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第24話 モテる男とモテない男。

 ユアン村、コスキ村に寄り、しばらく飛ぶと空が赤くなってきた。

 するとパルティーモの街が見える。

 十字に通る大きな街道の交差点、それを囲むようにドロアーテよりも大きな外壁が作られていた。

 地図を確認すると結構な距離だ。


「さすがリードラ。もう王都までの三分の二の道のりを進んだ」

「凄かろう?

 寄り道さえ無くば王都までも飛んで見せられよう」

 ドヤ顔のリードラ。

「今日はパルティーモに宿をとるか。

 夜飛ぶのも物騒だし、折角の旅……一泊ぐらいはしないとな」

(われ)は問題ないぞ?

 しかし、(ぬし)と二人で寝るのもいいな」

 そう言うと、リードラは再び街道沿いの人の居ないところを探し降りた。

 リードラは人化すると、何も言わず俺の腕にしがみ付く。

「どうした?」

(われ)はこうしたいのじゃ」

 俺たちは少し街道を歩き、入り口で入街税を払い、パルティーモの街へ入った。



「早く宿を探さないと……」

「無ければ外で(われ)の体で包んでやるぞ?

 ドラゴンのままの(われ)であれば体も温かいはずじゃ」

「まあ、扉を使えば外には出られるな。

 最悪野宿ってのもあるかもしれない。

 でもそれなら、扉を使って家に帰ろうと思う。

 家のベッドで寝るほうが楽だからな」

「『折角の旅』と言うておったではないか!

 滅多に体験できんであろう?」

 ちょっと拗ねたようにリードラが言う。

「そりゃそうだ。

 悪かったな。

 野宿しなきゃいけなくなったら頼むよ」

 と、謝ると、

「任せておけ」

 ドンと胸を叩くと胸が揺れるリードラだった。


 宿を斡旋してもらうために冒険者ギルドへ入る。

 夕方の忙しい時間……冒険者が多かった。

 長身の美女を連れたメタボ。

 違和感の塊である俺とリードラは弄りがいがあるらしい。

 多数の冒険者が俺の前に現れた。

「お姉さん、そんなデブと一緒に居ないで俺と飯を食べない?」

「バカ、お前じゃダメだ。

 俺みたいな女に優しい奴じゃないとな……」

「お前、最近振られたばかりだろ?

 そんな奴が何を言う」

 数人の男がなぜかリードラの取り合いを始めた。


 俺はガン無視かあ。

 悲しいねぇ……。


 それをかき分けフルプレートを着たイケメンの男が現れる。

「お嬢さん。

 何故このような醜い男と……」

 と、俺を睨み付け、イケメンはリードラの手を取ろうと近づいた。

 リードラはその手を払いのける。

 リードラは肩口の開いた服のため、隷属の紋章が見えた。


 黒ではなく赤だが……。


「この男があなたを嫌々奴隷にしたのですね。

 私があなたを助けます。

 そうすればあなたは自由だ」

 

 こいつは自分の言葉に酔っているようだ。

 自分を悪漢から美女を救うヒーローとでも勘違いしているらしい。


 リードラは、

「このバカは何を言っておるのだ?

 (われ)はこちらから進んでマサヨシに仕えておる」

 と嫌な顔をして言った。

「あなたはこの男にそう思わされているのです。

 そんなあなたを私は助けたい」

イケメンは、身ぶり手振りつきで、まるでオペラのように語る

 しかし、

「何も知らぬくせにこの者は……」

 と、ヤレヤレ感満載でリードラは俺の後ろに隠れた。


「あいつが落とせない女が居るんだ」

「たまには鼻っ柱を折られればいいんだよ。

 俺の女も持って行きやがった」

 周りの冒険者が言う。

 リードラ側に着く男ばかりだ。


 その言葉で熱くなったのか、

「どうして?

 私とその男なら、私のほうがいいに決まっている」

 と、大きな声で言う。


 この男、さらに訳のわからんことを言ってるな。


 そんなことを思っていると、リードラはため息をつき、

「そんなに私が欲しいか?

 なら、そこのお前が『醜い』と言った()が主人に勝てばいい」

 と言った。

「そんな簡単なことを?」

 してやったりの顔をするイケメン。

「私はこの男の強さに惚れて仕えている。

 それを上回るならばお前についても良い」

「知らないでしょう?

 私の冒険者ランクはSなんです。


 おお、強い……のか?

 リードラのような強さを感じない。


「お前のランクは?」


 「お前」ねぇ……。


「Bですね」

 淡々と俺が言う。

「ほら、戦う前からわかる。

 SとBですよ。

 それでもやるのですか?」

 リードラに向かってイケメンがランクの差をアピールした。

()(ぬし)ならやるであろう」

 リードラはじっと俺を見る。

 

 リードラの力ならどうにでもなるだろうに……。

 でも、この場なら男である俺が動かないとなぁ……。

 あーあ、やらんわけにはいかないか。


 俺は頭を掻くと、

「ハイハイやりますよ。

 面倒ごとは嫌なんだけどなぁ……」

 と、リードラを見てブツブツ文句を言うのだった。


 騒ぎが聞こえたのか、五十過ぎだろうか……白髪でローブを着た男が現れる。

「私はこの街のギルドマスターであるランツだ。

 やるなら、戦闘訓練場で頼む。

 多分賭けも始まるだろう」

 ニッと笑ってランツさんは言った。



 賭けがあると聞いて冒険者たちが戦闘訓練場へ向かう。

 パルティーモの戦闘訓練場はドロアーテより少し広い。

 コロッセウムのように周囲に観客が座れるようになっていた。

「デブ側にかける奴が居ないじゃないか……」

 胴元らしき冒険者が呟く。


 そりゃそうか、情報開示した内容は、俺がBランクでイケメンがSランク。

 どう考えても俺が負ける。

 大穴狙いにさえならない。


 俺は、 

「自分が自分に賭けるのは有りか?」

 と、聞いてみた。

「ああ、有りだ」

 俺は収納カバンの中から白金貨を取り出し差し出す。

「えっ、白金貨を賭けるのか?」

 驚く胴元。

「だって、俺が勝つと思ってるし」

 俺はニッと笑って言った。

「その体形でか?

 あいつはランクSだぞ」

 まだ納得できないようだ。

「外見で判断する者は負けるだろうのう……」

 リードラがニヤリと笑う所を見て、

「俺、お前に賭ける」

 そう言って、胴元は賭ける相手を俺に変えた。

 まあ、金貨一枚だったようだが……。


 俺とイケメンは中央に立ち正対する。

 「はじめ」の声がかかると、俺は威圧でイケメンを動けなくした。

 ピンポイントの威圧のため観客はイケメンが動けない理由がわからない。

 おれは歩いてイケメンの前に立つと、更に威圧を強めた。

 俺は触らないのに、そのまま崩れ落ちるようにイケメンは倒れた。

 恐怖の顔で俺を見る。

 動けないイケメンを見下ろし、

「舐めてたら殺すよ」

 と言って悪い顔でニッコリ笑う。

 そして程々のデコピンをすると、イケメンは失神した。

 股間のあたりから水たまりが広がる。


 イケメン人生終わりかなぁ……。

 やりすぎたかもしれないなぁ。


 観客の静まる戦闘訓練場で

「はいっ終わり!」

 とパンと手を叩くと、観客は復旧し、ザワザワと話し声が聞こえ始めた。

 どうやって勝ったのか知りたいのだろう。


 胴元の元に戻ると、

「お前、どうやって勝ったんだ?」

 案の定聞いてきた。

「秘密だよ。飯の種だからね。

 さて、どのくらいになった?」

 俺が聞くと、

「負けなくて済んだ。

 助かったよ」

 胴元は礼を言う。

 そして俺に白金貨を一枚と金貨数十枚程度が入った袋を差し出した。

 残りは胴元がとったようだ。

 手数料ってトコだろう。



 冒険者が戦闘訓練所から戻るまでに宿を決めたいので、リードラを連れて受付へさっさと向かった。

 すると、受付嬢も同時に戻ってきたようだ。

 そそくさと席に着く。


 受け付けが空で大丈夫なのかね。


 俺は、戻ってきた受付嬢に、

「宿の斡旋をしてもらいたいんだが。

 二人部屋で風呂がある宿だな。

 部屋風呂だとなおいい」

と聞いてきた。

「しょっ少々お待ちください」

 受付嬢は焦りながらパラパラとリストをめくる。

「あっ、一泊銀貨十枚と少々高いですが、ココから近い所に荒鷲亭という宿屋に一部屋あります。

 寝室だけでなくリビングも付き、風呂は部屋風呂です。

 貴族様が使うような宿ですが、よろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ。そこで頼む」

 すると受付嬢はメモを書き、目的地までの地図と一緒に渡してくれた。

 俺のレーダー上に荒鷲亭が表示される。


 冒険者ギルドを出ると、すでに薄暗かった。

「あの男、どうなるのかのう?」

「知らんよ、俺のリードラを取ろうとするからだ」

 と俺は言った。

「『俺の』……」

 リードラは呟くと、

(われ)(ぬし)の物じゃからのう。

 どこにも行かんぞ」

 嬉しそうに笑い、腕に抱き付く。

 人通りが多い中、少し恥ずかしかったが、そのまま二人で荒鷲亭に向かうのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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