第45話 勝手に食事をしていると、まあ出てくるものです。
「まあ、とりあえず、飯食おう」
俺がさっと入った宿屋兼食堂のような店。
別に綺麗でもなく汚いでもない普通の店だった。
「これ、私が眠らされた店」
と、クリスが小さな声で言う。
「嫌がらせでいいじゃないか」
「そうじゃのう、余計なことをせんでも意中の者たちは集まる」
俺とリードラはニヤリと笑った。
「いらっしゃい……ませ」
店員には報告はされていなかったのか、クリスを見ると顔色が変わった。
クリスの事を見たことがあるのだろう。
まあ、エルフなんてなかなかいないらしいから、余計に覚えているのかもしれない。。
「適当に見繕って持ってきてくれ」
そう言って俺たち奥のテーブルに座る。
「畏まりました」
と言って調理場に戻った店員を表す光点は赤くなっており、誰かに接触すると、外に向かった。
赤い光点がみるみる外に集まってくる。
「この店自体が人身売買組織の店らしいね」
こりゃ、戦闘になるかな?
ちなみにクリス、暴れたい? 守られたい?」
と聞くと、
「私は……守られたいかな」
恐怖が先立つのかクリスに元気が無い。
そう言ってクリスが俺の後ろに回る。
「ならば我は暴れるかの」
リードラは指を鳴らしながら立ち上がると、ドタドタと十人程の男が中に入ってきた。
そして一歩前に出たリーダーらしい男がクリスを見ると、
「クリス、戻ってきたのか。
俺の責めが忘れられなかったか?
ヒイヒイとヨガっていたからな」
と、ニヤリと笑ってクリスに言った。
クリスも思い出したのか顔をしかめる。
ふむ、こいつがクリスをね……。
「にしても、そこに居るデブは別として、そんな美人まで連れてくるとはな。
そんなに俺の事を……」
と、再びリーダーの男は言った。
そんな話を遮るように、
「何を勘違いしているの?
あんたなんか知らないわ、私の主人はこのマサヨシ。
私がここに来たのは、カミラって娘を捜しに来ただけ
あんたらが恋しくなってここに来たわけじゃないわ!」
声を荒げてクリスが言った。
少し震えている。
「カミラ」という言葉を聞いた途端、リーダーの男の目が細くなる。
何か知っているようだ。
リーダーの男が、
「お前、なぜその名を……」
と、クリスに聞く。
「マサヨシが探し出したの。
そこの塔の上に居るんでしょ?」
クリスは笑って言った。
「クリス、そこは言わなくてもいい事だと思うぞ?
多分俺たちを生かす気はなくなったんじゃないかな?」
俺がそういうと、
「よくわかったな。
そこまで知っていては生かしておく訳にはいかない、死んでもらおう」
多勢に勢いがあるのか、リーダーがニヤリと笑った。
「クリス、こいつらは生かしておいたほうがいいよな」
と聞くと、
「そうね、背後に誰が居るのかも知りたいから、生かしておいて」
クリスが言った。
「わかった」
そう言った後、俺は「フッ」っと息を吐き加速し、リーダーの男の脛を蹴った。
ボキリと音がして足があらぬ方向を向く。
リーダーの男の「ギャー」という声で戦闘が始まった。
魔法使い風のローブのリードラが近づき拳を振るうと、衝撃でリーダーの男の後ろに居た者が吹き飛ぶ。
そのあまりにも違和感のある姿に店内に居た男たちが固まった。
それを見た俺も拳を振るい、手下の鳩尾を殴る。
店の中に居た手下たちは俺とリードラに蹂躙され、数秒もかからず血反吐を履いて気絶する者、意識があってもどこかを押さえ動けない者が転がった。
そして、リードラは店の入り口で仁王立ちになる。
「おい、あれ……」
手下たちがリードラを指差していた。
それはそうだろう、リードラの白いローブには返り血が付き、ある意味美しい模様になっている。
そして、拳は血に濡れたまま。
その姿でリードラは手下たちを見下ろし笑っている。
まずあり得ない光景だ。
すると、リードラは階段を降りながら、
「お前たちもクリスに何かをしたのか?」
勢いに動けない手下たちを見ながら言った。
手下たちは、
「考えてもみろ数はこっちのほうが多いんだ」
「確かに、全員でやれば」
と言い、お互いにうなずき合う手下たち。
しかし、リードラはその心を折るように、一人の手下にすっと近寄ると、下顎に手をかけミシリと音をさせて外す。
すると、
「主よ、死んでおらんからいいのだろ?」
と聞いてきた。
「お前、話せなきゃダメだろ」
「おお、すまん。
しかし、リーダーは確保しておる。
なら、問題ないだろ?」
「おっ、そうだな。
じゃあ、殺さなきゃ良し!」
そう言うと、リードラは加速を始め手下たちの間を駆け抜けると、全員を伸してしまった。
んー、俺の出番がほとんどない……。
俺たちは再び店に戻り、
「おすすめを食べていないんだが、いつになったらできる?」
と、店員に声をかけると、
「はっはい!
すぐに!」
恐怖からなのか調理場から店員の裏返った声がする。
そして、俺たちは席に座って落ち着くと、
「たっ助けてくれ。
金なら出す」
と言いながらリーダーの男が這いながら近寄ってくる。
骨が折れ内出血を起こしているのか足が真っ青だ。
貧血にもなっているのだろう。
「助けてもいいけど質問に答えてくれたらかなあ?
まあ、月並みだが、後ろ盾は誰?」
「そんなこと言えるはずがないだろ!
俺が殺される」
リーダーの男がそう言った時、
「でっ出来上がりました」
と言って、丁度手を震わせながら店員が肉炒めを持ってきた。
パンにワインも付く。
おお、結構な量。
一度、全ての料理を収納カバンに入れてみると、「肉炒め(痺れ薬入り)、パン(睡眠薬入り)、ワイン(毒入り)」の表示。
まあ、一度収納カバンに入れるってあからさまに不自然だが……。
「毒見で俺が先に食うよ。
それじゃ頂きます」
そう言って食べ始める俺。
体にはキュアーの魔法を纏っておく。
食べ始めた俺を見たリーダーの男がニヤリとした。
「うぐぁぁ。
体がぁ……」
苦しむ風で転げまわるってみた。
「馬鹿め。この店の者は俺の手下。
毒をちゃんと入れていたみたいだな」
勝った気でいるリーダーを尻目に、
「迫真の演技ね」
「派手じゃのう」
クリスとリードラが笑って俺を見て言った。
俺はやはり嘘は下手なようだ。
「あっバレてた?
やっぱり?」
汚れを払いながら俺が立ち上がると、
「一度収納カバンに入れて、わざわざ毒見するって言うんだもの」
と、呆れたようにクリスが言う。
「食べる前に魔力も纏いおったしな」
結局リードラに種まで明かされてしまった。
「えっ、何だ?」
それでもリーダーの男は訳がわからない。
「味は良かったよ。
でも、毒が入っているのはいただけないなぁ。
食事に痺れ薬を入れて動けなくしてからクリスを手に入れたわけか」
ウンウンと頷くクリス。
「知らない」
とリーダーの男は言うが顔には脂汗が浮いている。
当たりのようだ。
「でさ、後ろ盾って誰?
ヴァルテル・アッテルバリ子爵ってのか?」
俺が聞くと、
「なぜ、その名を……」
とあからさまに驚いた。
ふむ、これも当たりか。
「『カミラ』って名で大分驚いたからな、ちょっかい出してたって言うこの名が絡んでもおかしくは無いだろう?
その反応からして、ヴァルテル・アッテルバリ子爵で問題なさそうだね。
ちなみにここはその子爵の領地とか?」
「そんな事も知らずに、この場所に来たのか!」
リーダーの男に突っ込みを入れられてしまった。
「いやーごめん。
カミラって娘を連れに来ただけだからねえ。
誰の領地とか関係ないんだ」
と頭を掻きながら俺が言うと、
「マサヨシらしいわね」
「だな」
と、クリスとリードラに言われてしまうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
……予約投稿の失敗。
そのまま行きます。




