

 受付には人はおらず、数人の冒険者が話をしているだけだった。


「ヒュー。エルフが来たぜ。上物だ」

「俺のパーティーに入らないか?

 そこのデブよりはいろいろ楽しませてやるぜ。

 どうだい?」


「ゲヘヘヘヘ」って感じで笑ってる。

 あんな笑い方リアルで初めて見た。

 冒険者ギルド定番の美女いじりか?

 スーツ姿の俺なんて相手にされてないんだろうなぁ。

 ちょっと、ちょっとだけだぞ、「デブ」って言われてイラっとする。

 威圧?

 威圧って魔力で精神を押さえつける感じでいいのか? 


「私の連れに手を出さないでいただけませんか?」

 俺はイメージに合わせて、ちょっかい出した冒険者に魔力を当ててみた。

 冒険者たちは目を剥き恐れおののいたあと、泡を吹き気絶して失禁までする。

 クリスは目を見開いて俺を見た。


「ちょっとやり過ぎた?」

 やらかした感を感じ、頭を掻きながらクリスに聞いてみた。

「マサヨシ……あんな威圧を当てられたら、下手したら精神的なショックで死ぬわよ?」

 クリスがあきれた顔をして言う。

「すまん。クリスが弄られて、ちょっとイラっとしてな」

 俺も「デブ」でいじられてイラっとしたことは言わない。

「バカね。

 あんなの気にしないわよ。

 慣れてるわ」

 とか言いながら、クリスは髪の先を指に絡めて弄る。

 表情は嬉しそうだ 


 ちょっかい出してきた男たちの惨状については無視して受付へ向かった。

 そして、

「すみません、俺の冒険者登録をお願いします」

 と、俺が大きめの声で言うと、受付の奥から受付嬢が出てきた。


 胸がでかっ、でも身長は百四十五センチぐらい?

 茶髪のおかっぱで眼鏡をかけていた。

 年齢は若くも老けても見える面倒な奴だ。


 受付嬢は、

「あっ、はい。わかりました。

 ではこちらへ。

 でも珍しいですね。

 その体形で冒険者になろうという人はあまり居ません」


 暗に「メタボは冒険者にならない」と言いたいのだろうか。


 しかし、悪びれる様子もなく、登録用の受付だろうか……水晶がある受付へ俺は導かれた。

「えーと、私はリムルと申します。

 このドロアーテで受付嬢をやっています。

 以後お見知りおきを……。

 それでは、ギルドカードを作ります。

 お名前をこのカードにお願いできますか?

 代筆が必要ならこちらで書くこともできますが?」

 カードと羽根ペンを渡され、とりあえず俺の名前を書く。

「マサヨシっと」

 書いたらすぐにカードと羽ペンを返す。

「マサヨシさんですね。

 それではギルドカードを作成します。

 この水晶に手をかざしてください。

 あなたのステータス情報がこのカードに転写されます」


 おっと、字もOKみたい。

 これで読み書きは大丈夫。


「了解。ここに手をかざすんだね」

 復唱しながら、俺は水晶に手をかざす。

 すると、水晶が明るくて目が開けられないくらいに輝きだす。

「ピシッ。ピシピシピシッ……」


 ピシ? って水晶大丈夫?


 徐々に輝きは陰り元の水晶に戻ったように見えた。

 しかし、細かいひびが入り水晶は真っ白になっている。


「私、水晶にひびが入るのを初めて見た」

 と、クリスが驚いていた。


 どういうこと? 


 受付嬢は事務的に進める。

「はい、これがマサヨシさんのギルドカードになります。

 これは、街に入る時など、身分証明になります。

 ギルドカードの発行は初回のみ無料で、再発行には銀貨三枚が必要になりますから、大事にしてくださいね。

 あと、あなたのランクはFとなります。

 依頼をこなせばF、E、D、C、B、A、S、と上がります。

 ただ依頼は、パーティーに居る最高ランク者の一つ上までしか受けることができません。

 ご注意ください。

 Sランクになると国に召し抱えられたり、爵位を得たりする人もいます。

 まあ、数多いる冒険者の一握りになりますが……。

 手っ取り早く名声を得ようと思えばダンジョンを踏破すればいいのですが、ダンジョンに入れるのはCランクからとなります。

 弱いものが入って、命を散らさないようにするための措置です。

 それでは、冒険者ライフを頑張ってくださいね」

 リムルさんは表情を変えず定型文を一気に読み上げたようだった。


 俺は出来上がったギルドカードを受け取る。

 そのついでに気になることを聞いた。

「水晶にひびが入ったけど……」

「ああ、水晶にひびが入るのは、あなたが強いからです。

 ステータスにSやSSの部分があるのかもしれませんね。

 かく言う私もひびが入るのは初めて見ました。

 まあ、この水晶自体はそんなに高いものではありませんから、お気になさらず。

 それに、強い人がギルドの入るのは喜ばしいことです」

 リムルさんはにっこりと笑う……けど何だか悪い笑い方に見えた。

「そういうことなら……わかった、ありがとう」


 こうして俺の冒険者ギルドカードが出来上がった。


読んでいただきありがとうございます。

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