第28話 王城への登城は、やはり馬車でしょう。
義父さんもオウル側に来るようになったが、扉が俺の物一つしかないのは問題がある。
そういうことで、俺はオウルとメルヌを行き来するための魔道具を作ることにした。
「ミランダさん、使ってない扉とか取り外した扉とかは無いかな?」
「ああ、倉庫の中に使われなくなった扉を保存してあります。
この館を建てる前の物ですから古くはなりますが、
扉としては問題ないかと……」
ミランダさんは俺を連れ、倉庫に行った。
「これになります」
そこには部屋の扉として使われている物より豪華で大きい扉があった。
十枚ぐらいが重ねられて置かれてている。
「これって、今のに比べて大きくない?」
ミランダさんに聞くと、
「はい、豪華すぎて今の部屋とは合わないということで、倉庫行きになった物です。
使ってやってください」
と説明してくれた。
前の屋敷ってどんだけ豪華だったんだ……。
俺は、重ねられた扉のうち一枚を取ると、オウルとメルヌを繋ぐことをイメージする。
すると、扉が自立した。
扉の使用者を登録するんだが、条件は俺が手を持って扉の取っ手を持った者としよう。
ミランダさんの手を持ったまま取っ手を持つと、扉が光った。
「ミランダさん、扉を開けてみて」
ミランダさんに言うと、
「それでは」
と言って、扉を開けた。そこにはメルヌ側のリビングが広がる。
「これは……メルヌの館」
「成功だね」
これで登録すれば誰でもメルヌとオウルを移動できるようになった。
当然ながら義父さん、クリス、アイナ、フィナ、リードラ、セバスさんを登録する。
後には家人がほぼ登録されることになる。
こうして、メルヌとオウルの二つの屋敷が一つの屋敷のように繋がった。
「これで手紙の行き来を長い間待たずとも、オウルで養子の申請ができるな。
コレなら久々に年初の大集会に出られそうだ。
王が儂の顔を見たら驚くだろう……楽しみだなぁ」
嬉しそうに義父さんが言う。
「そんなに驚かれますか?」
「当たり前だ。
オウルに儂が来るなど誰も思っておるまい。
普通の旅路なら馬車で一か月はかかる。
儂のこの体では体の事を考え二カ月はかかるんじゃないだろうか」
「だから、『王宮に上がるのは無理』だと思われている訳ですね」
「しかし、お前のような規格外の養子がおるからな。
お陰で楽しませてもらえる」
ニコニコの義父さん。
規格外ってバケモノってことだよね……。
「それで、義父さんが元気になるならいいですよ」
そう俺は言った。
そして数日後、
「マサヨシ様から頂いた図面をもとに、既存の椅子を使って車いすの試作品ができました」
と、セバスさんが扉を通ってオウル側に現れた。
「できたんですか?」
「職人たちも、詳しく書いていたのでやりやすかったようです。
既にクラウス様にも座ってもらっております」
そう言われ、俺は義父さんが居る執務室に向かった。
ノックをして、「入れ」の声が聞こえると、
「車いすが出来たそうで」
と言いながら俺は執務室に入った。
「ああ、思ったより使い勝手はいいぞ?」
出来上がっていたのは完全介護タイプの奴だった。
通常車いすは自力での移動用の車輪が大きなものと、完全介護用の車輪が小さく取り回しがいいものと二つあったとおもっていたので、とりあえず両方書いておいたのだ。
「お陰で部屋の移動が楽になりそうです」
セバスさんもにこやかだ。
すると、ミランダさんがノックもせずに執務室に入ってくる。
「クラウス様! サイノスが現れました」
「サイノスだと!」
義父さんも驚く。
するとミランダさんの後ろから、
年老いてはいるががっちりとした体格の男が現れた。
「あの方は?」
俺がセバスさんに聞くと、
「あの者はクラウス様の護衛兼御者だった者。
クラウス様が王都へ行けなくなり、その間に馬も死んでしまったことから解雇しました。
確か、冒険者になったと聞いています」
「クラウス様!
お戻りになられたのなら私に声をかけていただかないと」
大きな体を震わせサイノスさんはお義父さんに詰め寄った。
「戻ったというよりも、戻れるようにしてもらったというのが正直なところだ。
あのマサヨシにな」
俺を指差し父さんは言った。
「あの魔導具を作ったのはお前か!」
ごっついオッサンが俺に抱き付く。
「再びクラウス様に仕えることができようとは!」
サイノスさんは喜びの声をあげながら涙していた。
「サイノスよ、マサヨシとの養子縁組を申請するために、馬車を用立てようと思っていたのだ。
何とかならんか?」
義父さんがサイノスさんに言った。
「馬車は車庫に置いてあるはずです。
馬屋も壊れずに残っている。
飼葉と水は王都で手に入るので何とかなるでしょう。
あとは馬ですな」
サイノスさんは腕を組んで言う。
「メルヌの街に居る馬を扉で移動させれば……」
と俺が言うと、
「それはダメです。
メルヌの街に居る馬は荷駄用の馬で、体つきが良くありません。
向こうの馬車はオークに壊されたと聞く。
荷駄用の馬を馬車に使ったとあれば、クラウス様の恥になる。
荷駄用であっても体が大きく力が強い馬。
または欲を言えば戦馬が欲しいです。
ただ、戦馬は軍事用の馬であり、なかなか手に入りません。
一頭白金貨一枚を覚悟していただかないと……」
俺の経済能力を知らないサイノスさんは不安そうに俺を見る。
「ああ、それなら大丈夫です。
私も冒険者をやらせてもらっておりまして、討伐で手に入れたお金があります」
「マサヨシよ、儂が出しても良いぞ?」
「代替わりすれば自分の馬になるのです。
当然出します。
それに、それぐらい出せないと子爵の息子としてダメでしょう」
そう言うと、義父さんは納得したのか頷く。
それを見たたサイノスさんは、
「わかりました。クラウス様への挨拶もできましたし、早速馬市へ馬を買いに行きましょう」
サイノスさんが俺に言った。
結局、即日サイノスさんに俺、クリス、アイナ、リードラで馬市へ馬を見に行くことになった。
扉のために街へ行くときはリードラでもいいが、実際に人と行動を共にするなら馬のほうがいいだろうということを考えたからだ。
予定では俺たち四人の馬と馬車用の馬二頭、計六頭である。
良い馬が手に入るといいんだが……。
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