第32話 胸の大きさが気になるようです。でも歳相応だと思います。
次の日、
「牛乳の獲得にいつ行くの?」
アイナが聞いてきた。
「そんなに急ぎ?」
「もうすぐ成人。育たなくなる」
珍しく焦りを見せるアイナ。
「メルヌの街のほうで探してみるか?
平地だから草も多い。
放牧もできるだろう」
俺がそう言うと、
「うん」と頷いた。
アイナを連れて庭で寛ぐリードラの所へ行くと、
「リードラ、手伝ってくれよ」
俺は声をかける。
「主よ何だ?」
「こういう魔物を捜したいんだ」
俺は地面に牛の絵を描く。
「おお、その絵ならフォレストカウだな。
あれは美味いぞ。
ブレスで焼いてバリバリと咀嚼した時の脂がまたいい」
「んー、食わない。飼う」
「飼う?」
「そう、飼う」
「何でだ?」
「アイナが今の胸の大きさがお気に召さないらしい。
そこで、豊胸効果がある……」
タタタとフィナが現れる。
「その豊胸効果があるというのは?」
興味津々なフィナ。
「どうした?」
「豊胸効果があるというのは!」
再び語勢を強めてフィナが言う。
その勢いに負け、
「フォレストカウの乳の事だが……」
そう言えばフィナもちょっと、まあ、なんだ……な大きさ。
「それを飲めば胸が大きくなるのですね!」
「と言われているだけだぞ?」
「可能性はあるということですね!」
「ああ、あると思う」
どんな食べ物にも可能性はあると思うが、それを言ってしまうと怒られそうだ。
「話を戻すぞ。
フォレストカウの乳、つまり牛乳を飲みたいと言っているわけだ。
まあ牛乳は料理の材料にも使えるから良いと思ってな」
「美味しいものになって胸が大きくなる……」
フィナは天井を見上げて想像していた。
フィナよ、夢が大きすぎる。
そんなに効果はない。
「美味い物が食えるのか?」
リードラが聞いてきたので、
「牛乳だけではちょっと難しいものもあるが、美味い物は食える」
そう言うと、
「なら手伝おう」
と言ってくれた。
結局のところ、フィナは留守番。
アイナと俺はリードラの背に乗って空を飛んでいた。
レーダーで探したフォレストカウの群れに向かっている。
その数二十ほど。
「主よ、フォレストカウは群れで動く。
群れのリーダーを屈服させれば従うだろう」
リードラがそう教えてくれる。
すると、まばらな森の中にジャージー種のようなフォレストカウの群れを見つけた。
その上でリードラがホバリングをする。
群れの中で角が合って一番大きな個体。
あれがリーダーか。
俺はその前に飛び降りた。
「ブモ?」
落ちてきたメタボにびっくりするリーダー。
全力の威圧をかけると、びくっとした後にリーダーはひれ伏し、それを見た周りに居たフォレストカウが全てひれ伏す。
効率良し!
そのあと、アイナとリードラが下りてきて、リードラは人化していつもの姿に戻るのだった。
「俺の言うことはわかるか?」
「ブモ」
頷くリーダー。
「頼みがあるんだ。
俺が連れて行くところに平原がある。
そこで生活をしてもらいたい。
森の中に入るのはいいが、朝には一度そこに戻ってもらいたい。
そして、雌の乳をもらう」
すると、リーダーが頷く。
「お前だけは隷属化しておくぞ」
契約書を作り、俺が契約台を出すと、リーダーは顎を契約台に置いた。
涎と鼻水が付いたのはご愛敬だな……。
そして、魔力を通すと隷属の紋章が浮かび上がる。
リーダーの体の大きさが神馬たちと同じく二回りほど大きくなり体中の筋肉が盛り上がった。
「制約は、人は襲われない限り襲わない。」
頷くリーダー。
「ブモー!」
雄たけびを上げると、フォレストカウたちは俺の周りに集まってきた。
牡三頭に雌十頭、子牛が七頭だった。
「さあ、場所へ案内する」
俺は扉を出し、メルヌの街の周りの草原へと繋ぐ。
リーダーは張り出した角が邪魔で通り辛そうだったが、首を九十度傾けて扉を通ると頭は通った。
体も何とか通る。
後は、すんなりメルヌの街まで移動完了。
放牧が始まった。
フォレストカウの牝牛の乳は張っており、すぐにも搾乳ができそうだった。
俺は牝牛に近寄り、布で乳首を拭く。
綺麗な樽と木の桶を準備し、高温の蒸気を作って加熱殺菌する。
そして、木の桶に乳を搾る。
「器用なもんだな。どこでそんな技術を?」
「体験牧場でやったことがあるってだけだよ。見様見真似だ」
ジュッジュッっという音がすると、桶に牛乳が溜まっていった。
興味津々のアイナ。
少しコップに掬うと、アイナに渡した。
最初、少し口に入れ、驚いたような顔をすると、コクコクと喉を鳴らして飲み干す。
「美味しい。
美味しい豊胸剤」
「ちょっと違うけどな
結構、匂いや味を嫌う人もいる」
俺は苦笑いする。
十頭の牝牛の乳を搾りきると樽二杯ほどになっていた
俺はそのまま収納カバンに仕舞った。
「生クリームにバターにケーキか……」
前の世界の食べ物に思いを馳せる。
「なんだそれは?」
「俺の故郷の食べ物だ」
「どこかで聞いたことがあるのう……はて」
首をかしげるリードラ。
「まあ、思い出したら教えてくれ」
「主よ心得た」
もう少しで……と言う感じで頭を掻きながらリードラは言うのだった。
こうして、食卓に牛乳が並ぶことになる。
フルパワーで樽一個をシェイクして作ったバターも添える。
朝食が一気に変わった。
コメも食いたいが、まずはこれでいいか……。
「牛乳というのか?美味いなこれは。このバターという物もパンに付けて食べると美味い」
義父さんにも気に入ってもらえたようだ。
いつもより食が進んでいた。
アイナとフィナはゴクゴクと飲んでいる。
「あんまり飲みすぎたら腹を下すから程々にな。
コップ一杯から二杯でいいから」
というが、リッター単位で飲んでいる気がした。
クリスは、
「この牛乳よりは、バターのほうが好きね」
と言っていた。
リードラはどちらも美味そうに食べていた。
俺はセバスさんに人を紹介してもらい、桶と樽の殺菌方法と、搾乳の方法を教える。
給金を出すことで、我が家は毎日一定量の牛乳を得ることになった。
読んでいただきありがとうございます。




