第52話 来客用のお菓子を作ろう。
「マサヨシ様、ロルフ様という方から『先日のお礼にお会いしたい』という連絡がありました。
使者の者を待たせております」
ミランダさんが俺に言った。
先日ねぇ……。
まあ、カミラさんのことなんだろうけど。
「ミランダさん、明日の昼食後に来てもらおうと思います。
こちらは問題ないでしょうか?」
俺が聞くと、
「来客など何年ぶりでしょうか!」
手を叩いて喜ぶミランダさん。
「ロルフと言えば、豪商と言われる男。
でしたら、盛大に出迎えなければいけませんね」
ウキウキしながらミランダさんが言った。
「盛大でなくてもいいと思います。
そうだなあ……紅茶にホットケーキ、あと新しいお菓子でも作りましょう。
それでは、使者には『明日の昼過ぎにお会いします』と連絡をしてください」
「畏まりました」
ミランダさんが頭を下げる。
「あっ、フィナは調理場に居ます?」
「今は朝食の片づけを終えて、マールさんとベルタの三人で紅茶でも飲んでいるのではないでしょうか?」
「わかった。ちょっと行ってみますね」
そう言って俺とミランダさんは離れた。
「お疲れさん」
俺は調理場に入った。
フィナとマール、ベルタはミランダさんの言う通り紅茶を飲んでいた。
「あっ、マサヨシ様」
「ご主人様」
「マサヨシ様だぁ」
フィナ、マール、ベルタが各々で俺を見つけて挨拶をする。
「それにしても、どうしたのですか?」
フィナが聞いてきた。
「明日、昼過ぎにロルフという商人が来る。
その時のお茶菓子を作ろうかと思ってね。
紅茶にホットケーキでいいんだが、追加して別のお菓子も作ろうかと」
「お菓子!」
ベルタが飛び上がって喜んだ。
「こら、ベルタ、はしたない。
期待してはいけません」
マールが叱るが、
「なら、マールは要らないのか?」
と、俺が言うと、
「それは……、ずるいです」
とマールが拗ねた。
「悪い悪い、ちゃんとベルタにもマールにも作るから、味見してもらえるかな?」
「やた!」
「はい!」
今度は、マールも一緒に飛び上がって喜ぶのだった。
「じゃあフィナ、作ろうか。
材料は牛乳、このコカトリスの卵、あとは蜂蜜だな」
そう言いながら牛乳とコカトリスの卵を取り出す。
「蜂蜜は有る?」
「はいございます。
マサヨシ様の指示で売っている蜂蜜を見つけたら買っておりますので……」
そして、俺は調理場の棚から大きめのボールを取り出す。
「それにしても、何を作るのですか?」
フィナが不思議そうに聞いてきた。
「プリンって菓子。
フィナ、悪いんだが鍋にお湯を沸かしておいてくれ。
この器がこの辺まで浸かるくらい」
使おうとしていた陶器のコップを見せて大体の位置を教える
「はい」
フィナはお湯を沸かし始めた。
材料を混ぜ、布で濾し、各容器に入れて湯煎する。
暫くするとプリンが出来上がった。
冷やすのは魔法だ。
コカトリスの卵ってデカいので十四個のプリンが出来上がった。
ついでにフライパンで蜂蜜を熱しカラメルも作りプリンの上にかけた。。
「食ってみて」
フィナにプリンとスプーンを渡すと。
「あっ、冷たくてプルンとして甘い。この黒い液の苦みがアクセントになっています。凄く美味しいです」
「そうだろ?」
「こんなお菓子もあったのですね」
俺は何度も見ていて当たり前だが、フィナにとっては見たこともないお菓子に感動しているようだ。
多分俺は、ちょっと得意顔だったと思う。
病気の嫁さんのために作った俺ができるような簡単プリン。
バニラビーンズなんて入っていないものだったが美味かった記憶がある。
その時もこんな風に得意顔だったのだろうか……。
「作り方はわかった?」
「はい、大体は」
「後はフィナに任せるよ。俺にはこれが限界」
「でも、冷却が難しいかと……」
「水で冷やしたら?
何なら、魔道具を作ってもいい」
「ああ、そういう手もあるんですね。
まずはやってみます。
出来なかったら相談しますね」
あとはフィナに期待である。
こうして我が家のお菓子のレシピが一つ増えた。
すでにフィナがスプーンでプリンを食べたのを見て、スプーンを準備しているマールとベルタ。
「ほい、食べてみればいい」
俺は二人にプリンを渡した。
お互いにスプーンで掬い、口に入れると、
「あっ……」
「何これ……」
と一度絶句して、
「「美味しい!」」
声を合わせて言った。
「ああ、これを載せてもいいかもな」
俺は牛乳から分離しておいた生クリームを取り出し、攪拌しながら蜂蜜を入れる。
角が立つと、ヘラで適当に掬って、プリンの上に置いた。
フィナとマール、ベルタが「待て」と言われた犬のように俺を見るが、
「食べてみろ」
と言うと、三人が生クリームと一緒にプリンを掬う。
「あっ、苦みと甘味、ふわっとしたこのクリーム……」
とフィナが解説した後、
「「「美味しい」」」
と数分前のデジャブのように、三人が声を合わせて言うのだった。
「こんなもの、王族でも食べられないでしょうね」
マールが驚いている。
ベルタは何も言わずにプリンを食べていた。
しばらく経つと、スプーンを咥えて俺を見る三人が居た。
「甘いものを食べたら、太るんだぞ?
俺みたいになったらどうする?」
まあ、俺の場合は加齢によって代謝が悪くなったせい……ということにしているが……。
「それに、フィナならもう作れるだろう?
ちょっとしたご褒美にでもすればいい」
じっとフィナを見るマールとベルタ。
「練習がてら作った物でいいのなら……」
と、フィナが言うと、二人はフィナを見て、
「「うんうん」」
と頷いているのだった。
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