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第53話 うちの家には結構金儲けになりそうなものが多いようです。

 昼食が終わると門に馬車が現れた。

 義父さんと俺は玄関までロルフ氏とその娘カミラさんを出迎えにいく。


 白を基調に金糸銀糸をあしらったきれいな服を着たロルフ氏、町娘風だった服が赤いドレスに変わっているカミラさん。

 どちらも高価そうな服を着ている。

 ロルフさんの肩には、大きなカバンがかかっていた。

「クラウス・マットソン子爵様とその息子になられるマサヨシ様ですな

 商人のロルフと申します。

 この度は娘のカミラを助けていただき、そのお礼と話し合いに来ました」

「マサヨシ様、この度はお助けいただきありがとうございます」

 スカート摘み上げ頭を下げるカミラさんが居た。

「よくぞお越しくださった」

 と義父さんが挨拶をすると、

「これが、先ほどおっしゃられた我が義理の息子になるマサヨシ」

 と、俺を紹介する。

 それに合わせ、

「ロルフさんお初にお目にかかります」

 と、頭を下げた。

 するとロルフさんは解せない顔をする。

「どうかなさいましたか?」

 と聞くと、

「失礼とは思いますが『凄く強いお方』と聞いておりましたので、このような恰幅の良い方とは思いませんでした」

「よく言われます」

 俺は言った。


「それでは、玄関ではなく応接室にいきますか……。

 ついて来てください」

 義父さんがそう言うと、俺は車いすを押して応接室に向かった。

 通り掛けにリビングで、コタツに入って雑談をしているクリスとリードラ、アイナ、フィナが見えた。

 その様子に興味を持ったのか、ロルフさんは、

「あれは?」

 と聞いてくる。

「あれは、コタツという暖房用の魔道具ですね?」

「『コタツ』?」

「足元を温める魔道具です。

 あれは多人数用で床に座ったり、寝転がったりするタイプです。

 入ってみますか?」

「ええ、ぜひ」

 そう言うと、ロルフさんは女性陣四人の真似をして、コタツに入った。

「何事?」という感じでロルフさんを見る女性陣。


 いや、来客だから……。

 言っておいたし……。


「おぉ、これはいい。

 足元から温まるという魔道具は初めてです。

 部屋全体というのは聞いたことがありますが必要魔力のせいで魔石の大きさが必要になり高くなってしまう。

 これならば必要魔力も抑えられる」

 とロルフさん絶賛する。

「ちなみに、横になって肩のあたりまで入ると、気持ちいいですよ」

 そう言う俺に従って、ロルフさんはコタツに潜った。

「これならば温かさが逃げませんな」

 肩までコタツに入ったちょっとおマヌケなロルフさんが居た。


 ロルフさんはコタツから出ると、

「マサヨシ様の言い方では床に座る以外別パターンもあるのですか?」

 と聞いてきた。

「ああ、椅子に座って使う物があります。

 義父さんの執務室にあるのですが……」

 俺が義父さんを見ると、

「ああ、行ってみるといい」

 と、執務室への入室許可が出た。


 執務室に入り、義父さん専用のコタツを見せる。

「これが椅子のまま使うコタツですね。

 このような感じになります」

 俺は車いすを父さんの定位置に置いた。

「これがあると温かくてな、気が緩むと寝てしまう」

 苦笑いの義父さん。

「これは、誰が作ったのですか?」

 ロルフさんの目が変わっていた。

「私ですね」

「製造販売の権利を私にいただけませんか? 

 先ほども言いましたが部屋全体を温かくする必要がない分魔力が抑えられます。

 更には必要な魔石の大きさも抑えられ製品の価格も下げられる。

 皆が安く簡単に暖房が得られるのです。

 これは売れる。」

「お父様、今日はお礼に来たのです。

 商談ではありませんよ」

 カミラさんがチクリと注意した。

「あっ、すみません」

 ロルフさんが頭を下げる。

 しかし、目新しいものに目がないのだろう……、

「その子爵様がお座りになっている椅子は?」

 と聞いてきた。

「ああ、これは車いすと言って体の不自由な人の移動を助けるものになります。

 義父さんの足が弱っていたので、私が案を出し職人に作らせました」

 そう俺が言うと、

「お父様!」

 カミラさんが強めに言うと、

「えっ、ああ、すみません」

 と言って再び本来の目的を思い出したようだ。


 応接室に行き、ロルフさんとカミラさんの対面に義父さんと俺は座った。

「お茶でも飲みながら、話をしますかな?」

 と言って義父さんがベルを鳴らすと、すでに準備していたミランダさんとマールが現れた。

 それぞれの前に、紅茶とホットケーキ、プリンを置く。


 ん?カップの脇に小さな容器が二つ。


 すると、

「マサヨシ様、この度はカミラを救出していただき、ありがとうございました。

 妻に先立たれ、この子が私の最後の身内、居なくなってどうしようかと思っておりました」

 と、ロルフさんが深々と頭を下げた。

「あまり気にしないでください。

 私は依頼を受けたまでです」

「マサヨシの言う通りだ。

 ロルフ殿、気にすることはない。

 この者は冒険者。

 当たり前の事をしただけ」

 と、俺と義父さんは言った。

「その報酬として『財産を分け与える』ということになっていましたのでその履行に参った次第です」

 ロルフさんはカバンを取り出し、いろいろな書類を取り出した」

「その件は必要ないとグランドマスターに言っておいたはずですが?」

「いいえ、そうはいきません。

 商人は一度言ったことを反故にするわけにはいかないのです。

 信用にかかわります」

「それを言うなら、私もですね……。

 私は『財産は要らない』と言った。

 だから要りません」

「それでも……」

 と引き下がらないロルフさん。

「ロルフさん、あなたの財産を全部得たとしても、その財産を大きくすることは私には難しい。

 逆に商機を見失い財産を目減りさせる可能性のほうが高い。

 しかし、あなたなら、今持っている財産を倍にして、そのうえでこの子爵家に還元できるのではありませんか?」

 と俺は言った。

 すると、

「紅茶が冷える。

 まずは、一杯飲んでからでもいいのではないかな?」

 と義父さんが言った。

「ハニービーの蜜はわかるのですが、他のものは?」

 ロルフさんが説明を求めた。


 見たことのないものを食べるのは気が引けるようだ。


「紅茶の脇にある入れ物には魔物の乳を濃縮したものが入っている。

 紅茶の中に入れるといい」


 そう言えば「生クリームを貰えないか」とマールに言われて渡していた。

 こういうことだったのか。


「そして、そこにある菓子はマサヨシが考えた菓子だ。

 高貴なものが嫌う魔物の卵や魔物の乳が入っておる。

 これが存外にうまい。

 食べてみるといい」

 そう言って、義父さんは紅茶に生クリームを入れ、ミルクティーにして飲み始めた。

 それに続き、俺はホットケーキを食べる。

 義父さんと俺を見て、ロルフさんは義父さんに習ってミルクティーを飲み始め、カミラさんはホットケーキを食べ始めた。

 二人とも一口含んで固まる。

「えっ、何だこの濃厚な味わい。

 茶葉だけではなくそれに加えられた魔物の乳が味わいを深める」

「お父様、このお菓子も美味しい。

 こんなお菓子は王都にもありません。

 私たちが毛嫌いしていた魔物の卵にこんな良さがあったなんて……」

 そして、最後にプリン。

 二人が口に含むと、

「何だこの触感に甘みは!」

「食べずにはいられない!」

 味〇子のワンシーンのようになってしまっていた。


 少し落ち着くと、

「マサヨシ様、このお菓子を作るのは難しいのでしょうか?」

 と、ロルフさんが聞いてきた。

「材料さえあれば簡単ですね」

「魔物の卵は毒があると聞きますが、何か対処法でもあるのですか?」

「毒があると言われる卵は、長時間放置され中身が傷んでしまったものです。

 ですから、新鮮な卵であれば問題ないんです」

「しかし、新鮮な卵を手に入れるのは難しい。

 魔物が卵を産む瞬間まで待たねばなりません」


 やはり魔物の飼育と言う考えが無いようだ。

 魔物は強く、一般の人では扱えないからだろう。


「それは、魔物を飼えばいい。

 私はコカトリスを隷属させメルヌの街の郊外で飼っています。

 そこで、新鮮な卵を得ているのです。

 魔物の乳も……ああ、私は牛乳と呼んでいますが……これもグランドキャトルを隷属させメルヌの街の郊外で飼育……いや、放牧しています。

 さて、私があなたの財産を要らないと言った理由……わかりますか?」

 少しロルフさんが考える。

 そして、ロルフさんの頭の上に電球が光った気がした。

「独占ですね」

「はい、独占です。

 そこでしか手に入らない良いものは高額になります。

 そして製造方法が簡単でもです……」

「グランドマスターが『援助』や『手伝い』が必要と言っていたのは、マサヨシ様の考えた魔道具やお菓子の製造や流通を助けて欲しいと言う事だったのですね?」

「信用ある豪商であるロルフさんが作った物、更にはロルフさんの勧めなら、買ったり食べたりする人は居るでしょう?

 でも俺が『これはいいものだ!』って言ったって、見向きもしませんよ」

「確かに……信用というのは得難い」

 義父さんが言う。

「わかりました、私の商人としての知識と信用をあなたへの報酬とします。

 差しあたっては、コタツと車いす、そしてホットケーキにプリンの販売でいいでしょうか?」

 と、ロルフさんが言うと、

「ええ、よろしくお願いします」


 こうして、話が終わった。

 キョロキョロと誰かを探すカミラさん。

「タロスなら庭で子供たちと戦闘訓練をしているよ」

 と俺が言うと、

「ちょっちょっと行ってきても?」

 と、ロルフさんを見る。

 ため息をつくロルフさん。

「子爵様よろしいでしょうか?」

 と言うと、義父さんは

「この部屋を出て右へ行くといい」

 と言った。

 早々にカミラさんは部屋を出ていった。


「マサヨシ様は今後の展望をどうなさるおつもりでしょうか?

 それに合わせて私も動かねばなりません」

 ロルフさんが聞いてきた。

「そうですね、まずはコカトリスの卵を使ったお菓子の流通。

 次は牛乳の流通。

 この牛乳と言うのは『豊胸効果』があると言われています。

 貴族の女性方が求めるかもしれませんね。

 そして、ハニービーの蜜の安定供給。

 できれば、シュガーアントの砂糖も安定供給できるようにしたいですね」


 考えてみれば食い物ばっかり。


「塩や香辛料も手に入れたいし、酒も造れるようにしたいです。

 あっ、小麦なんかの増産もしたいかな……」

 ロルフさんは唖然としていた。

「まあ、まずはお菓子を売ってみてもらえませんか?

 売価はお任せします。

 材料はこちらから提供します。

 作り方はフィナが知っているので、この屋敷に来ていただければお教えしますよ」

「レシピが漏れてもよろしいので?」

 ロルフさんは心配そうだ。

「簡単に作れるものならば作ればいいのです」

「そうか……材料は独占でしたね。

 わかりました、後はお任せください

 契約書を作りたいのですが……」

「契約書は売れて利益が出てからでいいですよ」

「わかりました」

 頭を下げるロルフさんが居た。

 コタツに車いす、菓子の件を話し合った後、ロルフさんは帰っていった。



「お前もいろいろ考えているのだな」

 義父さんが言った。

「貧乏貴族と言われても癪でしょう?

 子爵でも収入は国家並みにあるとかのほうが面白そうです」

「豪気なことを言う。

 それにしても、お前は何者だ?

 この世界の誰も知らない知識を持つ」

「義父さん、ここでその質問ですか?

 勢いで『養子にする』と言ったことに後悔しているとか?」

 義父さんは「フッ」と笑うと

「それは無いな。

 お前が来てから面白い事ばかりだ」

 本当に楽しそうに言う。

「それなら良かった。

 信用できないかもしれませんが、私は異世界から来ました」

「そうか、わかった。

 だから、儂に無い知識を持っているんだな」

 素直に納得する義父さん。

「えっ?」

 義父さんが驚かないことに俺が唖然としていると、

「その力、その知識、普通じゃないのはわかっておったぞ。

 それがお前の説明で納得できただけ……。

 まさか驚いて欲しかったのか?」

 とニヤリと笑う。

「えっ、いえ、そういう訳では……」

「残念だったな」

 イタズラが成功して嬉しそうな子供のような義父さんが居た。


読んでいただきありがとうございます。

投稿予約をせずに放り込んでしまいました。

失敗です。

六時更新はしません。

ご迷惑をおかけします。

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