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第31話 あら、バレちゃいました。

「エリス様いらしゃいませ」

 入り口で職員に声をかけられていた。


 ん?

 様?


「お母様居る?

 お客さん連れてきたんだけど」

「マスターは奥に居られます」

「呼んできてもらえない?」

 そのやり取りを入口付近で聞いて俺は固まった。


 えっ? あなた何者?

 冒険者ギルドに入って「いらっしゃいませ」はあっても、「○○様いらっしゃいませ」で始まるってあまり無いよね?

 職員が若干緊張気味なのはなぜ?

 えっ「お母様」って言って「マスター」って返ってくる……どういうこと?


「ここが冒険者ギルド。

 お母さまの仕事場だからよく知ってるんだ」

 笑いながら言った。

 自慢の尻尾なのかファサファサと振れる。


 えっ後ろに居るのってギルドのガードマンでしょ?

 俺って不審人物認定なのか?

 すっげー睨まれてるんだけど……。


「あっありがとう、でもマスターを呼ぶまでもな……」

 俺が止めようとする前に女性の声が聞こえてきた。

「エリス! どうしたの?」

 現れた女性を見た瞬間。


 お狐様登場だぁ……。

 リードラといい勝負の体。

 巫女の姿ならなおいいんだろう。


 マスターの胸を見たあと、アイナが自分の胸を見ていた。


 でもな、チャイナドレスっぽいのにハイヒールそれも上下赤って……どうなん?

 妖艶って言葉が似合いそうなんだけど、俺には「赤〇きつね」のうどんしか思い浮かばん。


「お母さま聞いてください!」

 ギルドマスターに熱く語るエリス。

 その話を聞き終わるとギルドマスターは俺の方へ近寄ってきた。

「話は聞きました、私はこのギルドのマスターをしているカリーネと申します。

 エリスがトラブルに遭っているところを助けていただきありがとうございました」

 頭を下げるカリーネさん。


 服装で判断しちゃいかんな。

 ちゃんとした人だ。


「私はマサヨシと言います。

 今回のことはたまたま見かけたので解決のためできることをしたまで、それにお子様からは、もうお礼を貰っています。

 ここに連れてきてもらいましたから」

 そう言うと俺がエリスの頭を撫でる。

「あなたがお礼を言う必要はありません。

 こちらこそ事を大きくしたようで申し訳ない」

 俺の手を持ち、見上げているエリスを見て、

「エリス? その人は嫌いじゃないの?」

 と、カリーネさんは言った。


 ん?

 何だその質問?


「お母さま私このマサヨシさん好き!

 お父さんになってほしい!」

「はぁ?」

 突然の言葉に戸惑う俺。

「ダメ」

 俺の腕にしがみ付き、敵意をあらわにするアイナ。

「すみません急に話をして……。

 エリス、マサヨシさんが困っているわよ?」

「ごめんなさい」

 エリスはシュンとして俺に謝る。

「いや、事情が分からんので、どうすればいいのか……」

 俺も頭を掻くしかない。

「エリスは父親を知らないんです。

 エリスは私が一人で産みました。

 私もエリスに父親が必要だと思って男性とつきあったけど、懐かなかった。

 だからエリスが産まれてからは結婚してないんです。

 それは私の一番がエリスだったから……。

 だからエリスが懐くような男の人が居るなら私も結婚に前向きになろうかと思ってた」

 それを聞いた時、変なフラグが立ったような気がした。


「あなたが初めてじゃないかしら?

 エリスがこんなに懐いたのは……。

 私もエリスがこんなに懐くあなたなら……」


 状況説明と前向き発言のあとカリーネさんを見ると潤んだ目で俺を見てる。


「ダメ、マサヨシは私の」

 アイナが雰囲気を察し、腕に飛び付いた。

 何とか話を逸らせたい俺。

「あっそうだ!

 俺はこのギルドに用事があって来たんですよ。ある魔物の解体をしてもらいたくて……」

 必死にそう言った後、

「ああ、それなら解体担当の所へ行けばいいわ、私が案内しましょう。

 だけど……」


 「だけど」何だ?

 

 じーっと俺を見るカリーネさん。

「一つ聞いていい?」

「いいですけど」

「炎の風を単独パーティーで討伐しなかった?

 討伐者の特徴があなたにそっくり。

『長身で太った男。黒の服を着ている』というのは、冒険者ではあまり居ないから」

「はい。

 少し前にそんなこともありました。

 あのときは儲けさせてもらいました

 お陰で、Cランクにしていただいて………」

 俺は答えた。

「あなた強いわよね。ちょっと握手してもらえる?」

「ええ、いいですよ?」

 俺が手を出すとカリーネさんが手を握ってきた。

 カリーネさんの腕に筋が浮かぶ。


 ああ、力を入れていたのね。


 俺がちょっと握り返すと

「イタッ」

 カリーネさんが手を引く。

「ああ強すぎたか申し訳ない」

 俺は謝った。

 じっと見られる俺。

「私より強い男……。

 STRがSの私より強いなんて……」

 カリーネさんがうっとりしている。


 こりゃさっさと話を進めねば……。


「えーっと、で、解体場ってどこでしょう?」

「あっ、そうね、解体場に行かないとね。

 こっちに来て」


 よし思い出してくれたようだ。


 俺たちとエリスはマスターのカリーネさんに付いて解体場へ向かった。

 解体場へ向かう時、

「マスター直々って……何者?」

「あれマスターだろ?」

 ボソボソと冒険者たちの囁き声が聞こえる。


 はあ、俺たちどんな奴らだと思われているのやら……。


「ココが解体場。そういえば、聞いてなかったんだけど、どんな魔物を解体するつもり?」

「えーっと、オークキングですね」

 その言葉を聞くと、カリーネさんは俺の両肩を掴み、

「どこでそれを倒したの?」

 と聞いてきた。

「えーっと、ドロアーテからここまで来る道すがらですかね……ふらふら~っとオークキングが街道沿いに現れたので、パッとやっちゃいました……はい……」


 自分ながらすっげー適当だ……。

 こんなんで誤魔化せるのか?


 俺は覗き込むようにカリーネさんを見ると、怒った眼でカリーネさんは俺を見返し、

「ドロアーテの冒険者ギルドから、『オークの討伐』が完了したと連絡を受けています。

 その数二百体近く。

 でもなぜかその群れを統べる者が居ませんでした。

 ハイオーク、オークジェネラルどちらかが居てもおかしくありません。

 ただ、ハイオーク、オークジェネラルが居たとしてもギルド討伐対象にはなりません。

 報告書にそう記載すればいいだけの事です。

 しかしキングが居たのなら別。

 ギルド総出で討伐しなければならなくなります。

 それを避けるために、ドロアーテのグレッグにオークキングの事を言わないように言われたのではありませんか?

 確か、そのオークを討伐したのも……マサヨシさんあなたですね」

「謎は解けた!」とばかりに、俺を指差す。


 あー、ばれちゃいましたか……。

 そこは思い出さなくてもいいやつだと思うんだけどね。

 あー、こりゃ言い訳できないや。


「伊達にこの国の冒険者ギルドを統べるグランドマスターになっている訳ではありません」


 あちゃー、それもギルドマスターの上か。

 ごまかしきかんね。


「私、この報告については気になっていたのです。

 で、ドロアーテのギルドマスターは何と?」

 カリーネさんは俺に聞いてきた。

「表にしたくないって言ってたね。

 だから俺も表にしたくない。

 魔物は居なくなったんだからそれでいいと思うんだが?」

「それでもルールはルール」

「硬いな……、女性はもっと柔らかく。

 偏見と言われても仕方ないが、綺麗な顔がもったいない」

俺が言うと、

「お母さまキレイでしょ?」

エリスが続く。

「ああ、綺麗だと思うぞ」

とエリスの問いに答えたら、

「なっ、ばっ、エリス!

 からかわない」

と、カリーネさんは顔を真っ赤にしていた。


 俺は近づきカリーネの両肩をパンと軽く叩く。

「俺は、道すがら狩ったこのオークキングの素材を得たいだけ。

 それでいいよな、エリス」

「うん、それでいい」

 ズルいとは思うが、カリーネの愛娘エリスを使う。

 すると、

「しっ、仕方ないわね。

 討伐はされている。

 それに、倒した冒険者が素材を活用するのは当たり前。

 今回の事は目を瞑ります」

 俺は「ヨシ!」とガッツポーズをした。

「ただし、次は有りません」

 ただそんなに甘くはなく、しっかりと念を押されたのだった。


 解体の担当者に耳打ちをし、カリーネさんは戻ってくる。

「あくまでオークジェネラルの解体ということにします」

「ありがとうございました」

 エリスを使ったのが気に入らなかったのか、

「ずるいわね」

 とカリーネさんが言う。

「はい、俺はずるいですよ。

 それじゃ、そろそろ帰るんですが、いつ頃取りに来ればいいでしょうか?」

「二日もすれば終わると思うわ」

「それでは明後日、再び参ります」

 俺がそう言うとエリスが近づいてきて言った。

「マサヨシさんまた会える?」

 不安そうな表情のエリス。

「明後日は素材を取りに来るからな。

 その時冒険者ギルドに来るぞ?」

 俺はワシワシとエリスの頭を撫でた。

「マサヨシさんくすぐったいよぉ」

 そんな俺たちを見るカリーネさん。

「じゃあまた!」

 そう言って、俺は冒険者ギルドを出るのだった。



 屋敷へ帰る道すがら、

「気に食わない」

 アイナがボソリと言う。

「何が?」

「胸が……」

「確かにあの乳はリードラ並みだったよな。

 そうだなあ、牛乳でも飲んでれば大きくなるんじゃない?」

「牛乳?

 何?」

 アイナの目が俺に向く。

 

 何だその眼力は。


「まっ、魔物の乳だったかな?

 そういう効果があると聞いたことがある」

 俺がそう言うと、じっと俺を見るアイナ。


 無言の威圧……。

 隷属化しろって?


「そっそうだな、俺も朝の飲み物が水だけって言うのも飽きてきたところだ。

 サクッと捕まえるか」

 結局負けて、約束してしまう俺。

「うん!

 楽しみにしてるね」

 その俺の言葉を聞きアイナが嬉しそうに頷くのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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