第36話 それぞれの理由
再びの空。
俺とリードラははレーダーに表示された『嫁さん』の光点を目指して飛ぶ。
すると、マップ上にはゼファードという文字が現れた。
ダンジョンがあると聞いている。
光点はそのど真ん中にある。
「あの街に『嫁さんの遺体』があるようだ」
俺が言うと、リードラは高度を落とし、人気のない森へ降りた。
遠くに見えるゼファードの街の外壁は、ダンジョンがあり魔物が身近であるにもかかわらず意外と低かった。
その街の入口にはいろいろな装備の冒険者が並ぶ。
ダンジョンに希望を持ち、この街へは続々と冒険者が来るようだ。
その列に俺とリードラは並んだ。
豊満なリードラの胸に手を出そうとした冒険者にアイアンクローをするリードラ。
アイアンクローをしたまま片手で冒険者を持ち上げると、
「俺の仲間に何をする!」
と、声を荒げて冒険者たちが言った。
「我の乳はこのマサヨシの物なのに、この胸を勝手に触ろうとしたからだ。
何か?
冒険者と言うのは、見つけた女の胸を触るのが仕事なのか?」
冒険者を煽るように声をかけるリードラ。
「リードラ、落ち着け!」
「主……」
俺を見るリードラ。
「申し訳ありません。
この者は事情があって少し気が立っているようです。
しかし、そこの男が手を出さなければ何もなかったのも事実。
痛み分けじゃいけませんかね?」
パーティーのリーダーっぽい男に聞いてみた。
「フン、まあいい。
どうしてお前のようなデブにそのような美女が付くのかは納得できないが、こちらに非があるのは確かだ。
ここまでで痛み分けということにしよう」
デブに美女は納得できないが、冒険者にアイアンクローは納得してくれるらしい。
入街手続きをして街の中へ入る。
さすがにダンジョンの街だけあって冒険者の数が多かった。
既に俺のレーダーには嫁さんの位置表示がされており、その場所に向かって俺たちは歩いて行った。
街の外壁が低かった理由はダンジョンの入口に近づけばわかった。
そこには王都オウル並みの高さの壁で囲まれた一画があり、その正面に扉が付いている。ダンジョンの入口になっているのだ。
ファンタジーと言えばダンジョン、定番の場所である。
必要な部分を強化しているわけね……。
コストの面もあるのだろう。
そして、亡骸のあると思われる場所にたどり着く。
「やっと来た。遅かったわね」
ん?
何かが聞こえた?
でも聞こえる方向はハッキリしない。
「誰か居るのか?」
俺は周りを確認しながら言った。
メタボな俺がぐるぐると回りながら周囲を見る。
滑稽なのではないだろうか……。
「あなたには見えないのね」
「ああ、見えない」
俺は見えない者に言った。
「でも私にはあなたがわかる。
だってあなた変わってないもの。
フフッそういう呪いにしておいてよかった」
嬉しそうな声が聞こえる。
目に魔力を回し、見えないものを見ようとすると、リードラと見まごう姿の女性が居た。
「リードラ?
いや違う」
思わず声を出すと、
「あっ、今、私の姿が見えたのね」
嬉しそうに笑う女性。
「でも、この姿だとわからないか……残念ね」
しかし、口調から誰だかわかった。
姿も変わり声も変わっているが……
「まさかミハルか?」
と聞いてみると、
「そう、やっと気づいた?」
嬉しそうにミハルが言った。
「母様?」
リードラにも声は聞こえているようだ。
「元気だった?
あなたマサヨシに会えたのね」
「はい会えました。色々あって主の奴隷です」
リードラはミハルに言った。
「そうなの、それにしても奴隷ってまた極端ね」
「私が失敗をして、封印の杭に縛り付けられていたところを主が助けてくれたのです」
いきさつを話すリードラ。
「それは大変だったわね。
マサヨシは優しい?」
「はい、主は優しい」
久々の母親の声に嬉しそうにリードラは話した。
俺は声をかける。
「で、何で俺はこんな風にこの世界に来たんだ?」
「私が会いたかったんだから仕方ないじゃない。
だから呪いをかけた……。
文句ある?」
嫁さんは落ち着いた口調から逆切れ気味に変わる。
「遅いのよ!
なんでもっと早く来ないの?
私、もう死んじゃってるじゃない!」
「そんなこと言われてもなぁ……俺も死にかけてこっちに来てるし」
嫁さんにタジタジな俺……。
「私の旦那ってのはマサヨシしかいないんだからね」
ちょっと恥ずかしい一言……。
「ちょっと疑問に思っていたんだが、なんで俺メタボな体のままなの?
俺、この年齢の時だとバキバキだったはずなんだが……」
「だって、私、その体形のあなたしか知らないから……。
呪いをかける第一条件は『容姿を変えない』ってことにしたの」
「そういやそうだな。
でも俺の若いころの写真を見せたことがあったはずだが」
と俺が聞くと、
「…………」
沈黙が続く。
「忘れたんだろ?」
「その通り!
ご名答です」
あっ、認めた……。
「でもね、毎日会っていた姿と写真でしか見たことのない姿でどっち選ぶと言ったら、毎日会っている姿を選ぶのは当然だと思うんだけど?」
「言われてみればその通りか……。
しかし変わってねぇなぁ」
「変われないんだから仕方ないでしょ?」
当たり前のようにミハルが言う。
「それで、今の俺はステータスが全てEXで二十二歳なんだけど、その辺は呪いに入ってた?」
「私が条件として出したのは、メタボな恰好のあなた。
後はランダム。
条件つけ過ぎちゃうと私の寿命が尽きちゃうから……」
呪いってそんな物らしい。
「ってことは、たまたま?」
「そういうことになるわね」
「お前、適当すぎ!」
と、ため息をつきながら言うと、
「今更でしょう?
知っているくせに」
と、胸を張って当たり前のように返された。
ああ、知っている。適当でめんどくさい奴。
でもな、それでも好きだったんだ。
まあ、ここで面と向かって言えないがね。
「ああ、知ってるさ! お前の適当さに何度苦汁を飲まされたか」
口に出るのはこんな言葉……。
「適当な私にもお願いがあるの」
嫁さんの声が急に真剣になる。
「何だそれは? まあ『できることなら』ってことになるが」
「あなたなら出来る。
私を殺して!」
「どういうことだ?
お前死んでるだろ?」
「あの山から私の遺体はこのダンジョンの最深部に転移させられて、ここのダンジョンマスターに私の体を使われているの。
遺体をアンデッド化して最終階のラスボスって奴?
だから、私の体を倒してほしい」
「夫婦喧嘩しろってこと?」
それを聞いてミハルはフッと鼻で笑うと、
「そういえば夫婦喧嘩なんてしなかったわね」
と、言った。
「お前が死んでから今でも引き摺っているよ」
と、俺が言うと、
「私は七千年以上よ!」
と、ミハルは怒ったように言い返してきた。
「おいおい、リードラから聞いてたが七千年以上って長すぎるだろ!」
フンというと、
「転生したら、寿命の長い高位のドラゴンだったんだから仕方ないじゃない。
なーんにもない洞窟の中。
私って元々ジャニー〇関係以外出不精だったでしょ?
だから、洞窟で何にもしなかった。
魔力は自給だから別に食べなくても良かったし……」
怒ったように言った後、
「でもね、結構モテたのよ。
魔力が凄いって、色んなドラゴンが洞窟に来たわ。
でも、あなたが良かったの。
あなたに呪いをかけて、結果を待って、なかなか来なくて……」
長い間を振り返るように言った。
「俺は三年か……。
『ちゃんと生きなくちゃな』って思ってな、頑張っていろいろやってみた。
お前が居たころは家事なんて全然だったが、料理、洗濯、掃除、お手の物になったぞ。
で、子供がトラックに轢かれそうになって、命を投げ出したんだ。
まあ、そのせいでこの時期に……」
「気にしないで。
それでも、私はあの子……『リードラ』って呼んでるんだっけ?……が居たから楽しかったわよ?
『子供って可愛い』って本当に思えた。
本当はあなたとの子だったら良かったんだけどね……」
「すまん」
無理なのも理解しているが、その言葉しか出なかった。
「でもね、あの子は私と同じ遺伝子。
クローンみたいなもの。
育った場所が違うだけ……。
だから結局私と同じ。
そしてあの子があなたの傍にいた。
それだけでも嬉しいの。
あの子だけじゃなく他にも居そうだけど……」
ジロリと睨まれたような気がした。
「ああ居るぞ? リードラ以外にもエルフと人の子、更に獣人だ。お前のせいでいろんな女の子と会ってる」
「モテモテね」
「流れでそうなったんだ。
お前の呪いのせいだろ?」
「呪いだけじゃないと思うわよ?
あなた優しいから……」
ミハルは静かに言った後、
「これならば、私の体を倒せるわね。
あなたには既にこの世界で守るべき女性たちが居る。
私はもうこの世に居てはいけない存在。
でもこのダンジョンのダンジョンマスターであるリッチが私の体をこのダンジョンの最下層に転移させて操っているの。
私も体に引き寄せられてここに居る。
だから私の体を倒して、私を解放して!
もう私はあなたに会えた!
話しもできた!
だから思い残すことは無いの!」
最後には涙を流し、大きな声で懇願するミハルが居た。。
「ああ、元々のダンジョン攻略するつもりだった。
だから、お前の体は倒す!」
「ついで感が漂うわね。
まあ、あなたらしいかな?
ただ、簡単には倒されないと思うから覚悟しておくことね」
「それって、悪役的セリフじゃね?」
夫婦の会話、それも普通の夫婦じゃない会話に入れないリードラ。
「ついでだろうが攻略する!
それじゃ準備があるから一回ここから離れるぞ?」
「頼んだわよ!」
俺はその声を聞きながらダンジョン入り口前を離れた。
読んでいただきありがとうございます。
予約の予定が今投稿してしまいました。
失敗です。




