第47話 さて、本来の目的を達成しましょう。
部屋に入り証拠を漁る俺。
多くの手紙や書類が出てきた。
あー、子爵だけじゃなくて冒険者ギルドも組んでたのか。
クリスがこの街に入ったのも筒抜けだったんだろうな。
さて、証拠を全部カバンに入れてと……。
ちょっと時間がかかったかな?
そう思いながら資金や宝飾品をかき集めていると、周囲から赤い光点が続々と集まってきていた。
百を越える。
人身売買組織ってこんなにデカかったのかね?
子爵の領兵でも出てきたかな?
「リードラ、ドラゴンにもどってくれないか?
搭に向かう」
「心得た」
三十メートル以上のドラゴンに戻るリードラ。
倉庫の天井を突き破り、頭が出る。
リードラは俺が背中に乗るのを確認すると、体をよじり穴を大きくして翼を広げ、バサリと羽ばたくと、その風圧で周囲を囲んでいた者たちが吹き飛ばされないように踏ん張る姿が見えた。
去り際に弓だか魔法だか飛んできたが、射程距離から外れたのか、放物線をかいて落ちたり、消えたりしていた。
そして高度を上げそのまま塔へ向かう。
「よし、ここだな。
リードラ、ここらへんでゆっくり回ってもらえるか?」
リードラが翼の動きをを緩やかにして速度を下げ、搭の周囲をゆっくりと飛んだ。
そして鉄格子の嵌まった窓を見つける。
「カミラって子は居るかい!」
と俺が大声で声をかけると、鉄格子の窓から金髪の女性が顔を出した。
確かに美人と言われるだけあるねぇ。
それでも、靡かなかったからって、拐って塔に入れちゃいかんだろう……子爵さん。
聞いたことのあるどこぞの物語のようだ。
「あんたがカミラかい?」
と聞くと、その子はコクりと頷いた。
「壁を壊すから、ちょっと下がって。
そんで、何かの影に隠れていてもらえないか」
少女は頷くとどこかに隠れたのか見えなくなった。
「隠れました!」
と言う少女の声を聞いて、俺はチェーンフレイルを出し壁に叩き込む。
「グシャリ」と言って塔の一部が崩れると三メートルほどの穴が開いた。
ベッドの後ろから俺を見る少女が見える。
すると、
「おっと」
リードラが揺れる。
何かを回避したようだ。
視界の外に、鳥のような姿が見えた。
「下等な魔物のくせをして我に歯向かうか!」
リードラは何かをみ付けていた。
リードラが見る先にはリードラの半分ほどの大きさのドラゴンっぽい魔物が人を乗せて飛んでいる。
「ありゃ何だ?」
と俺が言うと、
「ワイバーンだな」
と、リードラが言う。
「ってことは、あの騎士のような男はワイバーンライダーって言えばいいのかね」
「そう言うことだろうな。
幼き頃から育てれば、魔物といえども慣れる」
「俺のように隷属したとかは?」
「ワイバーンを隷属し使役するような力をあの乗り手からは感じぬな。複数で囲み隷属化した可能性はあるがの」
「それならばリードラにかなわないまでも空を飛べたらフォランカからここまで来るのは数日で何とかなる。
こういう種だったわけね」
「みたいじゃな」
「で、勝てる?」
と聞くと、プライドをくすぐったのか
「我を何だと思っておる。
ホーリードラゴンぞ!」
と吠え、威圧を炸裂させた。
すると威圧を当てられたワイバーンはビクリとして翼の動きを止める。
「ほれ、気絶しおったわ」
墜落するワイバーンを見ながら口角を上げリードラは言った。
「ヒッ」
搭の穴にリードラが顔を入れると少女は悲鳴を上げる。
俺が首を渡って部屋の中に入ると、リードラが人化して、俺に続いた。
唖然とする少女。
見た感じは、酷い目とかには合っていないようだ。
汚れの無いきれいな服を着て、町娘のような格好をしていた。
「えーっと、カミラさんで良かったんだよね」
「ええ、カミラです。
あなたは?」
「マサヨシと言う冒険者です。
あなたのお父さんの依頼を受けて、助けに来ました」
「この方は?」
「ああ、ホーリードラゴンのリードラ。
俺のパートナー」
俺が言うと、
「よろしゅうな」
とリードラが頭を下げた。
「このままでは下から子爵の兵が上ってきます、どうなさるおつもりで?」
心配そうな顔をするカミラさん。
確かに塔の下部には赤い光点が集まってきている。
「もう、オウルに帰るだけですよ」
そう言って扉を出し、再びオウルの屋敷に繋いだ。
そして扉を開けるとオウルの屋敷。
「えっ」
再び唖然とするカミラさんの手を引きリードラと屋敷に戻るのだった。
「ココは?」
驚くカミラさん。
「ん?オウルのマットソン子爵の屋敷」
「えっ、でも、ドロアーテより北に居たはず。
そんな距離をどうやって!」
「そこはまあ、魔道具で移動したんだ」
頭を掻きながら俺は説明した。
「でも何であなたは私を助けたんですか?」
「俺は冒険者だからね、君の父さん……ロルフさんの『君を助けて欲しい』という依頼が冒険者ギルドに出てて、その依頼を受けて君を助けたわけだ」
暇だったから受けた依頼とかは言ったらいけないだろうな。
「あの騎士様は?」
「騎士様?
タロスさんの事?」
「ええ、あの人に勇気づけられて……」
モジモジするカミラさん。
「ああ、彼ならうちの家で雇うことにしたよ」
そんな話をしていると、
「マサヨシ、帰ったのね」
と、クリスが飛びついてきた。
「ああ、帰った。
カミラさんもこの通り」
俺が言うと、
「我のお陰じゃな」
と言って胸を張るリードラ。
「その通りだな。
リードラが居なければ面倒なことになっていた」
そう言ってリードラの頭を撫でた。
嬉しそうにするリードラ。
「私だってちゃんとクラウス様に事情を説明して、セバスさんとミランダさんにダークエルフの娘と子供三人を紹介したんだから。
あっ、ダークエルフの娘の名はマールね。
それで、男の子二人がアランとボーって名前で、女の子がベルタって名前だった。
今食事中。
マールはメイドとしてこの屋敷で働いてもらうわ。
ベルタはメイド見習い。
そして、マールがその指導をする。
あと、アランは馬丁見習い。
ボーは庭師見習いね」
「あとで、俺も父さんに礼を言っておくよ。
ミランダさんが丁度現れたので、
「すみません、この人にも食事を」
と、カミラさんへの食事を頼んだ。
「お帰り、マサヨシ」
「マサヨシさんお帰り」
アイナとエリスが現れた。
「ああ、勉強か?」
「そう、お爺様が教えてくれる」
「丁寧に教えてくれるから、掛け算もできるようになったよ。
でも、アイナ姉ちゃんのほうが凄いんだ。
暗算で割り算もできるんだから」
エリスが尊敬の目でアイナを見て言った。
「それは凄いな」
俺が言うと、
「褒めて」
と胸を張るアイナ。
「ああ、頑張ってるな」
そう言って頭を撫でた。
カミラさんの食事が終わり、ミランダさんが館のホールに連れてきた。
「おお、カミラ嬢。
助かったのですな」
カミラさんを見つけたタロスさんがいうと、カミラさんはタロスさんに走り寄り抱き付いた。
「あなたのお陰で、あの場所で耐えられたんです」
「結局助けられなかった。
今あるのは我が主マサヨシ殿のお陰」
悔しそうにタロスさんは言う。
「それでも長い間、私に声をかけてくださいました」
カミラさんは涙を流していた。
要は、相思相愛?
「あれ、いい感じよね」
「そう見えるのう」
クリスとリードラが俺をチラチラ見る。
「俺にどうしろと?」
「ご褒美が欲しい」
「ご褒美が欲しいのう」
「だから何?」
「本来は抱いて欲しいんだけど、それを言うと断られるから添い寝かしら」
「そうじゃな、我も種が欲しいが、断られるだろうからのう。
添い寝で許してやろう」
再び二人はチラチラと俺を窺った。
「はいはい、かしこまりました」
と、俺が言うと、
「やた」
「やったのう」
「で、どっちが先?」
「リードラでいいわよ」
とクリスが言うと、
「クリスよいのか?」
と、リードラは聞き直した。
「リードラが居なければこんなに早く帰ることができなかったわ。
今日の一番はリードラ。
だから、一番は譲るわ」
こうして添い寝をすることになった。
いつもとあまり変わらない気がするが……。
読んでいただきありがとうございます。
また、誤字脱字の指摘、大変助かっております。




