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第27話 彼女の夢を叶えましょう。

 王都オウルの外壁に近づくと三十メートルぐらいあった。

「これは大きいな。

 何から身を守ろうとしているのかわからん」

 そんなことを言いながら長い列に並ぼうとすると、イングリッドが

「こっち」

 と言って、俺を別の入り口に連れて行った。

 そして、門番に何か見せる。


 印籠再びって奴かな?


 すぐに門の脇の通用門が開き、俺たちは町の中に入った。

 長蛇の列に並ぶ者からの羨望の視線。


 役得って事で……。


 街に入ると、

「イングリッド様、馬車の手配までここでお待ちください。

 それまではペンネスの街でのことも聞きたいと思います」

 門番の隊長のような騎士が現れイングリッドに言う。

「わかりました」

「そこの冒険者もいいかな?」

「ええ」

(われ)は早う行きたいが」

「リードラ、そこは人だったら『はい』だぞ?」

「わかったのじゃ。

 残ろう」

 事情を知っているイングリッドがクスクスと笑っていた。


 隊長の部屋なのか少し広めの応接セットのような椅子がある。

 そんな場所で話を聞いていた。

 俺とリードラを警戒してか、何人かの騎士が部屋に居た。

 ペンネスの街で起こったことの一部始終をイングリッドが話す。

 俺とリードラはそれに対して付け加える程度だった、

「つまり、そこの冒険者と奴隷で割符を持った組織を大多数の構成員を殺さずに壊滅させ、向こうの警備兵に証拠の品を渡してペンネスからオウルまで帰ってきた訳ですね」

「そう言うことになります。

 私の言葉で足りなければ、ペンネスに行けば確認できるでしょう」

隊長が手を上げると、一人の騎士が歩み出て、

「早急にペンネスへ向かえ。

 今からなら何とか閉門までには間に合うだろう。

 間に合わなければ、門の近くで野営。

 朝一で確認しろ」

「はっ」

 そう言うと、騎士は部屋を出ていった。


 それと入れ替えに、

「報告します」

と、兵士が一人入ってくる。

「何だ?」

と隊長の騎士が聞くと、

「王城からの馬車が来ました」

と報告した。


 事情聴取は終わりのようだ。


隊長の騎士が立ち上がると、

「イングリッド様、それでは馬車へ案内します」

と、イングリッドの前に立った。

「じゃ、俺の仕事はここまでだな」

と、俺も立ち上がる。

「もう、行っていいんだろ?」

「ああ、事情は聞けたからな。

 ただ、どこに滞在するかを教えておいて欲しい」

と隊長の騎士が言ったので、

「マットソン子爵家の屋敷に居る」

と伝えた。

何かに驚いていたが、俺は無視をした。


イングリッドに、

「なかなか楽しかったか?」

と聞いてみると、

「楽しかったというのは不謹慎ですね。

 護衛の騎士が死んでしましました。

 でも、楽しかった……」

と、苦笑いをしていた。

「そこで、お礼をしたいのですが……」

「要らないよ。

 たまたまだ」

と断る。

「でしたら、また会いたいですね」

 イングリッドはにこりと笑って言った。

「縁があればまた会えるだろう。

 それでいいんじゃないのか?」

「でも、その時には私だとはわからないかもしれません」

「それはどうして?」

「それは。謎が多い女ということにしておきます。

 今回は危ない所を助けていただきありがとうございました」

 イングリッドはそう言って頭を下げた。

「じゃ、またな」

「ではの」

 そして、俺とリードラはオウルにあるマットソン子爵の屋敷に向かうのだった。



「豪華絢爛だな」

 マットソン子爵の館の前に着いて出た一言。

 メルヌの街の館よりも格段に大きく立派な屋敷が現れた。


 見栄えを競う貴族とはいえこんなに装飾は要らんだろうに。


 そんな事を思いながらも、館の入口へ向かうが門番もだれも居なかった。

 大きな声で、

「すみませーん」

 と声をかけると、

「ハイハイ、お待ちになって」

 と声が聞こえる。

 すると、門の横の通用口が開き、

「どなた様でしょうか?」

 と言って、老齢のメイドが現れた。

「マサヨシと言います。

 マットソン子爵の手紙をお持ちしました」

 俺が手紙を出すと、メイドは手紙をむしり取り、封を切ると内容を読み始める。

「畏まりました、あなた方の滞在の間は私がお世話をさせていただきます。

 こちらへ」

 俺たちはメイドに付いて中に入った。

「お部屋は此方をお使いください、洗濯物も私がします」

「この家をあなた一人で」

「使う所だけでございます。

 昔は何人もメイドが居たのですよ。

 でもこの屋敷も使われなくなった。

 ああ、マットソン子爵にもう一度会えるならば死んでもいいわ」

 メイドは婆さんだが、目は少女だった。

「マットソン子爵がここに来なくなって何年になるのですか?」

「十年になりますね。

 それまでは体が悪くても年初めの大集会……年始に貴族が王の前に集まる集会……には必ず出席されていたのです」

「そうだったんだ。

 だったら義父さんに会ってもらおうか。

 ただし、あなたには死んでもらっては困るけどね」

 俺は例の扉を出すと、執務室に繋ぐ。

 そこには義父さんが居た。

「クラウス様!」

 扉越しに声をかけるメイド。

「おお、ミランダではないか。

 息災にしておったか?」

「はい、クラウス様がこの屋敷に来るのを一日千秋の想いで待っておりました。

 二度と来られないかと思っていたのですが……」

 ミランダさんは執務室に入り、義父さんと話をする。

 喜んだミランダさんは涙を流していた。

 そして落ち着いたところで、

「クラウス様、この扉は?」

 と聞いてきた。

「これは、マサヨシの魔道具だ。

 マサヨシが行ったことのある場所なら繋ぐことができる」

 オウル側に居る俺を見て、ミランダさんは驚いていた。

 そして、再びオウル側に来ると、

「マサヨシ様、ありがとうございました。

 私の夢がかないました。

 老齢ながら、このミランダをお使いになってください」

 と、頭を下げる。

「はい、よろしくお願いします。

 こちらこそ、至らない事ばかりなのでいろいろ教えてください」

 そう言って、俺は頭を下げるのだった。


「しかし、申し訳ありません、食事の準備がままならないのです。

 正直に言って、私は料理上手ではありません」

 ミランダさんがそれこそ申し訳なさそうに言った。

「別に気にしなくてもいい。

 メルヌ側に帰ればいいだけだからね」

「しかしこのままでは、オウル側に人を呼んだ場合、料理を出すことができません」

 再び申し訳なさそうにミランダさんが言う。

「オウル側かぁ……。

 ちなみにフィナの料理の腕ははどんな感じなんだろう。

 もし可能ならフィナに料理を作ってもらうか?」

「そのような料理人が居るのであれば、オウルの厨房を預かって欲しいとは思いますが……」

 俺はメルヌ側に戻ると、メルヌの館を預かる料理人に声をかけた。

「フィナをオウル側の料理人としたいのだが、大丈夫だろうか?」

「あいつなら、何とかするでしょう。

 知らない知識は自分で情報を仕入れ勘で何とかします。

 今でも、私と同じぐらいの料理は作るかと。

 オウルで叩かれれば、もっとすごい料理人になると思います」

 と、料理人は言った。

「ってことは、任せても大丈夫ってことでいいんだね」

「ええ、あいつなら」

 そう言って、料理人は太鼓判を押していた。


 フィナを探してリードラと共にメルヌの館を歩いていると、

「うわっ、早いわね」

「お帰り」

 と、クリスとアイナが俺に近寄ってきた。

「リードラのお陰だな」

 俺にそう言われて、

「そう、(われ)のおかげなのだ」

 と機嫌のいいリードラ。

「空を飛んだの?」

「速かった?」

 クリスとアイナが興味津々で聞く。

「そうだな、空を飛んだ。

 速かったぞ。

 今度新しい街に行くときは皆で乗るかね?」

「「うん」」

 二人は頷く。

「既に(ぬし)以外も背に乗せて飛んだがのう……」

 余計な事を言うリードラ。

「えっ、それって」

 クリスがリードラに聞くと、

「当然、女子(おなご)

 とニヤリと笑う。

「どういうこと?」

 アイナが一歩進み出て咎めるように言った。

 その勢いに俺は怯んで一歩引きながら、

「オウルの前のペンネスの街でゴタゴタに巻き込まれていたのを助けた女の子だよ。

 イングリッドって魔族の子でオウルの王城に帰るということだったから、リードラと一緒にオウルに向かった訳だ」

 と説明をする。

 すると、

「イングリッド!」

 と、次はクリスが大きな声を上げる。

「どうしたクリス、大きな声を出して」

「イングリッド・レーヴェンヒェルムと言えば、魔族側の国の王女よ?」


 周りに王女が多い……。

 クリスティーナといい、アイナといい、今度はイングリッドか……。

 今更かかわらないようにとは思っても、盛大なフラグが立っているようにしか思えない。


 苦笑いをしていると、

「ちなみに幼体だった成体だった?」

 と、クリスが聞いてきた。

「幼体?成体?よくわからんな。

 アイナと同じくらいの年齢には見えたが……」

「あの子まだ幼体だったんだ……。

 確かそろそろ十六歳じゃなかったかしら」

「えっ?どう見ても十歳ぐらいだったぞ?」

「魔族は幼体の間は十歳ぐらいまでしか体が育たないの。

 そしてある日、急に体が成長し成体となる。

 遅くとも十六歳までには成体になると言われているの」

「『遅くとも』ということは、速い者も居る?」

「人と同じく徐々にという者も居るらしいけど、大体十三歳ごろからと聞いているわ。

 そして遅ければ遅いほど、魔力の扱いに優れる。

 あの子も王族だから、能力が高くてもおかしくはないんだけどね」

「それで、『その時には私だとはわからないかもしれません』と言っていたのか。

 納得だ」

「そういうことでしょうね」


 四人で調理場に行き、フィナを見つけた。。

「ただいま、フィナ」

「お帰りなさいませ、マサヨシ様」

「サンドウィッチ美味しかったよ」

「はい、それを聞いて嬉しいです」

「美味しかった」の一言に喜ぶフィナ。

「フィナは頑張ってる」

 と、アイナもフォローする。

 俺が調理場まで足を運んだことに喜んでいるのか、尻尾がファサファサと動いた。

「頼みたい事があるんだがいいか?」

「はい!」

 背筋を伸ばして返事をするフィナ。

「オウルでマットソン子爵の館の料理人をしてもらいたい。

 とりあえずその館の料理、つまり俺たちの食事を作ってくれればいい」

「えっ、私の料理の技術はまだまだ拙いですが、それでよろしいのでしょうか?」

 少し自信がなさそうなフィナ。

「あの料理人が『あいつなら……』と言っていた。だから頼む」

 フィナはしばらく考えると、

「畏まりました。

 私は助けてもらった身、全身全霊でマサヨシ様に仕えましょう」

 と言った。

 こうしてこの日からオウルの調理場をフィナが預かることになるのだった。


読んでいただきありがとうございます。


そして、あけましておめでとうございます。

仕事の関係でPCに触ったのが今朝になります。

遅い挨拶となりましたが、申し訳ありません。

今年もよろしくお願いします。


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