第46話 証拠以外にも色々あるようです。
この男とヴァルテル・アッテルバリ子爵の関係を表すものを標示させてみた。
数個の光点が一か所に集まる。
あの辺か……。
「さて、クリス、リードラ、二人の関係の証拠の場所もわかったから、行きますか」
「場所がわかったの?」
「ああ、既に表示させてある」
リーダーの男を放っておき、銀貨を一枚机の上に置くと、店を出た。
「律儀ねえ……」
ため息とともにクリスが言う。
「でもそれが良いのだろ」
リードラの言葉に、
「まあ、そうなんだけどね」
と、手を頭の後ろで組み、上を見ながらクリスは言う。
光点の場所は古びた倉庫のような場所だった。
入り口の扉を開けるとアンモニア臭がする。
中には何個かの檻があり、その中に死んだような目をした三人の子供たち。
他にも顔が潰され手の指に欠損がある女性や、元闘士だったのか筋骨隆々の熊のような男も寝転がっていた。
ああ、洗っても貰えないのか……。
クリスが俺の左手にしがみつき震えている。
「二度とこんな場所に来たくはなかったけど、仕方ないわね」
調教を受けた場所らしい。
精一杯の強がりなのだろう。
「誰だお前」
筋骨隆々の男が俺を見て言った。
「私はマサヨシと言う魔法使い。
カミラという娘を探しているうちに、色々あってここに来ました。
あなたは?」
「カミラ嬢だと?
俺は子爵家の騎士小隊の小隊長をやっていたタロスというものだ。
カミラという娘は、屋敷の塔に囚われている。
主人に『カミラ嬢を、早く返すように』と進言したが聞き入れられず、このザマだ。
あまりにしつこく言ったせいで、主人に嫌われたのだろうな」
「塔の上に居ることは知っています」
「ならなぜこんなところに」
「まあ、この人身売買組織と子爵との繋がりを確認したくて証拠漁りですね。
証拠があるのは、その部屋だというのはわかっています。
集めて帰るだけです」
「俺たちは?」
タロスさんが聞く。
すると、
「タロスって言ったわよね」
クリスがタロスに向かって言った。
「ああ、俺の名はタロスという」
「あなた、通り名を持ってなかった?」
「恥ずかしながら『豪腕』という通り名を持っている」
「確か数年前、豪腕という冒険者が貴族に召し抱えられたと聞いたことがあるわ」
「しかしながら、その豪腕も奴隷に落とされ、売られるのを待つ身」
自嘲気味にタロスさんが笑った。
「うちに来ませんか?
強い方が居るのは助かります。
セバスさんには申し訳ありませんが、あの子供たちも、そこの女性も連れて行きますか」
「あの娘は多分売れ残り。
買ってくれる人が居なければ、ああいう女性をいたぶるのが趣味な男たちに売られるの。
それでもいなければ、食事を抜いて、餓死させる」
そう言ったクリスが何かに気付く。
「えっ?
黒い肌に先細った耳。
まさかダークエルフ?」
とクリスが言った。
「その娘は子爵の手付きを嫌がった時、振るった手が顔に傷をつけてしまったのだ。
その罰として手の指を飛ばされ顔に傷をつけられた。
黒エルフとはいえ、美しい娘だったのだが……」
と、タロスさんは言った。
俺はダークエルフの女性に近づき、治癒魔法をかける。
いつもより魔力を上げ、全快を目指す。
すると、みるみる指が生え、腫れた顔も戻り一人の美しいダークエルフになった。
「お前……。
何者なんだ?」
タロスさんが俺を見て驚いていた。
「ただの魔法使いですよ。
はい、これで治療完了」
と言ってダークエルフの肩を叩くと、
「あっ、目が見える。
指も……。
顏も……。」
そう言って、体中を触りながらボロボロと涙を流すダークエルフ。
「あのお兄ちゃんすげえ」
「私たちはどうなるんだろうね」
「あのおっさんはスカウトされていたみたいだけど」
子供たちが驚いている。
まっ、連れていくけどね。
タロスさんとダークエルフの女性、男の子二人に女の子一人を檻から外に出して並べた。
「さて、どっちにしろ隷属の紋章があれば何かしらの制約がついていると思うので、所有者変更をします」
俺が収納カバンから契約台と紙を出すと、五人は驚いていた。
「このカバンは俺専用なんだ」
と、言ったあと
契約書に俺の奴隷になる旨を書き、五人の所有者を俺に変更する。
「魔法書士なのか?」
と、タロスさんが聞いてきたので、
「モグリですがね……魔法書士紛いのことができるって訳です」
と、俺は言った。
「さて、私のあなたたちへの制約は、奴隷でないこと。
犯罪を起こさなければ自由にしていいです。
もし、我がマットソン子爵家に就職を希望であれば雇います。
家に帰ったり別の場所に行くというのであれば、止めません」
「私は……、あなたに恩がある。
マサヨシ様を主にする。
だから雇ってくれ」
タロスさんが言う。
「私はメイドとして働くことができます。
子爵家で雇ってください」
ダークエルフの女性が言った。
「僕らも雇ってもらっていい?
農作業の手伝いぐらいしかできないけど……」
「私は子守ぐらい……」
「俺は、木こりの真似事」
子供たちが言ってきた。
「主よ、この子達は家のために売られてきた子達だ。
根性もある。
雇ってはもらえんか?」
と、タロスさんが言う。
「主」は、ちと速いんじゃないかな?
「主よ、この子達は主に隷属したのだ。
ステータスは上がっておる。
力仕事でも何でもこなすぞ」
と、リードラがニヤリと笑った。
「もとよりそのつもりだよ。
君らも雇う」
と、俺が言うと、
「「「やたっ」」」
と言って子供たちは飛び跳ねて喜んだ。
「それじゃ、クリスは五人を連れて先にオウルに戻ってもらおうか」
と俺が言う。
「えっ、何で?」
不服そうなクリス。
「五人をここに置いておいても仕方ないだろう?
後は証拠品を探して、塔の上に飛んで、カミラって娘を連れて帰るだけだから、クリスには五人を連れて帰ってもらって、義父さんとセバスさん、ミランダさんに紹介しておいて。
あと、風呂と食事もね。
それに、クリスはここが嫌いなようだ。
だから……な」
「うん、わかった。
ありがとね」
とクリスは言った。
俺は扉を出し、オウルの屋敷に繋ぐ。
五人は唖然としていた。
「はい、向こうはオウルだ。
後のことはクリスに任せてあるから、よく言うことを聞いてくれ」
と、言うと、
「はい、私に続くようにね。
何も怖くないから」
と言うクリスの言葉に従い、五人ははキョロキョロしながら扉を越え屋敷に歩いていくのだった。




