第23話 のんびり、ぶらり、飛行旅。
次の日の朝、俺は目を覚ます。
んー、配置が換わっていない。
前に乳。
後ろは巨乳。
横には微乳。
乳の三段活用みたいな感じな配置でいいのだろうが、今の俺にはちょっとね。
ズルズルと体を揺すり、ベッドから出ようとしたが、クリスがキュッと腕を絞めた。
「もう少し」
上目遣いでクリスが言う。
「はいはい……」
俺はそう言うと目を瞑る。
胸にチクリと痛みが走る。
ん?
クリスは胸元に唇をつけて吸っている。
当然のことながら見事なキスマークができる。
「私の物の印。
できたら、消える前に帰ってきて欲しいかな……」
ニコリと笑うクリス。
すると、腕の辺りに痛みが走る。
「クリスだけじゃない、私も!」
「アイナ、そんなに対抗心燃やさなくても……」
「なれば我もだな」
背中にチクリと痛みが走った。
はあ、面倒……。
でも、これもまた良しなんだろうがね……。
朝食を食べると、いつものスーツに黒のローブを羽織った姿になる。
後は、肩にかけた収納カバン。
これで俺の旅の準備は終わり。
執務室に行って義父さんに
「では行ってまいります」
と報告をすると、
「お前の事だ、滅多なことは無いだろうが、それでも気をつけてな」
と、義父さんは言った。
「はい」
俺は挨拶を終えると執務室を出る。
庭に出ると、既にリードラはドラゴンの姿に戻っていた。
「まあ、大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「多分大丈夫。でも気をつけて」
「マサヨシ様なら大丈夫だと思いますが、道中お気をつけて」
クリスとアイナ、そしてセバスさんが言った。
しかし、枕詞のような「大丈夫」という言葉は要らないような……。
まあ、そんだけ信用されているってことにするか。
「あと、これとこれを……」
俺に地図と紙に包まれたものを渡すセバスさん。
「これは?」
「フィナが昼食にと……」
クリスとアイナの後ろで小さくなって覗いていた。
「ありがとな」
とフィナに言うと。
「ついでだったから……」
と小さな声で呟き、館の中に入って行った。
顔が真っ赤だったな……。
俺はリードラの背に乗ると、
「じゃあ、行ってくる」
と言って出発するのだった。
王都オウルに向かって街道沿いに南に飛ぶ。
「寒くはないかの?」
リードラが振り返り聞いてきた。
結構な高度、とはいえ雲よりは低い。
旅人たちが点に見えた。
豪華な馬車、荷馬車、歩き、馬に乗った者も居る。
本当なら、寒くてたまらないだろうが……。
「大丈夫、風防の魔法を使ってるからな。
あと、軽く火魔法で温めてる」
実際、風の魔法で空気の層を作り、風が入らないようにしていた。
かなりの速さなのだろう、リードラの翼の先端から雲が出ている。
俺のレーダーに映る次の村の名はラピン。
その村がどんどん近寄る。
一時間もすると、木の柵に囲まれた小さな村が現れた。
周囲には麦畑が小さく広がる。
その周りには森。
するとその森から人と魔物が飛び出してくる。
人が魔物に追われているようだった。
「主よ!」
リードラが振り向く。
「ああ、助けよう。
どうせ、この村の近くに降りて場所を覚えるつもりだったからな」
「心得た」
そう言うと、リードラは急降下を始める。
気圧の変化で俺の耳がキーンと鳴る。
リードラは速度を殺さず魔物を掴み取り、そのまま急上昇を始めた。
旧ドイツ帝国の攻撃機、ユンカースか……
上昇時の下向きのGが凄かったが、ステータスのせいなのか気にはならない。
逆に勢いで魔物は気絶しているようだ。
追われていた者は俺たちを見上げていた。
「主よ魔物はどうする?」
俺は体を乗り出してリードラが掴む魔物を見ると、二メートルほどのイノシシの魔物だった。
「んー、首でも折って追われていた人の前に置いてやって」
そう言うと、ボキリという音が聞こえ、再びリードラは急降下を始める。
それを見て追われていた者は逃げ始め、ダメだと思ったのか頭を抱えて座り込む。
今度は水平飛行から擦れ違いざまに追われていた者の前に魔物を落とした。
何回転か魔物が転がったが、まあ肉は大丈夫だろう。
「何であんなことを?」
「ホーリードラゴンは幸せを運ぶんだろ?
天からのご褒美って奴でいいじゃないか」
「そうじゃな」
ニヤリと口角を上げるリードラ。
少し遠い場所に降りるとリードラは人化し、二人で歩いてラピンの村に入った。
「リードラって服を持ってるのか?
いつも白いローブを着ているが……」
「主よ、これは我の鱗じゃ。
昨日のごとく裸体にもなれるぞ?」
リードラが体に魔力を纏わせたので、
「今、脱ぐのはやめような」
と釘を刺す。
「心得たぞ。
しかし二人きり、こんな事をしてもよかろう?」
リードラは俺の左腕を持ち、たわわな胸を押し付けてきた。
「クリスにでも教わったのか?」
「いいや、母様に教わった」
「母様?」
「我を産んだ者だ。
『男は胸でイチコロ』だと言うておった」
「『イチコロ』なんて言葉こっちにあるんだな」
「違うらしいぞ?
そう言えばなんかいろいろ言われたような気がする。
しかし百五十年も経っておるでの。
思い出したら教えよう」
「ああ、頼む」
その母様に何だか親近感を感じた。
入村税のような物は取られず、門番も居ない。
のどかなもんだ。
「ホワイトドラゴン様が俺を助けて魔物を恵んでくださった!」
と、大きな声で叫ぶ若者が居た。
「リードラのお陰だな。
ホワイトドラゴン様だそうな」
「煽てるでない。
恥ずかしいではないか……」
少し頬が赤いリードラ。
小さな村の大通りは二百メートルもなく、そこには冒険者ギルドと宿屋ぐらいしかなかった。
冒険者が多いのは周囲の森で狩りができるかららしい。
特に産物もないが、魔物の肉や素材を売ることで生計を立てているようだ。
十分も歩くと通り抜ける。
そして、人の居ない場所でリードラがドラゴンに戻り、俺たちは空へ飛び立った。
ラピンの村からラフティー村の間には峠がある。
ラフラ峠と言われているらしい。
大きな荷物を背負った商人、荷物を満載した馬車が見えた。
少し低い所を飛んだせいか俺たちは見つかり指を刺された。
「もう少し高い所を飛ぼうか」
「了解だ」
そう言って高度を上げた。
峠道から離れ雲で真白なリードラの体が、雲の隙間に隠れる。
街道沿いにラフティー村にも入る。
規模はラピン村周りに森が無いせいで、周囲の畑は大きかった。
何時でも行けるように一度村に入ると再び先に進む。
次はドロアーテほどではないが外壁で囲まれたカーヴの街。
街道沿いの人気のない所に降り街道を歩き始めると、軽装過ぎるのか、商人や旅人にチラチラと見られていた。
皆、まさにトルネ〇風の商人が重そうな荷物を持ち、一歩一歩歩いている。
門に並び、俺は冒険者ギルドカードを見せ、後付けで作っておいたリードラの奴隷所有証明を見せると、簡単に街の中に入ることができた。
街の中を歩いていると、道が整備されていないのか、豪華な馬車が車輪をとられ動けなくなっていた。
その周りに護衛の騎士が四人。
何とか動かそうと、努力をしている。
「くそっ、動かない。早く誰か何とかしろ!」
若い女の貴族が周囲の騎士に文句を言っていた。
しかし、馬車は重く深くきれいに嵌ったようで少々揺すっても動かないようだ。
「バカだねぇ、人が乗っていては重いだろうに」
俺は野次馬が囲む場所に居た。
すると俺を指差し、
「そこのデブ!今何と言った?」
「ああ、『降りたら軽くなるのに』と言ったまでだが?」
「その前だ!」
「『バカ』って言ったんだ」
「この私に対して『バカ』だと!」
「『バカ』だろうに。
荷物と人を降ろせば軽くなる。
その分そこの騎士が楽になるだろ?
そりゃ貴族様だから人を使うのも仕事だろうが、わざわざ難しくしなくてもねぇ……」
周りから、
「うんうん、バカだ」
「そんなこともわからないバカ」
「バカだねぇ」
などと声が上がった。
言葉の勢いに負け、
「この騎士たちが、私に降りろと言わなかった」
小さな声で貴族様は言った。
「だから何?
だったら気付けよ!
『どうやったら馬車が動くんだろう』ってなぜ考えない!
任せっぱなしでどうする」
「そんなことを言うが、お前には何とかできるのか?」
悔しそうに俺に言う貴族様
「できるけど、何とかできたら良い事がある?」
「私の下で雇ってやろう」
「あー、雇ってもらうのは勘弁だな。
そこの騎士はどうか知らないが、あんたみたいなじゃじゃ馬を相手するのは面倒だ」
「なっ」
あまりの怒りか、言葉が詰まる貴族様。
「まあ、そこの騎士たちが可哀そうだから、助けてやるよ」
そう言うと、俺は埋まっている車輪を持ち上げ、少し馬車をずらすと、平らな場所へ置いた。
唖然とする貴族様と騎士たち。
「たまには部下にねぎらいの言葉ぐらいはかけてやるといいぞ。
それじゃ」
そう言ってリードラと共に去ることにした。
「デブ!どこに行く!」
後から甲高い声が聞こえてきたが、無視をしてそのまま街を去った。
街道の傍の空き地で、フィナが作った弁当を食べる。
大きなバゲットの間にサラダとハムを挟んだサンドウィッチだった。
「んぐ……我はクラウス殿しか知らぬが、あんな貴族もひふのはな」
サンドウィッチを頬張りながら、リードラが言った。
「まあ、貴族っぽいだけで、あの娘の親が貴族なだけなのかもしれないしな。
口に物を入れたままだと汚いぞ」
「これは申し訳ない」
口の中のものを飲み込むリードラ。
「ということは『我の威を借るもの』のようなものか……」
「まあ、そんな感じだな。
あの娘よりもあの娘の親が怖いんだろう。
まあ、二度と会う事もあるまい」
と思ってたんだけどなぁ……。
俺とリードラはサンドウィッチを食べきる。
そして再び空を旅するのだった。
読んでいただきありがとうございます。




