第26話 依頼者のお望み通りの結末になるように努力しましょう。
扉を使い、再びペンネスの街に入る。
レーダーに「割符を使う組織の人間」で赤く標示させてみた。
おー、結構いるねえ。
五十個程の光点が固まる場所が一つのほかに二十個程の街中に散らばる光点。
百人弱ってところか……。
二人で行動しているのは、俺たちを見つけたら一人が報告に向かうって段取りか?
おっと、誰か俺たちに気付いたかな?
近くに居た二つの光点のうち別の光点は光点の集まる場所へ移動を始める。
残った光点が付かず離れずで尾行を始めた。
散らばっている光点も、合流を始める。
人気のないところって無いのかねぇ。
そう考えていると、歩く先に興行用の空き地なのか人気のなさそうな場所があった。
俺たちはそこに入る。
「主よ、すでに、察知はされているな」
「まあな、今のところ十三人。あの辺に居る」
俺は指差した。
五十ほどのうち三人を残し、光点がここへ向かってきた。
「しばらくすると本隊も来る」
「どうする?殺すかの?」
リードラが聞く。
「イングリッドはどうしたい?」
俺はイングリッドに振った。
イングリッドは少し考えると、
「わかりません。でも人は殺していいものではないと思います」
そう言った。
「殺さず……だな」
と俺が言うと、
「心得た」
リードラが頷くのだった。
見たところ普通の男たちがナイフや剣、更には弓や杖を持って現れる。
「イングリッドはここで待ってろ。
終わらせてくる」
そう言ってイングリッドにバリア的な魔法を使う。
できたバリアを軽く小突いてみたが、固かった。
俺は地面を蹴って加速しようとするが、地面が柔らかすぎてひっくり返ってしまう。
「間抜けだのう」
横を加速していくリードラに笑われた。
「仕方ないだろ!
全力なんてあまり使ったことがないんだからな」
程々の力で地面を蹴り、一気に男たちに近づいた。
まずは飛び道具かね……。
先に杖と弓を持つ男たちを殴りつけ気絶させる。
後は近接戦闘系の者の鳩尾を狙って拳を叩きこんだ。
テレビ番組では金色で隠すようなものが噴き出す。
「きったねぇなあ……」
方針を変え、一人ひとり両足を折ることにした。
単純骨折狙い。
粉砕だったらごめん。
治癒魔法で治ればいいが、犯罪者に使ってくれるのかね。
リードラは器用に関節を外して……いや……引き抜いていく。
しばらくすると地を這う者だけになった。
「はい、お待たせ」
イングリッドの前に戻る。
「マサヨシ様もリードラ様も強いのですね」
と驚いていた。
「マサヨシはバケモノじゃからな」
と、リードラ。
「バケモノのつもりはないんだけどね。
バケモノにバケモノと言われるんだ。
やはりバケモノなんだろうな」
と言いながら、俺はイングリッドのシールドを外すと、
「さて、ボスのところへ行こうか」
と、イングリッドに手を差し出した。
数瞬の躊躇の後、イングリッドは俺の手を握る。
便乗してリードラも空いた手に抱き着いてきた。
鎧モードの服が痛かった。
三人で残った三個の光点のある場所の前にむかうと、小汚い二階建てのアパートのようなものがある。
立体表示できるのかね?
レーダーの表示を変えてみると……できた。
うーん便利。
二階の奥の部屋か……。
「俺が行ってくるから、リードラとイングリッドは後から来てくれるか?」
「後と言われてものう、どのタイミングなのかわからぬ」
「そうだな、足が折れた人間が三人、窓から落とされたらかな?」
「「わかった」」
リードラが頷いた。
階段を上り二階に上がると長い廊下。
床面に不自然なデコボコがある。
罠あるんだろうなぁ……。
レーダーで見ると、結構な数。
俺は静摩擦力を最大限に使ってクラウチングスタートからの加速した。。
「リアル、○パンの爆破逃走シーンだぜい!」
と叫びながらスタート。
何かを踏むたびにヒュンヒュンと耳元をかすめる音がする。
後方で爆発音もする。
いくつか落とし穴があったようだが、飛び越えた。
そして、行き止まりの壁が近づくと、体を低くしてフルブレーキで奥の部屋の前に止まった。
まあ、食らってもいいんだが、一張羅のスーツがなくなってもなぁ……。
こいつは強化されていないし……。
俺は扉をノックするが反応がない。
レーダーを見ると、扉の前で絶賛不意打ち準備中らしい。
扉ごと蹴りつけると、
「グエッ」
という声がして、飛んだ扉に二人が巻き込まれた。
扉の前に居るのが悪いと思う。
そして残りの一人を見ると、小綺麗な服を着た若い男……。
恰幅がいい……親近感のあるデブだ。
睨みつけると、
「おっ、お前、私はリンメル子爵だ。
私に手を出すと大変なことになるぞ!」
「そんなのは知らんよ。
合図のためにあんたの両足もそこの二人の両足も折って窓から放り投げるだけ」
そう言うとリンメル子爵に近づきローキックで足を折る。
同様に扉に巻き込まれた二人の足を折ると、三人を窓から投げ捨てた。
まあ、死にはしないだろ。
肉の合図を見てリードラとイングリッドがアパートの中を駈けてくる。
罠残ってないよな……。
ちょっと心配。
なにも起こらず、リードラとイングリッドは俺の前に現れた。
「大きな音がしたので心配しました」
イングリッドが涙目で俺に言った。
「心配してくれるのか……ありがたいね」
「当たり前です!」
おっと、怒られた。
なぜ?
「リードラさんは心配していませんでした」
不服そうなイングリッド。
「我に殺せぬ者を人ごときが倒せるとは思えん。
服が破れたりするかもしれんが、体は大丈夫だと思うておった」
「人ごとき?」
首をかしげるイングリッド。
「まあ、そのうちわかる」
レーダーで手紙や宝箱がある場所を表示して、根こそぎ収納カバンに入れた。
あまりの量の多さに驚くイングリッド。
結構儲けていたらしい。
「これで多分この街の組織は壊滅かな?
まあ、この割符がらみの者だけだと思うけど」
俺は割符を見ながら言った。
俺がリンメル子爵を担ぎ、リードラが残りの二人を引きずる。
そんな姿を見ながらイングリッドが俺たちについてくる。
そんなふうに歩いていると、
「お前、何をしている?」
と警備兵に止められた。
「んー、この女の子を助けて、命を狙っていた組織を壊滅させて、あんたらの所に連れて行くところ」
俺の下手な説明では通じないと思ったのか、
「すみません、ちょっと見ていただきたいものがあるのですが……」
イングリッドが前に出ると、警備兵に何かを見せる。
印籠?
なわけないか……。
まあ、それに近いもののようだ。
そして耳元で何かをささやくと、
「しばらくお待ちください」
そう言って警備兵が笛を吹く。
すると、続々と警備兵が集まってきた。
「何があった?」
その中の隊長らしき男が聞いてくる。
「はい!イングリッド殿下の身柄を確保しました。
そのうえで、イングリッド殿下の命を狙った者の処置を依頼されております」
敬礼しながら、報告する。
「イングリッド殿下、ご無事でしたか……」
「この二人に助けていただきました。マサヨシ様とリードラ様です」
俺たちは頭を下げた。
「私が割符を拾ったのですが、組織の重要なものだったらしく、襲われたようです」
「イングリッド殿下の身に何かあれば、外交問題になります。
本当にご無事で良かった。
あとのことは私どもが処理しておきますので、まずは詰め所へ」
そう言われ、イングリッドのあとを俺とリードラは歩き、近くの詰め所に行くのだった。
イングリッドは隊長へ事の成り行きと組織の討伐について語る。
「本来ならば、参加されるべきではありませんでしたな」
と隊長は言った。
正しいと思う。
連れ回した俺も悪い。
でも護衛の騎士の敵討ちのような物もしたかったようだ。
イングリッドは少し満足そうな顔をしていた。
「怪我がなくてよかった」
と、隊長は胸を撫で下ろしていた。
そりゃそうだよな。
警備の責任になってもおかしくない。
さて……。
「本拠地らしき場所にあった手紙と宝箱はここに出せばいいか?」
「えっ」
驚く隊長を無視して、あったものをすべて机の上に出す。
結構な金銀財宝である。
「これが割符な」
更に机の上に置く。
「事情はイングリッド殿下がおっしゃったとおり。
用件がなければ、もう先に向かいたいんだけど……」
「この成果を王都に連絡すれば、褒美ももらえるぞ?
それに今から出てもオウルまでは半日かかる。
日没の閉門までに間に合わんと思うが」
「別に金が必要でやったわけじゃないしな。
間に合わなきゃ、その時は野宿するからいい」
「そう言うのならば……」
隊長がしぶしぶ了承した。
さあ、町を出ようと立ち上がったとき、
「でしたら、私も一緒に行ってよろしいでしょうか?
さあ、一緒に行きましょう」
イングリッドは強引に俺とリードラの手を取り、引っ張りながら詰め所を出ていく。
当然追いかけてくる隊長とその部下。
「あの扉で出てしまいましょう」
ニコニコしながら言う。
楽しそうなイングリッド。
まあ、護衛を殺されてヘコんでいるよりはいいか……。
「はいはい」
と言って俺は扉を出し、さっさと三人で外に出た。
「どうやってオウルに向かうのですか?」
「『イングリッドが居るから歩き』と言いたいところだが、黙っていてもらえるのなら今までに経験したことのない旅をさせてやる」
俺は人差し指を口の前に出し「しー」っとアピールした。
「今までに経験したことのない」に心惹かれたのか、興味津々なイングリッド。
「絶対に黙っています」
手に力こぶを作り、言い切る。
「それじゃ、リードラ頼むよ」
と俺が言うと、
「承った」
と言って、元の三十メートル級のドラゴンに戻った。
「えっ、ドラゴン。
真っ白で美しい……」
目を輝かせてリードラを見上げるイングリッド。
俺はリードラに伏せてもらい、俺の前にイングリッドを乗せた。
「さあ、オウルに行こうか!」
そう言うと、リードラは空へ舞い上がり、オウルに向かって飛び始める。
「凄い、ペンネスの街がもうあんなに遠くに……。
リードラさんはドラゴンだったから『人ごとき』とおっしゃったのですね」
「そういうことじゃ」
リードラは振り返ってイングリッドを見ると、口角を上げる。
しばらくすると、
「おお、デカい街が見えてきた。
あれがオウルだな」
「オウルの街を空から見たことのある者なんて数えるほどしかいないでしょう。
私はこんな旅は体験したことがありません。
マサヨシ様は嘘をつかないのですね」
「どうだろ、嘘が必要な時は言うけどね。
でもすぐ嘘だとばれる」
月並みだが、嫁さんの余命が短いのに、長いって言ってたしなぁ。
モロバレだったが……。
「嘘をつくのが下手なんですね」
「まあ、そういうことなんだろう」
俺は呟くように答えるのだった。
ひときわ大きな門が見えるとリードラは人気のない森に降りる。
三人はオウルの入り口へ向け歩き始めた。
さあ、王都に入ろうか。
読んでいただきありがとうございます。




