表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/175

第34話 待ち人来たらず。

 何かと体面を気にする貴族。

 養子縁組の申請は馬車が使えるようになってから、ということになった。

 オークキングの素材を渡し、馬具ができるまで一か月半。

 何をすればいいのやら……。


 とは思っていたのだが、元々の目的がゼファードのダンジョン攻略であるため、攻略の準備をすることにした。

 朝食を終え俺の部屋で話をする。

「クリス、ダンジョン攻略に当たって必要な物って?」

「それは食料、水あとテントとか野営の道具ね。

 でも、マサヨシの場合収納カバンと例の扉で関係ないし……それを考えると装備かしら」

「装備かぁ……武器としては、家宝というオリハルコンの長剣と、チェーンフレイル、聖騎士の剣、クリスはレイピアだったっけ?」

「そう、このレイピアが私の武器」

 パンと腰に付けたレイピアを叩くクリス。

「だったら、俺は家宝の剣を使う。

 リードラにチェーンフレイル。

 聖騎士の剣はアイナが使えばいい」

(われ)がチェーンフレイル?

 爪があるから大丈夫。」

「そうか、爪があったか……。

 しかし、俺が知ってるガンダ〇って物語に出てくるハンマーに似ててな。けっこう俺のお気に入りだったんだがな……」

「〇ンダム?」

 固まるリードラ。

「ガン〇ムだと!」

 何かを思い出したようにリードラが叫んだ。

「そう……だけど……どうかしたか?」

 あまりの変わり様に俺は戸惑った。

(ぬし)の名前は『マサヨシ』だったよのう?」

「ああ、いかにも俺の名前は『マサヨシ』だが?」


 こんな和名な奴この世界に他に居るのか?


 リードラは何かを思い出そうとしていた。

「マサヨシ、ガ〇ダム、マサヨシ…………」

 呪文を唱えるように俺の名前と某アニメの名を連呼する。

 そしてリードラの目が大きく開と、

(ぬし)よ、『ジェイアール』という言葉を知っておるか?」

 と聞いてきた。

母様(ははさま)は『あるふぁべっと』という言葉だと言うておった。

 (ぬし)らしい答えを貰いたい」

「アルファベットでJR?」


 Japan・Railwayの略?

 でも普通だ。

 あえて俺らしい言葉なら……、

「ジョ〇ー・ライデン?」

 そう答えると、リードラが俺をじっと見る。

 そしてまた俺に尋ねた。

「『エスエム』という言葉を知っておるか?」

「SMかあ……俺なら、シ〇・マツナガ?」

 と答えた。

「これで最後じゃ、『でぃーぜっと』と言えば?」

「ドズ〇・ザビじゃね?」


 急に上を向きリードラのほほを涙が伝う。

母様(ははさま)

 待ち人は来られました!

 ただ、遅かった……」

 上を向いて叫ぶリードラ。

 その様子に俺だけでなくクリスもアイナも驚く。


「おいおい、何のことだ?

 訳が分からない」

 俺はリードラに詰め寄った。

母様(ははさま)は言うておった……。

(われ)は転生した……一人は寂しいと……。

 (われ)は呪いをかけた、夫をこちらに呼ぶ呪い……。

 ただ、いつ来るのかはわからぬ。

 (われ)が死しても現れぬ時、一度世に出てマサヨシという男を探してもらえぬか?』と……」

「えっ」

 俺は絶句した。


「私にはマサヨシという者を探す手立てがありませぬ」

 と言うと、リードラの母親は

「大丈夫、『あるふぁべっと』だと言って、『ジェイアール』、『エスエム』、『ディーゼット』という言葉を投げかけ、その者らしい答えを出してもらえばいい。

 その者が『ジョニー・ラ〇デン』、『シン・マツ〇ガ』、『ドズル・ザ〇』と答えるならば、まず間違いなく(われ)の夫『マサヨシ』に間違いないと言うておった」

 しばらくの間、何も言わず考えてしまう。


 嫁さんがこっちに来ていたのか……。

 何で中二病みたいな言葉使ってるんだ?


 リードラは続ける。

母様(ははさま)はもう居らぬ。

 亡くなられた。

 (われ)母様(ははさま)の遺志に従いマサヨシを探したのじゃ。

 まあ、あのデンドールという商人に捕まったがの……。

 お陰で母様(ははさま)の夫、マサヨシに会えた」

 リードラは本当にうれしそうに笑った。


 ふと、

「リードラ、嫁さんは幸せだったのか?」

 言うと。

(ぬし)よ、(われ)にはわからぬ。

 たまに『ジャニー〇Jrを見たい!』

 特に『スノー〇ンが見たいのう』などと文句を言っておったが……」


 そういや、自分でコンサートのチケット取って、東京、大阪、神奈川いろんなところに行っていたな。

 興味がない俺はいつも留守番だった。


(われ)が物心ついたあと、マサヨシのことを話すときは楽しそうじゃった。

 大きな体じゃが目を細めて笑っておった。

 (ぬし)に呪いをかけた時に代償として寿命を奪われたようじゃ。

 ただ、呪いの話を聞いた後でも八百年は生きておったがの……。

 (われ)が千歳になる少し前に亡くなられた。

『マサヨシは来るかの?』と言うのが呪いをかけてからの口癖じゃった。

『女に年齢を聞くものじゃない』と歳は教えてもらえんかったが、七千歳ぐらいだったんじゃないか」

 リードラが答えた。


「ずっと……一人だったのか?

 でも、お前が居るってことは誰かと(つがい)になったわけだろ?」

 俺が聞くと、

(ぬし)よ、高位のドラゴンはメスだけでも生殖ができる。

 母様(ははさま)は父親の話はしなかった」

 と答えた。


 つまり、一人……。


「一人で……なぜ?」

「わからない……。

 私は母様(ははさま)と同じ体。

 しかし心は同じではない。

 だからわからない……」

 リードラは静かに言った。


「遺体は?」

「山に結界を張りそのまま置いてある」

「ここからは?」

(われ)に乗ればすぐじゃ」

 リードラは俺に「行こう」と目で言っていた。

 ふと、横を見るとアイナが不安そうに俺を見ている。

「どうした?」

「前のお嫁さんの所に行く?」

 俺の腕をぎゅっと持ちながら聞いてきた。

「ああ、そうしないと次に行けない気がする。

『踏ん切り』って奴がつかないんだよ。

 死んだ嫁さんにまだ縋っている自分がいるんだ。

 今の俺って、嫁さんが死んだって割り切れていないから、クリスやアイナ、リードラ、フィナを中途半端に扱っているだろ?

 みんなもっと俺に甘えたいのに、知らずのうちに俺が壁を作ってそうはさせない。

 みんな優しいから我慢してくれてるけども、それがわかるから『何とかしないと』って思うんだ」

 俺はアイナの頭を撫でながら言った。

「一緒に行っていい?」

 俺の事が心配なのかクリスが聞いてきた。

「いや、俺とリードラで行く。

 リードラ!

 悪いがドラゴンに戻ってくれるか?」

「わかったのじゃ」

 リードラは屋敷の庭に出ると、ホーリードラゴンに戻っていった。

 俺はリードラの背に上る。

「じゃあ飛ぶぞ?」

 不安げ見上げるクリスとアイナを置いて、

「それじゃ行ってくる」

 と言って、俺達はリードラの山へと飛び立つのだった。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ