表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/175

第19話 洗ってみるといろいろわかったりすることがあります。

「連れて行くの?」

 クリスが聞いてきた。

「まあ、これも縁だからな」

 そう言うと、

「二人ともちょっとこっちへ来てくれ」

 と言って、俺とクリスはフィナとボウズを連れ裏路地に入り、扉を出して扉を開けた。

 向こう側が別の屋敷なのに気付いたフィナは、驚いて俺を見た。

「安心しろ、俺は魔法使いなんだ」

 俺はそのまま扉を越え義父さんの館に向かう。

「大丈夫だからおいで」

 続いてクリスが扉を越えた。

 そして、何も気にせずボウズが超える。

「あっ、もう……」

 一緒に行きたかったのだろうか?

 先にボウズが超えたことをちょっと不満げにフィナが扉を越えた。



「お帰りなさいませマサヨシ様、クリス様。その子供は?」

 セバスさんが俺に聞いてきた。

 館に慣れていないせいか、フィナとボウズはきょろきょろしている。

「すみません、拾ってきてしまいました」

 と俺が言うと、セバスさんがため息をつく。そして、

「まあ、部屋は余っていますからいいのですが、この姿では……」

 と言った。

 正直言って二人は汚い。

「昔、使用人の子供が使っていた服があったと思います。

 探してみましょう。その間に二人を風呂に入れてもらえませんか?」

 セバスさんがそう言うと、

「わかりました」

 と言って四人で風呂に向かうのだった。



 俺も汗をかいていたので、俺、クリス、フィナ、ボウズで風呂に入る。

 俺が服を脱ぎ、クリスが服を脱ぐ。

「うわぁ、綺麗」

 クリスの姿を見てフィナが目を見張っていた。

 しかし、ボウズはクリスに対抗するように服を脱ぐ。

 まあ、当然のようにツルペタつるん。


 ん?

 つるん?


 俺があると思っていたものがボウズには無く。

 普通は無いと思う物がボウズにはあった。

「お前女だったのか?」

 俺に体を見せてくるが、

「俺、興味ないぞ」

 と言うと、少しがっかりしたようだった。

 ただ、ボウズは、

「すぐに追いつく」

 と意気込んでいる。

「で、お前、なんで隷属の紋章なんかが?」

「わからない」

 考えているが実際にわからないようだ。


 かけ湯をした後、一度髪と体を洗ってから風呂に入ったが、汚れは残ったままだった。

 しばらく湯に浸かりふやかしてから再び洗うと、出るわ出るわ垢だらけだ。

 俺がボウズで、クリスがフィナを徹底的に洗った。


 石鹸が泡立たない体を久々に見た気がする。

 インフルエンザで風呂に入れなかった時以来だが、それを上回る。


 しかし、その甲斐もあり、フィナは肌は褐色、髪の毛が黒髪そして耳の毛が茶色っぽくなり、ボウズの肌は真っ白髪の毛がエメラルドグリーンに変わった。


 つか、こいつ女なんだよな。

 ボウズじゃいかんか……。


「名前が無いって言ったな」

 コクリと頷くボウズ。


 エメラルドグリーンの髪かあ……あれしか思い浮かばん……。


「そうだな、アイナでどうだ?」

「何でアイナ?」

「俺が好きな物語のヒロインだ。

 お前と違って短髪だが美人だぞ?

 髪の色が似ている」

「マサヨシはアイナが好き?」

 俺の目を見て聞いてきた。

「好きっちゃ好きだな。

 男に尽くすというか……ひた向きと言うか……」

 その言葉を聞くと、

「ん、私アイナでいい」

 とボウズは即答した。

「わかった、お前は今日からアイナな」

 こうして、ボウズはアイナになった。


 脱衣所に戻ると既に下着と服が準備してある。

 さすがセバスさん。

 俺がクリスの髪を乾かしていると、じっと俺を見るフィナとアイナ。

「あなたたちもして欲しいの?」

 フィナはあまり乗り気ではなかったようだが、アイナがコクリと頷いた。

「私が終わったら、マサヨシに頼みなさい。

 気持ちいいわよ」

 クリスはニコリと笑って二人に言った。

 結局フィナもアイナも髪を乾かす。

「あー、こんなに気持ちいいのですね」

 フィナが身もだえていた。

 アイナは、

「あっ、うん、えっ、すごい」

 聞き様によっては怪しい言葉をつぶやく。

 そして、準備されていた下着はひもで縛るトランクスタイプの下とタンクトップのような上と、フィナの物もアイナ物もどっちも男物のようだが服を着るフィナとアイナ。


「見違えたわね」

 クリスが驚く。

「そうだな、見違えた」

 俺も驚いた。

「フィナは猫の獣人?」

「いいえ、(たてがみ)はありませんが獅子族です。

 父さんには(たてがみ)はあったのですけどね。

 獅子族の女には(たてがみ)は無いのです。

 尻尾もほら、先っぽが房のようになっているでしょ?」

 フィナは尻尾を俺に見せる。


 確かに尻尾がライオンっぽい。

 他は猫と同じだ。

 猫と勘違いしても仕方ない事にしてもらおう。


「アイナは……人だな。

 でも可愛くなったぞ」

「クリスよりも美人になりたい。

 マサヨシの愛人になる」

 頬を膨らませるアイナ。

「いやいや、今でも十分美人だが、愛人になる云々はもっと大きくなってからにしてくれ。さて、セバスさんにお前たちの変貌を見せに行くかな?」

 俺はこのままではまずいと思い、そう言って話を変えるのだった。



 俺とクリスは二人を連れセバスさんの元へ戻る。

「こんな感じになりました」

 俺はセバスさんにフィナとアイナを見せた。

「二人とも女の子だったのですね」

「ええ、私も勘違いしていました。

 エメラルドグリーンの髪をした方も女の子です」

 セバスさんの質問に返事をした。

「それでどうするのですか?

 まあ、まずクラウス様に許可を貰わなければいけませんが……」

「そうですね。

 義父さんには『二人をこの屋敷で雇えないか』と言ってみます。

 給金については私が出すようにして、料理人とメイドの見習いでどうでしょうか?

 私とクリスが来たことで料理人一人では少し忙しそうでしたし、義父さんの世話だけだったものが二人分のベッドメイクや部屋の掃除が増えたせいでセバスさんも忙しそうにしていました。

 ですから、手伝いになればいいかと思います。

 まあ、しばらくは教える手間がかかりそうですが……」

「わかりました。

 まずはクラウス様に話をしてみてください。それで許可が出れば、わたくしとしては問題ありません」

 そう言うと、セバスさんは義父さんの居る執務室に向かって歩き始めた。


 執務室の扉を開ける。

 俺、クリス、フィナ、アイナの後ろにセバスさんが立った。

「おお、マサヨシ、戻ったか」

 そう言って俺を出迎えると、俺の後ろに居る少女二人を見つけ、

「で、可愛い来客が居るようだが、その者たちは?」

 と義父さんは聞いてきた。

「獣人がフィナ。

 人がアイナ。

 私が拾ってきた孤児です」

「ふむ、で、どうするつもりだ?」

「料理人の手伝いとセバスさんの手伝いをさせようかと……。

 給金は私が出します」

「ふむ、確かに人が増えてきておる。

 手伝いとして雇用するのも有りだな」

「雇うと言うことで、よろしいでしょうか?」

「ああ、かまわん。マサヨシの好きにすればいい」

 こうやって二人の雇用は決まる。


 ふと気になる事を思い出した俺は、

「義父さん。隷属の紋章がある子供というのは居るのですか?」

 と聞いてみた。

「二人のうちのどちらかに隷属の紋章があるのか?」

「はい、人の子のほうに。

 フィナが言うには、小さなころに捨てられたようだと……」

 義父さんは顎に手を当て考える。

「名前も知らないと言っていましたから、相当幼いころにここに来たのだと思います。

 そんな子ですから逃走してきた訳ではないようです」

 何かを思い出したのか、

「王族や貴族の後継ぎ争いでは、負けたほうの子供を記憶もあいまいな年ごろの時に捨ててしまう時があるのだ。

 当然普通は死んでしまうがな……。

 ただ、それでも生き残る者も居る。

 しかし、何かで自分の素性を知ることがあれば困るため、事前に隷属の紋章を付け、制約を設けることで自分に反抗できないようにするのだ」


 生き残っても押さえつけられるのか……。


「もし、所有者の書き換えをすれば、どうなるのでしょうか?」

「普通は問題ないだろう」

 義父さんが言う。

「普通じゃない場合は?」

「書き換えが起ると、書き換えが起った場所が魔法書士にわかるように、紋章の中に追跡の呪文を織り込んでいるものもあるのだ。

 そして、書き換えが起り場所が知れれば命令された誰かがその場所に行って探し始める」

「では、今アイナがこの場所に来ていることはわかるのですか?」

「そこまで便利ではない。

 推測だが紋章の書き換えには強力な魔力が必要となる。

 その魔力を使って、紋章に織り込まれている呪文を発動させ、術者に知らせるのだろう。

 で、お前はこの子の所有者を書き換えるつもりなのかな?

 お前なら出来そうだが……」

「先日、契約台を手に入れましたので、所有者を私に変更しようかと思っています」

「では、この場でやってくれんかな?

 そうすれば、この場所がこの娘の所有者が変わった場所になる。 

 そのほうが楽しそうだ」

 そう言うと、にっこりと笑うクラウス様。

「危険なことをしてはダメです!

 体にもよろしくはありません」

 セバスさんが止めに入った。

「儂の寝首を搔きに来たものが、何を言う」


 えっ、セバスさんって元暗殺者?


「それはもう十五年も前の話です。私以外の三人もこの街で妻を得て普通の生活をしているではありませんか」


 ああ、三人って門番の二人と……料理人か……。


「セバスがこの屋敷に住んでいた儂を襲いに来ただろう?

 屋敷の中の何の刺激もない生活にセバスの殺気を感じることで一瞬だが色がついた。

 体を悪くしてこの屋敷に戻るまではずっと戦場におったのだ。

 たまには火遊びをしても良かろう?

 それに、セバスとあの三人だけでなく、マサヨシもクリスさんもおる。

 何とかなるだろうて」

「そうは言いましても……」

 セバスさんが恐縮する姿を初めて見た。

「セバス。

 マサヨシが来るまでの生活はただ老い死ぬのを待つだけの生活だった。

 死ぬ前にひとつ遊ばせてくれ」

 義父さんが頭を下げると、

「仕方ありません。

 私も久々に黒衣と黒の双刀を使う必要がありそうですね。

 楽しみです」

 セバスさんがニヤリと笑う。

「見ろ、お前だって、刺激に飢えておる」

 そう言って義父さんがニヤリと笑った。


 義父さんやセバスさん、クリス、フィナに見守られる中、俺は契約台を出し、契約書に「所有者をマサヨシに変更する」と記入した。

「アイナ、この契約台の上に手を置いて」

 そう言うと、アイナは契約台の上に手を置く。

 それを見て俺も契約台の上に手を置き、そして、契約書に魔力を通した。

 すると文字が光り始め、そして光が収まる。

「所有者の変更は終わったぞ。

 とりあえず、制限や制約は解除しておくか……」

「さて、あなたの所有になってこの子はどうなったのかしら?」

 クリスが気にしている。

「そう言えば、冒険者ギルドカードを作れば、その辺のことを書いていたな。

 ちょっと行ってくる」

 そう言って、俺とアイナで冒険者ギルドへ向かった。


 昼前のギルド、受付でリムルさんが暇そうにしていた。


 とりあえず、受付しないとな……。


 アイナと受付に近づく。 

 俺とアイナが椅子に座ると、

「この子を冒険者登録したいんだが、年齢制限とかは無い?」

 と、リムルさんに聞いてみた。。

「ああ、マサヨシ様。

 冒険者登録には年齢制限はありませんよ。

 しかしソロで動くには、十四歳以上という年齢制限があります。

 あと、パーティーを組んで依頼を受ける場合にもリーダーは十四歳以上でなければいけません」

「説明ありがとう。

 それではこの子の冒険者登録をお願いします」

「それではお名前を」

 俺が代筆する。

 そしてカードを返した。

「アイナ様ですね。この水晶に手をかざしてください」

 アイナが、水晶に手をかざす。水晶が輝きだす。明るすぎて目が開けられない。

「ピシっ」

 音がした瞬間にリムルさんが一瞬驚いた。


 ピシ?

 またか……。


 徐々に輝きは陰り元の水晶に戻る。


 あっ、真ん中に一筋のヒビが。


「はい、これがアイナ様のギルドカードになります。

 これは、街に入る時など、身分証明になります。

 ギルドカードの発行は初回のみ無料で、再発行には銀貨3枚が必要になりますから、大事にしてくださいね。

 あと、あなたのランクはFとなります。

 依頼をこなせばF、E、D、C、B、A、S、と上がります。

 あとは、マサヨシ様にお聞きください」

 そう言ってリムルさんは説明を終えた。

「リムルさん端折りましたね」

「まあ、マサヨシ様も知っている事ですから……。

 それに、身近な人に聞くのがわかりやすいかと……」

「まあ、確かに……」

 さて、館に戻ってみんなでステータスを見るか……。

「じゃあ、ありがとう」

 そう言うと、ギルドを出て扉で館に戻るのだった。


「おう、帰ってきたか」

「待ってたわよ」

「「どうでしたか?」」

 義父さん、クリス、セバスさん、フィナが興味津々で聞いてくる。

「お待たせしました。登録は終わりました」

 そう言った後、

「アイナ、ステータスオープンと言ってもらえないか?」

 と俺は言った。


「ステータスオープン」

 アイナの小さな声。


 アイナ 女性 10歳

 HP:7837 

 MP:2438

 STR:A

 INT:S

 AGI:B

 DEX:B

 VIT:A

 職業:姫 聖女

 所有者:マサヨシ

 冒険者ランク:F


 アイナ以外の者が覗き込む。

「所有者は私になっていますね」

 俺が言う。

「この歳でSは居ないんじゃない?

 水晶にひびが入らなかった?」

 クリスが聞いてくる。

「ああ、入った」

「そうか、マサヨシのステータスに引っ張られたのか……」

 クリスはヤレヤレ顔で言った。


 水晶はS以上でひびが入るようだ。何か、ガチャのエフェクトっぽいな。


「姫って職業になっていますね。

 聖女という職業もある」

 セバスさんが言う。

「固有職業かもしれませんね」

 俺が言った。

「しかし、姫に聖女か……」

 何故か義父さんは遠い目をした。


「アイナ、何か魔法使えるようになった?」

 コクリと頷くアイナ。

 そして、

「威圧、ヒール、ミドルヒール、ハイヒール、フルヒール、キュアー、プロテクション、ターンアンデッド、リザレクション、多分使える。

 呪文が思い浮かぶから」

 小さな声で言う。

「姫な部分が威圧?

 で、聖女な部分が回復系かな? 

 蘇生魔法が使えるなんてすごいぞ!」

 興奮しながら俺は言った。

 でも、クリスがアイナを撫でながら言いだした。

「マサヨシ、誉めるのは良いけど、蘇生魔法は条件が厳しいの。

 体が生きている状態つまり死んで間もない時に蘇生魔法を唱える必要があるんだけど、唱えるまでに死に至る要因を取り除いておかないと魂が戻った瞬間にその要因で再び死ぬ。

 それに、寿命には効かない……って感じでね」

「そんな縛りが……」

「あとね、簡単に高位の司祭が唱えられるような魔法を唱えていたら、攫われるかもしれない。

 だって、死にたくない貴族は一杯居るでしょ?

 だから、アイナ……下手に魔法を使っちゃだめ。

 私たちと居る時ならいいいけど、アイナ一人で他の人が居る時はよく考えて使うのよ?」

 アイナがコクリと頷く。


 さすがファンタジー、蘇生魔法があるのか……。

 興奮していたんだろうな、色々見えなくなっていた。

 クリスに感謝だ。

 基本はステータスは出さない、職業は見せない、魔法も見せない……ってところだろうな。


「でもアイナ、いつ使えるようになったんだ?」

「隷属の紋章書き換えしたとき、何かが出そうになって、冒険者登録して頭がすっきりして魔法が浮き出てきた」


 ん?

 隷属化で制限をかけられていたのか?

 職業を使えないように強制?

 元々の主人が誰なのかわからないが、あまりいい性格じゃないな。

 とりあえずは、紋章の上書きで制限や強制はなくなったみたいだから良しとしておこう。いつか向こうから接触があるまでは待つしかないか……。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ