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第50話 一目会ったその日から……とはいかなかったようです。

 まずはアイナの番らしい。

 俺に聖騎士の剣を渡すと、手になじむ木剣を探すアイナ。

 何かに気付いたのか、

「その剣は?」

 ヘルゲ様が聞いてきた。

「ああ、聖騎士の剣ですね。

 炎の風討伐に出向いた王都騎士団の部隊長がつけていたと聞きました。

 炎の風を討伐した際に、所有することになったものです。

 遺族が居るのなら、返しますが?」

「いや、家族にはちゃんと年金が入るようになっている。

 剣が戻ったとしても、あいつの家族じゃこの剣を使えまい。

 剣が可哀想だ。

 嬢ちゃんが使っているのなら、そのまま使わせればいい」

「では、そうさせていただきます」


 剣を見つけ、見上げるような相手のほうを向くアイナ。

 相手の騎士はアイナを舐めているのか、ニヤニヤと笑っていた。


 痛い目を見るとも知らずに……。


「はじめ!」

 というヘルゲ様の声で模擬戦が始まる。

 アイナは素早い動きで騎士との間合いを測っていた。

 相手の騎士の剣が届くか届かないかのところをチョコチョコと動き、わざと剣の間合いに入って誘うと、相手の騎士の剣が動き出した瞬間サッとそこから逃げる。

 それを何度も繰り返していると、イライラし始めた騎士が、間合いを詰めアイナに大振りで切りかかった。

 アイナはその剣を髪の毛が切れるぐらいギリギリのところで避け、そのまま間合いを詰める。

 そしてコツンと騎士の頭に剣を入れた。

「やった、勝った」

 ぴょんぴょんと飛び跳ね、素直に喜ぶアイナ。

 悔しそうな顔をする騎士に、

「その娘の事を舐めていただろう?

 その慢心が負けの原因だよ。

 まあ、あの見切りができるのだ。

 まともにやっていても負けていただろうな。

 精進せよ!」

 とヘルゲ様は負けた騎士に言った。

 そして、

「さて、お前は鬼神の子になる男だ。

 いつもクラウス殿が行っていた訓練をしてもらおうか」

 と、言って笑う。

 すると、二十人ほどの騎士が剣を持って現れた。

「あれ、本物ですよね」

「ああ、そうだ。

 クラウス殿はただの木剣で二十人を倒していた」

「真剣二十人相手で木剣ですか。

 義父さんは結構な訓練をしていたのですね」

「その木剣もまだあるぞ。

 誰も使いこなせずに残っているだけだがな。

 ほら、そこの小屋の中だ」

 指差した先に、訓練用の備品倉庫らしきものがあった。

 中を覗くと、オリハルコンの長剣を模した木剣が立て掛けてあった。

 刃になる部分には鉄が巻いてある。

 重さも長さも上手く合わせてあるようだ。

「義父さんが居ないと、お前も使われず……か」

 ボソリと呟き、その木剣を片手で持ち上げた。

 そのまま肩に乗せ、訓練場へ戻る。


「やはり、義理とはいえ息子になる者よな。

 その木剣を片手で軽々と持ち上げよる」

 ヘルゲ様が笑っていた。

 既に二十人の騎士が、訓練場で待っている。


 俺がその前にたどり着くと早々に、

「はじめ!」

 というヘルゲ様の声が聞こえた。

 声が聞こえるとすぐに一番前に居る騎士に近づき、木剣を大きく横凪ぎにする。

 ベコッという音とともに、鎧の脇の辺りが見事に凹み、数人を巻き込んで訓練場を囲う柵まで飛んでいった。

 その惨状を見て、

「手加減しないと行けませんね」

 と俺が言うと、騎士たちのプライドを刺激したのか、表情が変わる。

 そして次々と俺に向かってきた。

 それをかわし、次々に騎士を木剣で打ち据えると、一撃ごとに騎士が戦闘不能になる。

 そして、最後の一人に瞬時に近づき、薙ぎ払った。

 そして、まともに動けるものは居なくなるのだった。



「訓練ははこれで終わりということでいいですか?」

 俺は倒れた騎士たちに治癒魔法をかけながらヘルゲ様に言った。

 アイナも別の騎士に治癒魔法を使う。

「汗一つかかんか……」

 と、ヘルゲ様が苦笑いする。


 仕方ない。

 ステータスに剣技の上乗せだからな。

 こっちの世界に来て汗をかいたのは、暑かったときか、焦ったときぐらいだ。


「それにしても、その娘といいお前といいバケモノだな。

 剣を使える上に、治癒魔法まで使える」

 ヘルゲ様が言った。


 バケモノ認定いただきました。


 すると、桃色のショートカットに騎士の鎧。

 男装の麗人って奴か。

 身長は俺ぐらい?

 腕を見ると、よく鍛えられているのがうかがえる。

 レイピアだろうか、剣の柄に手をかけ俺を睨んだ。


 桃色の髪の毛っているんだな……。

 どんな色素してるんだか……。


「おお、ラウラ。

 どうかしたか?」

 とヘルゲ様が言う。

「何者ですかこの者は?

 この者たちも情けない、一人の男に二十人がかりでこの様とは」

「仕方ないであろう?

 この者は鬼神の息子になる男だ、見た目はこうでも強さは鬼神に勝る」


 見た目は……何も言えないな。


「この者が『王都騎士団』は弱いなどと言って王都騎士団の名を貶めるかもしれません。

 私が名誉を取り返します。

 私とやり合え!」

 とラウラと言う女性が俺に言いがかりを着けてきた。

「あれ、何者ですか?」

 俺はヘルゲ様に聞く。

「あれか?

 あれは儂の娘だ」

「気が強そうですね」

「ああ、あの性格だ。

 行き遅れておる」

「確かに気が強そうですね」

「手痛いな。

 まあ、その通りなんだが……」

 俺とヘルゲ様がラウラ様を無視して話していると、

「無礼な!」

 と言う。

「お前の伴侶にどうだ?」

 と笑いながらヘルゲ様が言ってきたので

「勘弁してくださいよ。

 無礼者呼ばわりされた出会いなんて最低でしょう?

 それに、婚約しているわけではありませんが俺にはすでに周りに居ます」

と言い返す俺。

 それに対して、

「私もその一人!」

 アイナが割り込んでくる。

「お前、まさか……、幼子に興奮するとか……」


 この(くだり)多いよな……。


「違いますよ、ちゃんとした年齢の人も居ます」

「そうか、ならいい……」

 頷くヘルゲ様。


 やれやれ何がいいのやら……。


「別に本妻にしろとは言わない。

 ただな、女の喜びというのも知ってもらいたくてな。

 あのじゃじゃ馬『自分より強い男としか結婚しない』とぬかしよる。

 まあ、実際に剣の腕だけで言えば、王都騎士団の中でも三本の指に入る。

 騎士団内で娘に勝てる者は儂と息子しかおらず困っておるのだ」

「で、俺に押し付けようと……。

 まさか、今、『鬼神の息子ならなびくかもしれない』と思ったとか?」

 「そういう事だな……」

 目論見がばれ、ばつが悪いのかヘルゲ様が鼻の頭を掻いていた。

「やるのかやらないのか?」

 蚊帳の外のラウラ様は俺を睨みながら言う。

すると、

「おお、ラウラ、この者は情報提供者で、マサヨシ殿。

 クラウス・マットソン子爵……つまり鬼神の息子になる予定の者だ」

 とヘルゲ様は俺の紹介をしたが、聞き入れられずに、

「私はやるのかやらないのかを聞いているのです!」

 ラウラ様に睨み付けられた。

 

 はあ……。


「私はやりません」

「女の私から逃げるのですか?

 まさか、私に負けると思っているのでは?」

とは言ってくるが、

「私は弱い者を相手する気にはなりません」

 と返す。

 弱いものと言われたラウラ様は大声で、面倒臭い俺は静かに言い合っていると、周りに騎士たちが集まってきた。

「我々を汗一つかかずに倒すほど強いのに何でやらないんだ?」

「ラウラ様と戦えばいいだろう?」

「騎士らしく戦え!」

 などと、口々に言う。


 俺、騎士じゃねえし……。


 完全に戦えという雰囲気である。

「はぁ、やりたくないと言っているのに……。

 面倒!」

 と俺は呟くと、リードラ級の威圧をラウラ様にぶちかました。

 すると、ラウラ様が腰を抜かし、目に涙が溜まる。


 あっ、やりすぎたか……。

 知ーらないっと。


 ヘルゲ様は何が起こったのかわからない。

 しかしアイナは気付きにっこり笑っていた。

「ラウラ様でしたっけ?

 俺と戦うならせめて平然と耐えられないと」

 そう言った後、威圧を止める。

「お前、何をやった!」

 何が起こったのかわからないヘルゲ様が俺の襟首をつかむ。

 その腕を払うと、

「さっきヘルゲ様がやった事ですよ。

 俺は気付きませんでしたがね」

 と返した。

「威圧でラウラを……」

「そういうことです。

 俺は情報提供をしに来ただけ。

 見合いをしに来たわけでもないし、ましてや弱い者を叩きに来たわけでもない。

 二十人を相手にしたのも、アイナが言い過ぎたと思ったから相手にしただけです。

 ヘルゲ様には悪いけど、俺はこれで帰りますね」


 そう言うとアイナと共に急いで屋敷に帰るのだった。

 こうして、王都騎士団への訪問が終わった。

 ちゃっかり木剣は貰って帰ってたりする……。


 ちょっと、やらかしたかなあ?



 義父さんの木剣を持って執務室に入ると、

「おお、懐かしいな。

 ヘルゲに貰ったのか?」

 と義父さんが喜んだ。

「誰にも使われず埃をかぶっていましたし、練習用に丁度いいんで、ちょろまかしてきました」

 俺はニヤリと笑う。

「悪い奴だな。

 しかし、有意義に使ってこその道具。

 それでいいだろう」

 義父さんもニヤリと笑う。

「早速、明日から使わせてもらいます」

「ああ、使ってやってくれ」


 続いてラウラ様の事を義父さんに話した。

「ふむ、いいんじゃないかな?」

「えっ、いいんですか?」

「ヘルゲはいい見合いの機会とその時考えたのだろうが、そのおかげでお前というバケモノの一端を見ることができて良かっただろう。

 ラウラと言う娘も自分の遥かに上に居る者を知ることができた。

 まあ、ヘルゲがお前の力を知ればこの子爵家を軽々しく扱えないだろうしな。

 さて、ヘルゲは味方になるか敵になるか……」

 ニヤリと笑う義父さん。

 義父さんちょっと怖いです。


 

読んでいただきありがとうございます。

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