第34話 待ち人来たらず。
何かと体面を気にする貴族。
養子縁組の申請は馬車が使えるようになってから、ということになった。
オークキングの素材を渡し、馬具ができるまで一か月半。
何をすればいいのやら……。
とは思っていたのだが、元々の目的がゼファードのダンジョン攻略であるため、攻略の準備をすることにした。
朝食を終え俺の部屋で話をする。
「クリス、ダンジョン攻略に当たって必要な物って?」
「それは食料、水あとテントとか野営の道具ね。
でも、マサヨシの場合収納カバンと例の扉で関係ないし……それを考えると装備かしら」
「装備かぁ……武器としては、家宝というオリハルコンの長剣と、チェーンフレイル、聖騎士の剣、クリスはレイピアだったっけ?」
「そう、このレイピアが私の武器」
パンと腰に付けたレイピアを叩くクリス。
「だったら、俺は家宝の剣を使う。
リードラにチェーンフレイル。
聖騎士の剣はアイナが使えばいい」
「我がチェーンフレイル?
爪があるから大丈夫。」
「そうか、爪があったか……。
しかし、俺が知ってるガンダ〇って物語に出てくるハンマーに似ててな。けっこう俺のお気に入りだったんだがな……」
「〇ンダム?」
固まるリードラ。
「ガン〇ムだと!」
何かを思い出したようにリードラが叫んだ。
「そう……だけど……どうかしたか?」
あまりの変わり様に俺は戸惑った。
「主の名前は『マサヨシ』だったよのう?」
「ああ、いかにも俺の名前は『マサヨシ』だが?」
こんな和名な奴この世界に他に居るのか?
リードラは何かを思い出そうとしていた。
「マサヨシ、ガ〇ダム、マサヨシ…………」
呪文を唱えるように俺の名前と某アニメの名を連呼する。
そしてリードラの目が大きく開と、
「主よ、『ジェイアール』という言葉を知っておるか?」
と聞いてきた。
「母様は『あるふぁべっと』という言葉だと言うておった。
主らしい答えを貰いたい」
「アルファベットでJR?」
Japan・Railwayの略?
でも普通だ。
あえて俺らしい言葉なら……、
「ジョ〇ー・ライデン?」
そう答えると、リードラが俺をじっと見る。
そしてまた俺に尋ねた。
「『エスエム』という言葉を知っておるか?」
「SMかあ……俺なら、シ〇・マツナガ?」
と答えた。
「これで最後じゃ、『でぃーぜっと』と言えば?」
「ドズ〇・ザビじゃね?」
急に上を向きリードラのほほを涙が伝う。
「母様!
待ち人は来られました!
ただ、遅かった……」
上を向いて叫ぶリードラ。
その様子に俺だけでなくクリスもアイナも驚く。
「おいおい、何のことだ?
訳が分からない」
俺はリードラに詰め寄った。
「母様は言うておった……。
『我は転生した……一人は寂しいと……。
我は呪いをかけた、夫をこちらに呼ぶ呪い……。
ただ、いつ来るのかはわからぬ。
我が死しても現れぬ時、一度世に出てマサヨシという男を探してもらえぬか?』と……」
「えっ」
俺は絶句した。
「私にはマサヨシという者を探す手立てがありませぬ」
と言うと、リードラの母親は
「大丈夫、『あるふぁべっと』だと言って、『ジェイアール』、『エスエム』、『ディーゼット』という言葉を投げかけ、その者らしい答えを出してもらえばいい。
その者が『ジョニー・ラ〇デン』、『シン・マツ〇ガ』、『ドズル・ザ〇』と答えるならば、まず間違いなく我の夫『マサヨシ』に間違いないと言うておった」
しばらくの間、何も言わず考えてしまう。
嫁さんがこっちに来ていたのか……。
何で中二病みたいな言葉使ってるんだ?
リードラは続ける。
「母様はもう居らぬ。
亡くなられた。
我は母様の遺志に従いマサヨシを探したのじゃ。
まあ、あのデンドールという商人に捕まったがの……。
お陰で母様の夫、マサヨシに会えた」
リードラは本当にうれしそうに笑った。
ふと、
「リードラ、嫁さんは幸せだったのか?」
言うと。
「主よ、我にはわからぬ。
たまに『ジャニー〇Jrを見たい!』
特に『スノー〇ンが見たいのう』などと文句を言っておったが……」
そういや、自分でコンサートのチケット取って、東京、大阪、神奈川いろんなところに行っていたな。
興味がない俺はいつも留守番だった。
「我が物心ついたあと、マサヨシのことを話すときは楽しそうじゃった。
大きな体じゃが目を細めて笑っておった。
主に呪いをかけた時に代償として寿命を奪われたようじゃ。
ただ、呪いの話を聞いた後でも八百年は生きておったがの……。
我が千歳になる少し前に亡くなられた。
『マサヨシは来るかの?』と言うのが呪いをかけてからの口癖じゃった。
『女に年齢を聞くものじゃない』と歳は教えてもらえんかったが、七千歳ぐらいだったんじゃないか」
リードラが答えた。
「ずっと……一人だったのか?
でも、お前が居るってことは誰かと番になったわけだろ?」
俺が聞くと、
「主よ、高位のドラゴンはメスだけでも生殖ができる。
母様は父親の話はしなかった」
と答えた。
つまり、一人……。
「一人で……なぜ?」
「わからない……。
私は母様と同じ体。
しかし心は同じではない。
だからわからない……」
リードラは静かに言った。
「遺体は?」
「山に結界を張りそのまま置いてある」
「ここからは?」
「我に乗ればすぐじゃ」
リードラは俺に「行こう」と目で言っていた。
ふと、横を見るとアイナが不安そうに俺を見ている。
「どうした?」
「前のお嫁さんの所に行く?」
俺の腕をぎゅっと持ちながら聞いてきた。
「ああ、そうしないと次に行けない気がする。
『踏ん切り』って奴がつかないんだよ。
死んだ嫁さんにまだ縋っている自分がいるんだ。
今の俺って、嫁さんが死んだって割り切れていないから、クリスやアイナ、リードラ、フィナを中途半端に扱っているだろ?
みんなもっと俺に甘えたいのに、知らずのうちに俺が壁を作ってそうはさせない。
みんな優しいから我慢してくれてるけども、それがわかるから『何とかしないと』って思うんだ」
俺はアイナの頭を撫でながら言った。
「一緒に行っていい?」
俺の事が心配なのかクリスが聞いてきた。
「いや、俺とリードラで行く。
リードラ!
悪いがドラゴンに戻ってくれるか?」
「わかったのじゃ」
リードラは屋敷の庭に出ると、ホーリードラゴンに戻っていった。
俺はリードラの背に上る。
「じゃあ飛ぶぞ?」
不安げ見上げるクリスとアイナを置いて、
「それじゃ行ってくる」
と言って、俺達はリードラの山へと飛び立つのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字の指摘、大変助かっております。




