第44話 オウルで依頼を受けてみよう。
ダンジョンに入る入洞許可を得るには一か月かかると言われ、ダンジョンを攻略しようと意気込んでいた俺には結構な間が手持ちぶさたになってしまった。
「暇なんでしょ?
依頼でも受ける?」
俺の横に来るとクリスが言った。
クリスも暇そうだ。
「我も暇だ。
付き合うぞ。
一度、依頼というものを受けてみたいと思っておったのだ」
とリードラが乗り気で言った。
しかし、アイナは、
「私は今からおじいさまとお勉強。
行きたいけど仕方ない」
と言ってがっかりする。
そして、執務室のほうへ歩いて行く。
義父さんはアイナに教育を施している。
高いINTのせいか吸収が早い事に喜んでいるが、それ以上に王の落とし種かもしれないということで『王女としてふさわしい教育をしなければ』と考えていたようだ。
俺は王女だろうが何だろうがいいんだがなぁ。
あまり目立つのもよろしくないと思うが……
ということで、一緒には行けないということらしい。
エリスが俺のところに来て「おはよう」と言ってたから、二人で一緒に義父さんと勉強をするのだろう。
「まあ、カリーネにも『依頼を受けて欲しい』と言われていたし、何か依頼を探してみるか」
俺はそう言った。
結局のところオウルの冒険者ギルドに行く。
美女に囲まれたメタボ。
弄られそうだと思っていると、案の定若い冒険者に絡まれた。
しかし、リードラが睨み付けるとそそくさと去る。
「普通の冒険者じゃ、リードラの威圧に屈するでしょうね」
クリスが苦笑いしながら言うと、
「我と話したくばこのくらいの威圧、どこ吹く風でないとな。
主など汗さえかいておらん」
と言われた。
ああ、威圧してたんだね。
気づかなかったよ。
リードラの威圧のせいか依頼の掲示板の周りが空いたので見ていると、
「あら、どうしたの?」
と、カリーネも現れる。
カリーネは大丈夫なのね……。
「誰かさんが『時間があるなら依頼を受けて欲しい』と言ってただろ?
だから、依頼を受けようと思って見てたわけだ」
「仕方ないじゃない。
時間がかかるんだから」
拗ねるカリーネ。
「カリーネのせいだとは言ってないだろ。
ゼファードで申請したら、もっと時間がかかるんだ。
手続きがすんなり進むのは、カリーネのお陰。
ありがとう」
と頭を下げると、カリーネの機嫌が少し戻った。
いつもながら留守番している依頼を探す。
すると、一枚の黄ばんでいる依頼表を見つけた。
「娘を連れ帰って欲しい。
発見者には我が財産を捧げる」
と言う、切実なもの。
俺が手に取った依頼表を見て、
「ああ、それね。
四か月ほど前にロルフと言う豪商の娘であるカミラが叔母に会いに行く道中で居なくなったの。
殺されたとも拐われたともわからない。
一人娘でね、美しいと言われていたわ。
護衛は殺され、移動に使った馬車だけが残っていた。
道中用のお金は残っていて、物取りではないと言われている」
「物取りでないというのなら、恨まれて殺されたか美貌を狙って攫われたかだろう?」
「皆、そう思っていた。
しかし実際にはしばらく経っても犯人は見つからなかった。
捜索も打ち切られると言われる頃に、この依頼が出たの。
でも、多くの冒険者が豪商ロルフの『財産』を得られると言うことで娘を探したんだけど、見つからなかった。
結局、依頼未達の山ができただけ」
「無理難題の依頼で、未達にされるとは……」
「仕方ないでしょ、依頼主は諦めていないのに冒険者のほうが諦めているんだから」
俺はレーダーにロルフの娘、カミラを表示させてみた。
するとレンジ外だが光点が光っている。
「生きてはいるみたいだね」
俺が言うと、
「なぜわかるの?」
と、カリーネが聞く。
「んー俺だからかなぁ」
俺は言う。
「そうねマサヨシだから」
「マサヨシだからのう」
そして、レーダーのことを知っている二人は頷いた。
「それで、カミラって子にちょっかい出してた男とかいないの?」
「ヴァルテル・アッテルバリ子爵が王都に居る時に『妻に』とか言ってちょっかい出していたんだけど、子爵の領地がドロアーテの向こうの辺境。
攫われた場所がゼファードの先の街フォランカだから、ロルフの依頼で王都内のアッテルバリ子爵の屋敷内部も探したようだけど、娘は居なかった。
勘違いを許してもらうために賠償金を大分払わされたみたいだけど……。
領地もフォランカの反対のドロアーテの先だから、移動は不可能と考えて捜索されなかったみたいね」
ヴァルテル・アッテルバリ子爵の線が濃厚。
でも、この世界には飛行機などはない。
移動距離を克服するのは難しいか……。
まあ、実際に行ってみたら、誰がどんな手を使ったのかわかるだろう。
俺は少し考え、
「これを受けるよ。豪商との縁なんて滅多に手に入らない」
言うと、
「財産は要らないの?」
とカリーネが聞く。
「店なんぞもらっても、経営ができる訳じゃないしね。
それこそロルフって人に俺の考えを実践してもらう方がいいや。
まあ、財産云々無しで、そのカミラって人を助けに行くよ。
だから受け付けお願い」
依頼表をちぎりカリーネに渡すと、カリーネはそれを受け取り受付嬢の所へ行って手続きを始める。
そして、受付が終わった依頼表を俺の下に持ってきた。
「はい、受付したわ。
でも本当に大丈夫なの?」
「クリスもリードラも強い。
戦力的には問題ない」
俺が言うと、クリスとリードラがずいと前へ出る。
使えますアピールでそんなに前に出なくても……。
「移動に関してもリードラが居るから心配ないしな」
「そう言えば、リードラはドラゴンだったわね。
飛べるの?」
とカリーネが言った。
「ああ、だから、行って助けて帰ってくるだけ。
少々証拠もあればいいかな。
じゃあ、行ってくるよ」
そう言って、俺とクリスとリードラは冒険者ギルドを出た。
数分後には俺は例の扉でオウルの外に出て、ドラゴンに戻ったリードラの背に乗っていた。
背中に抱き付くクリス。
レーダーに従いカミラの反応を追っていると、ドロアーテが見えてくる。。
「凄い速さね」
「オウルに行った時よりも早いな」
クリスと俺が言うと、
「主に引き上げられた力を、やっと思うように使えるようになったからの」
リードラは振り返りながら言った。
前以上に強くなった訳か……。
ドロアーテを過ぎいくつかの村を越えた先に街が見えてきた。
俺のマップにはフーティーの街と書いてある。
その町の中心にあるひと際大きな屋敷のなかの不似合いに高い塔に光点が表示されているのがわかった。
しかし、クリスの様子がおかしい。
「どうかしたのか?」
俺が聞くと、
「ココ、私が奴隷にされた街」
と、ボソリと言った。
「そうか、だったら、ついでと言っては何だがクリスを虐めた人身売買組織も潰しておこうか」
「そんなことしなくても……」
クリスは口ごもったが、
「クリスみたいな人が増えるのも良くないだろう?」
「でも、私はマサヨシに会えたから」
「しかし、別の人が俺に会えるとは限らない。
だから、潰しておくよ。
もし、嫌なら、街に降りた時に扉でオウルに帰ればいい。
俺とリードラでも十分対応できるだろうしな」
「一緒に行かないとは言ってないでしょ。
でも、少し怖い」
フーティーの街で何があったのかはクリスに聞いたことは無いが、その事がトラウマになっているようだった。
「クリス、何を言っておるのだ?
なぜ、奴隷である今の自分に自信を持った?
主が居てくれたからではないのか?
お前より強い我だっておる。
だから、戦わずとも守られておれば良い。
この街で何をされたのかは知らぬが、圧倒的な力で蹴散らせて見せよう」
リードラはドラゴンの顔で振り向き、口角を上げながら言った。
「そうね、マサヨシもリードラも居るもんね」
そう言ってクリスは笑ったが、体は震えているのがわかった。
俺たちは街道脇に降り、入街手続きを終えると街の中に入る。
クリスは俺の左腕にしがみ付いてはいたが、何事も無いように街の中を歩いた。
しかし、クリスを知る誰かが気付いたのだろう。
街の中心に進むごとに敵意を表す赤い光点が一つ、また一つと増えていく……。
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