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第20話 人には色々理由があるのです。

「どうしてフィナはアイナと行動を共にしていたんだ?」

 俺は気になってフィナに聞いてみた。

「それは……、アイナちゃんは私の命の恩人なんです。

 私が八歳の時、食べ物を漁っていたら縄張りを犯してしまったのか別のグループに見つかって殺されそうになって、怪我していたんです。

 私には病院へ行くお金も無いし、怪我をしたままじゃ食べ物も探しに行けないし、途方に暮れていた時、アイナちゃんがふらりと現れて私に手を添えると傷がみるみる治ったんです。

 その後は、その力は使えなくなったみたいです。

 アイナちゃんも覚えていないと言っていました」

「無意識に聖女の力が出たのかもしれないな」

「そうかもしれません。

 その後は二人で行動するようになって今に至ります」

 そう言い終わると、何かの発表をしたようにペコリとお辞儀をした。

「姉妹のようだな」

 そう言って父さんが笑った。


 すると、アイナが俺と義父さんを見て、

「私は冒険者になる。

 マサヨシの傍に居る。

 ダメ?」

 と言い始めた。

「どうした、アイナ?」

 俺が聞くと。

「マサヨシがクリスに取られちゃう。

 私は負けたくない」

 と、クリスを見て言った。

「あら、私に勝てるとでも?」

 クリスは見下ろしながらアイナに言った。

「そのうち勝てるようになる。

 それまでは離れない」

 体を押さえアイナも言い返す。

「マサヨシはモテモテだな」

 当事者でない義父さんはニヤニヤ笑っていた。

 しかし、義父さんは厳しい顔になると、

「アイナ、お前の好きにすればいいと思うが、お前が足を引っ張ればマサヨシが死ぬこともある。

 それだけではない、マサヨシは私の息子になる。

 つまり貴族の息子だ。

 妻になりたいのならば、それなりの知識と教養を持ってもらわねばならない。

 わかるな?」

 と、アイナを見て言った。

 アイナはコクリと頷く。

「では、マサヨシとクリスが行っている朝練に参加するがいい。

 基本ヒーラーは守られるものであるが、それでも戦えなければ邪魔でしかないからの。

 この屋敷に戻っても私の下に居ること、礼儀作法、一般常識を教える。

 できるかな?」

「わかった。やる」

 アイナがそう言うと、義父さんは目を細めウンウンと頷いていた。



 その日夕食を終え寝る時間になるころ、義父さんが俺だけを呼んでいるとセバスさんが伝えてきた。

 俺は、義父さんの寝室に行き、ノックの後中に入る。

「お呼びだとか?」

「ああ、お前に言っておく事がある」

 義父さんが言う。

「知っておるかどうか知らぬが、この国の王、マティアス・オースプリング様と聖女であったフェリシア様の二人が一時期、仲が良かった時があった。

 それがアイナの職業と重なる……。

 それが十年ほど前にぱったりと会わなくなった。

 更には聖女が表に出なくなった時期でもある。

 アイナが十歳。

 妊娠したとすれば丁度重なる……」

「王女かもしれないということですか?」

「王女だろうな。

 私も聖女には何度か会ったことがあるが、面影がある」

 義父さんは確信があるようだ。

「ということは、追跡の呪文の効果でこの地を訪れる者は、王に近い者。

 または権力のある者の手下だということですか?」

「もしくは、下に着く貴族の手駒」

「ということは、結構な部隊……または暗殺者が来ると……」

「楽しみだのう。誰が来るのやら……」

 喜んでいるのか、義父さんがニヤリと笑っていた。



 フィナとアイナには部屋が与えられ、そこで寝起きをすることになった。

 フィナは、

「こんなフカフカのベッドに寝るのは初めてです」

 と恐縮していた。


 アイナは夜中に起きだし、俺とクリスが寝ている部屋に入ってくる。

 俺とクリスは義父さん公認のため、次期当主用の広い部屋を使い、キングサイズの大きなベッドに寝ていた。

 アイナは扉を開けるとササっと入ってきて、持ってきた枕を俺とクリスの間にねじ込むと、俺を抱いて寝始めた。

 クリスも気付いていたが、気にしない振りをしたようだ。



 次の日、日が昇り始めるころにはアイナは居なくなる。

 その頃には朝食の準備でフィナは調理場に立って手伝っていたようだ。

「私はまだ何とかなります。

 調理場の方に行ってもらいました」

 とセバスさんが笑いながら言った。

 朝から料理人の指示の下パタパタと動き回るフィナ。


 やはり、メイドは要るかね?


 アイナと言えば、義父さんが目を覚したのに気付くと、すぐに義父さんの下に行って教えを請おうとしたようだ。

「まあ、待て、せめて着替えさせろ。

 セバス、手伝ってくれ」

 という義父さんの声が聞こえてきた。

「私も手伝う」

 というアイナの声と、

「では、アイナ、そこの服を持ってきてくれないか」

 というセバスさんの指示も聞こえてきた。



「大勢で囲む食事は楽しいな」

「そうですね、クラウス様」

 義父さんとセバスさんが笑っていた。

「一人でセバスと食べる食事など味気なくてな。

 セバスは当主となど食べる立場ではないと、テーブルを囲まなんだ。

 いつも一人。

 しかし、今はマサヨシ、クリスさん、アイナ、フィナが並ぶ。

 家族が出来たようだ。

 フィナやアイナなど我が孫のようでな、甘くしようとしてしまって、セバスに怒られたぞ」

 そう言いながら笑う。

「そうです、フィナは調理師見習い。

 アイナは冒険者見習い。

 本来はこの食卓を囲む資格など無いのです。

 それが、クラウス様とマサヨシ様が甘いせいで……。

 まあ、しかし、会話の中で朝食を食べるのはいいものです。

 最近はクラウス様のご機嫌もいいので許容しておきます」

 素直に肯定できないのか、セバスさんは苦笑いをしながら言っていた。

「素直じゃないのう」

 義父さんが言う。

 皆がクスクスと笑う。

 セバスさんが「ゴホン」と咳ばらいをすると、

「それでは朝食を食べようか」

 義父さんが声をかけ、朝食が始まるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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