第55話 強いオスにメスが集まるのは世の常識らしいです。
搾乳量と無精卵の量が激増しているのが気になり、セバスさんに聞いてみると、
「ちょっと、メルヌ側に異常が……」
と報告してきた。
「何か?」
俺が言うと、
「フォレストカウとコカトリスの数が増加しているという報告が……」
とセバスさんが言ってきた。
「子供が大きくなっただけでは?」
「違います、確実に増えています。特にメスの数が……」
何でだ?
一度覗きに行くことにした。
オウルと違い寒いメルヌ。
リードラと共にメルヌのフォレストカウとコカトリスが居る雪で真っ白になった草原に行くと、げっそりとしたフォレストカウのリーダーとコカトリスのリーダーが現れる。
「どうした……疲れてるな」
レーダーで実際にフォレストカウとコカトリスの数を見ると、それぞれ倍以上になっていた。
リードラがフォレストカウとコカトリスの話を聞く。
すると、
「強いオスにはメスが群がったようだな。
自然の理。
ここに居るフォレストカウとコカトリスのリーダーは、主に隷属することで、能力が跳ねあがった。
そんなリーダーと自分の群れのリーダーを比較すれば、この土地に居るフォレストカウとコカトリスのリーダーをメスは好む。
それは、そういうオスの下に居るほうが、生存確率が上がり、良い子孫を残せるから。
実力のあるオスを見つけたメスが今までのオスを見限ってこの二頭の下に来たようだの」
リードラが言うと、フォレストカウとコカトリスのリーダーは頷いていた。
「主と同じじゃな」
ニヤリと笑うリードラが居た。
「それ、違うから……」
俺は否定した。
「しかしグランドマスターはその系統であろう?
エリスを助けたのは確かだが、その後は主に近づいておるではないか
最近は当たり前のように屋敷を闊歩しておる」
「カリーネは俺が許可を出したから……。
俺は夫のいる女性が俺の下に来ると言ったら止めると思う」
「それは主の都合であろう?
この世界の女はそんなことにかこだわらんよ。
そして男も来る者は拒まないのが当たり前なのだ」
「来る者は拒んでいないと思うがね」
「拒んでおろう?
普通は手を付ける
ほら」
疲れ切った眼をしたコカトリスのリーダーはメスにすり寄られると、仕方ないというふうに交尾を始めた。
「ああ、そっちの事か。
今のところ一線を越える気は無いなぁ」
そんな事を言いながら俺は肌寒い風に流れる雲を見ていた。
「その貞操感がこの世界では珍しい。
強い者が女を手に入れて侍らせる。
『前の嫁さんが気になる』なんて言う男はおらん」
「俺はそういう考え方しかできないからね」
「でも、その貞操感を私は好む。
我が母の件が終われば、我は我が母のように愛されると思うから……」
そう言ってリードラもすり寄る。
どうだかな?
終わったら、ちゃんと割り切れるかね?
そんなことを考えてしまう。
周りを見ると、グランドキャトルとコカトリスの糞が転がっていた。
魔物の糞も肥料になるのかね……。
春の麦撒きのころにこの辺を耕してみるか。
そんな事を考えながら、寒空の草原を歩いていた。
屋敷に戻ると門番の二人に付いて勉強をするアランとボーを見つける。
「頑張ってるか?」
頭をワシワシと撫でながら声をかけると、
「「ウン!」」
という大きな声が返ってきた。
玄関を入ると、迎えに出てきたセバスさんに
「搾乳係と卵の回収係の人数を増やしてもらえませんか」
と依頼すると、
「畏まりました」
とセバスさんは行った。
扉を使ってオウルへ向かう時、
「さて、我が見たことのある一番のバケモノである主はどうなるのかのう……」
俺てクスクス笑いながらリードラが言った。
まあ、バケモノ認定はもう慣れた。
「さあ、わからんよ。
クリスにしろ、リードラにしろ、他の者にしろ、たまたま出会った者が集まっただけ」
と言うと、
「であっても、その者の下に集まろうと思わねば集まらんだろ?
だから、誰が主の下に来るのか楽しみなのだ」
とニヤリと笑ってリードラが言う。
「俺の下に誰が来るかはどうでもいいが、誰に会えるのかは楽しみだよ」
俺とリードラは扉を越えオウルに戻るのだった。
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短めです。




