第56話 こっちの世界では病気の要因もいろいろあるようです。
ある日の昼過ぎ、アイナが浮かない顔で首をひねっていた。
「どうかしたのか?」
と俺が聞くと、
「黙っていたんだけど、お爺様に色々教わっていた時に治癒魔法をかけていたの。
ヒール系やキュアー系を使ったのに全然効かない。
なんで?」
「何でだろうな、何か縛りでもあるのかね?」
俺も首をひねった。
すると、
「主にアイナ。
二人してどうしたのだ?」
とリードラが現れた。
「いやな、アイナが治療魔法を義父さんに使ったらしいんだが、一向に体が良くならない。
『何でだろう?』って話になってな」
「我もわからぬが、魔法が効かないというのは、通常の病気ではないからではないのか?」
「通常の病気じゃない?」
「そう、普通に体調不良を起こして病気になるものの他に、呪いのかかった物など飲ませ、体内の魔力循環を滞らせて人へ悪影響を与えるという方法もある。
そうやって病気に見せかけるということも可能だ。
クラウス殿は強き者だったそうではないか。
強き者は恨まれることもあり得ると思うが?」
「恨みねぇ……。
とにかく義父さんの体が治るのであれば治したい」
俺がそう言うと、
「もし呪いが原因なのであれば、強力な魔力をその呪いの媒体に当てれば解呪できる。
さて、呪いの媒体を探して解呪できそうな魔力量を持っているのは誰だろうな?」
リードラはチラリと俺を見た。
早速、俺とアイナ、リードラは義父さんが居る執務室へ向かった。
「失礼します」
と俺が言うと、
「マサヨシか、入れ」
と義父さんの声がした。
俺たちが中に入ると、
「三人でこの部屋に来るのは珍しいな。
してどんな用だ?」
と聞いてきた。
「義父さんの体の事です。
アイナが義父さんに勉強を教わっていた時に、魔法を使っていたことに気付いていましたか?」
「ああ、それでか、時折儂の体が温かくなっていたのは。
ありがとう、アイナ」
そう言ってアイナの頭を撫でる義父さん。
「儂の体が弱ってからはあらゆる治癒魔法を使ってみたのだがダメだったのだ。
それ以降は徐々に体が弱り続けてな。
今ではこのありさまだ」
苦笑いをしながら義父さんは言った。
「私に診せてもらってもいいでしょうか?」
と俺が言うと、
「王の御典医に診てもらったのだぞ?
『治る見込みがない、徐々に弱る病気』とだけ言われてしまったがな」
「別の目で見ればということもあります」
と俺が言うと
「それならば……」
渋々ながら、義父さんは納得した。
レーダーで「呪いの媒体」というのを確認すると義父さんの腹の辺りに光点が灯る。
「リードラからの受け売りですが、何か義父さんの魔力の流れを邪魔する呪われた物がありますね。
これを除去してみましょう」
MRIをイメージして更に細かく体を確認すると、腸に極小の光が灯った。
これか……。
俺は呪いの媒体へピンポイントで魔力を撃ち込んだ。
砕け散る様が見える。
すると、レーダーからも光が消えた。
「義父さん、どうですか?」
「ふむ、今まで何かに押さえつけられていたようだったのだが、急に体が軽くなった。
立ってみてもいいかな?」
俺は義父さんに寄り添う。
義父さんは体を長期間動かしていないせいか細かった。
「おお、立てるぞ!
体が踏ん張る。
おっと、歩くのはまだだな」
そう言うと、義父さんの体がよろめき俺にもたれてきた。
「それにしても、全然違うな。
先ほどの黒い靄……呪いだったか」
「ご存じでしたか」
俺が言うと、
「可能性はあると考えた。
しかしな儂の力ではどうにもならん事だからな。
知り合いの魔力のある者に確認しては貰ったが『何もない』と言われたよ。
結局、病気として受け入れるしかなかった。
呪いは呪いをかけた者に返る。
さて、返った呪いがどう影響しているのやら……」
そして少し考えると、
「ふむ……」
と言って何かに気付きニヤリと笑う義父さん。
「アイナよ、剣の練習の時に儂を鍛えてくれんかな?」
「いいけど、何で私?」
アイナ不思議そうに義父さんを見た。
「今の儂は筋力もなく私が相手にできると言えばアイナぐらいだ。
さすがに家宝の剣を振るうことは難しいが、通常の剣であれば何とかなろう。
あと二月もしないで年が明ける。
年初めの大集会で儂に呪いをかけたと思われる男に壮健な姿を見せてやりたいのでな」
「イタズラだね。
いいよ」
ニコリとアイナは笑うのだった。
俺と義父さん、アイナは執務室を出てリビングに向かう。
セバスさんは自力で歩く義父さんを見て、
「クラウス様、どういうことです!」
驚き大声を上げる。
その声を聞きミランダさんが現れ、
「クラウス様……」
と言って涙を流す。
「マサヨシが呪いを解いてくれたのだ」
と、義父さんが言うと、
「マサヨシ様、ありがとうありがとうございます」
「マサヨシ様、よくぞクラウス様を……ありがとうございます」
とセバスさんとミランダさんが涙を流しながら礼を言った。
「証拠は無いが、奴の仕業だろうな」
義父さんが言う。
「奴とは?」
「年初めの大集会で紹介しよう」
楽しそうに笑う義父さんが居た。
それから毎朝、義父さんとアイナは朝食の前に剣を合わせるのが日課になる。
最初は筋力が落ちていたためにまともに体が動かず、アイナの剣でさえ受けるのがやっと。
それでも、義父さんは自分の体を痛めつけた。
しかし、身についていた剣技は確実に表に現れ始め、二週間もするとアイナと互角に戦えるようになった。
負けじとアイナも真剣に練習をするため、アイナも強くなる。
そして、一カ月を超える頃には出会った時とは見違える義父さんになるのだった。
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