第29話 バケモノの追加。
「ここが馬市。
さて、今まで世話になった店があるかどうか……」
通りの両側に広めの柵と馬屋があり、そこに馬が並べられている。
仔馬も売られていた。
「ベンヌ、生きていたか?」
「おお、サイノスじゃないか!」
背が低いドワーフのような男が現れた。
「冒険者になったと聞いていたが」
「クラウス様が王都に来られてな。
再び御者として雇ってもらうことになった」
「クラウス様が王都に?」
「ああ、このマサヨシ様との養子縁組のためにいらっしゃっている。
それで馬車が必要になってな。
あの鬼神のクラウス様の馬車だ。
そこら辺の荷駄用の馬車なんかじゃ意味がない。
で、戦馬は居ないか?
マサヨシ様とそこに居るご婦人方の四頭に、馬車用に二頭」
「戦馬は居るにはいる。
ただ、調教がまだなんだ。
群れで捕まえたのだが、リーダーの馬が言うことを聞かないせいで、他の馬も言うことを聞かない」
ヤレヤレという顔のベンヌさん。
「それで良かったら、雄が六頭、雌が二頭の八頭で白金貨五枚だ」
聞いた話よりも格段に安い。
「戦馬では破格の値段だが、そんなにじゃじゃ馬なのか?」
サイノスさんが聞いた。
「ああ、俺も馬の調教には自信があったが、あいつらは違う。
体格が他の戦馬より良かったので格安だと思って買ったのだが、甘かった。
売れなければ高い金を払ってでも隷属化するしかない。
お前も戦馬はどんなに高くとも白金貨一枚と金貨五十枚までと知っているだろ?
隷属化するためには白金貨一枚近くは要るからな手間賃を考えればこれくらいで十分なんだ」
隷属化って結構金額するんだな。
そんな事を思っていると、
「そんなに言うことを聞かんのかの?」
と、リードラ。
「キレイな御嬢さん。
下手に近づくと蹴られますよ」
苦笑いのベンヌさん。
すると、
「我をその馬の場所へ連れて行ってくれんかの?」
とリードラが言った。
困った顔でベンヌさんが俺を見るので、
「連れて行ってやってください、何があっても文句は言いませんから」
と言うと、
「本当ですか?
怪我しても知りませんよ」
そう言うと、馬屋への扉を開け俺たちをその馬たちの囲いに連れて行った。
デカい馬だ。
そして黒い。
盛られたような鬣。
某漫画の某王のような体格の馬が俺たちを上から見下している。
俺の倍ぐらいの体高があった。
そして、その後ろに体格が一回り小さいとはいえ、それでも他に繋がれている馬よりは十分に大きな馬が居た。
その前にリードラが進み出ると、某王たちの表情が焦りに変わり跪いた。
「我が主のマサヨシ、我、クリス、アイナ、そしてわれの周りにおる者の言うことを聞かねば、どうなるかわかっておろうな」
リードラの低く威圧感のある声に、某王とその配下は体から汗を吹き出す。
すると、某王たちは大きく頷いたのだった。
心というより、本能で頷くしかなかったんだろうな。
なんせ、リードラはこの世界の食物連鎖最上位のドラゴンだ。
「主よ、言うことを聞くらしいぞ」
ニッコリと笑ってリードラが俺を見た。
既に威圧感の欠片もない。
しかし、そんな態度をとるリードラの相手……つまり俺を見た某王の目がさらに驚いていた。
「まあ、そういうことなので売ってもらいます」
そう言って、白金貨を五枚出した。
「あの女性は何者なのですか?」
ベンヌさんが受け取りながら俺に聞いてきた。
そりゃ気になるだろうな。
「強い女性です。
あの馬より格段にね。
ですからリードラがあの群れのリーダーになったのでしょう」
クリス、アイナそれぞれ一頭ずつ、俺とリードラ、サイノスさんは二頭を引いてベンヌさんのところから屋敷へ帰る。
そして、表通りを歩くとあまりの馬の見事さに指差された。
そんな中を歩くサイノスさんは嬉しそうだ。
そして屋敷へ帰ると、馬屋に馬たちを繋いだ。
「あとは馬具を買わねばいけません。
あと、飼葉も必要です。
両方の手配は私がしておきましょう」
そう言うと、早速サイノスさんは屋敷の外へ出かけていくのだった。
「主よ、あの馬たちはしたたかそうでの。
できれば隷属化しておくとよい」
リードラが言ってきた。
「えっ、馬も隷属化するものなのか?」
するとクリスが、
「持ち主の言うことを聞かない魔物を隷属化することで、言うことを聞くようにすることはあるわ」
と言った。
そう言えば、さっきも言ってたな。
「まさに我のような魔物じゃな」
リードラも頷く。
「あとね、あなた強いでしょ?
だから、馬にもいい影響があると思うの」
と言うクリス。
「ああ、引っ張るって奴か?」
「そう」
俺は馬屋の前に行くと、
「隷属化したくなければ首を横に振れ」
と言ってみた。
すると、全ての馬が頷く。
言葉がわかるようだ。
「いいのか?」
俺が戦馬たちに聞いてみると、後ろから
「マサヨシよ、この者たちは強き者に従う。
理由はの……生き残れるからだ」
と、リードラが言った。
某王の前に行き「俺に隷属する」という契約書を作る。
そして、契約台を出すと、自分から某王は契約台の上に顎を置く。
俺が魔力を流すと同時に契約は成立した。
胸のあたりに黒い紋章がつくが、黒い毛で目立たない。
すると、某王の体が二回りほど大きくなり、毛並みも良くなり黒光りする。
さらに鬣が長く伸びた。
「やれやれ、戦馬から神馬になったわね」
クリスがそれを見て言った。
「神馬とは?」
「それ一頭に乗り戦場を駆ければ、戦況をひっくり返すことができるという馬。
伝説よ伝説……。
でも実際に見て見ると、バケモノね」
「またバケモノか」
所属するバケモノが増える。
一頭また一頭と隷属化すると、全ての馬が神馬に変わった。
全てが終わると、
「お前らは頭が良いと思うので簡単に言う。
俺が守るものを傷つける奴等は傷つけてもいい。
つまり、お前たちを傷つけたりする者も反撃してもいい。
ただ殺すな。
殺していなければ、俺が何とかする」
そう言うと、神馬たちはいっせいに頷いた。
「主よ、名をやれば喜ぶ」
リードラが言うので、
某王の名を考えたが、雄は大きい順にドイツ語読みの数字。
某王をアイン。
続いてツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス
そして雌をフランス語の数字
アンとドゥ。
と付けた。
アインからフィーアは俺たち四人の騎乗用。
フュンフとゼクスは馬車用になる。
メス二頭は……どうしよう。
入れ替えながらってことで……
名付けが終わったあと、俺の頭を甘噛みするアイン。
そして、俺たちが離れたあと、飼葉を手配し、馬具屋を呼んできたサイノスさんが神馬になった馬たちを唖然として見ていた。
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