第170話 エルフって頭が固い。
クリスの部屋に入りヒヨーナでのことを説明する。
「やっぱりそういうことも起こるか……」
アレックスに乳をやりながら、クリスが言った。
「そんなに俺って魅力的なの?」
「だってそうでしょ?
領地経営は上手くいってる。
戦闘能力も高い。
様々な従魔も居る。
マティアス王とランヴァルド王の娘を妻にする予定。
何なら、エルフの国の王女もよ?」
「王女って誰だ?」
「私よ!
わ・た・し!」
急に大きな声を出したクリス。
アレックスが泣きそうな顔をする。
「ごめんね、アレックス。
あなたの父さんが変なこと言うから」
アレックスを抱きあやすクリス。
すぐに機嫌が直り、キャッキャと笑い始めた。
「そういや、そうだったな。
君は王女様だ。
でも向こうの子爵は行方不明だと思っている。
つまり表には出せない事らしい」
「仕方ないわねぇ。
エルフは純血を求めるから……。
そんな事を気にしない、私は異端なのかもしれないわね」
「だからこそ、君に会えたわけだ。
俺はその考え方に感謝だね。
俺の第一夫人様」
「当然。
私が本妻よ。
あのゴブリンに襲われた時、私はあなたに惚れたの。
離れないって決めた。
だから今ここに居る」
「のろけ話はその辺にして、どうするの?」
カリーネが笑いながらシーラを抱いて現れた。
「とりあえず、クリスのオヤジさんには会わないとな。
そのうえで、クリスの廃嫡を決めてもらおうか。
話を聞けば人の血が混じったエルフなど興味は無いようだ。
本当にそう考えているのなら、簡単な挨拶をして二度と顏を見せない。
それだけだよ」
「そうで無ければ?」
カリーネが聞いてきた。
「クリスを娘として扱い、アレックスを孫として扱うのなら。
俺の義理の父親として尊敬し、俺が生きている間はちゃんと付き合うよ」
「あなたは?」
再び俺に聞くカリーネ。
「んー、どう扱われるかはわからない。
でも、俺は皆が居てくれれば寂しくないからな。
孫が居るのに孫も抱けないほうが寂しいだろ?
まあ、そういうことだ」
「もう、優しいんだから!
もう少し自分の欲で動けばいいのに」
クリスがボソリと言う。
「皆のお陰で、俺は好きなようにやってるよ。
さて、あと二日、独身気分を味わうかね」
俺はニヤリと笑った。
「夜は帰ってくるんでしょ?」
クリスが聞く。
「ああ、そのつもり。
ただ、俺は巻き込まれることが多いようだ。
その時はごめんなさい……だな。
さて、次はヘルミーナだ。
ちょっと出かけてくる」
昼が近くなった午前、俺はアインとヒヨーナの外に出て、ヘルミーナに向かうのだった。
森が切れ平原が広がる。
エルフの農業は精霊と共に作る農業だと聞いている。
畑には多くのものが実り、土地の豊かさを物語っていた。
ヘルミーナの街に近づくと、多くの麦わらを積んだ大きな馬車が門の中に入って行くのが見えた。
「豊かそうだな」
冒険者ギルド証を出し中に入ると、作物を売る市がある。
人間である俺がこの場所を歩くのが珍しいのか、俺はジロジロとみられることになった。
二人の騎士が近寄ってくる。
力よりも早さタイプの騎士かな?
「何をしに、ヘルミーナに来た?」
俺に声がかかった。
エルフは自分ら以外を嫌うらしい。
市に居た商人はそうでもなかったが騎士たちは違うようだ。
声にも俺への嫌悪感を感じる。
「私は冒険者でマサヨシと申します。
オセーレ、オウルと王都を見たので、エルフ側のストルマンの街を見てみたいと思いまして、その途中ヘルミーナの街へ来た次第です」
「お前、人のくせになぜ精霊を?」
上からの言葉を投げかけられた。
おっと、わかるらしい。
そう言えば、クリスもマールもすぐにわかっていたな。
子爵はわからなかったのかね?
娘のことで頭が一杯だったとか?
「たまたまではありますが、精霊と契約することができました」
「精霊はエルフが扱うべきもの。
特に我々のような精霊騎士が扱うべきものなんだ。
人が精霊を扱うのは許せん!」
「許すも許さないも……既に契約はなっておりますし」
我慢我慢。
揉めちゃダメだ! 揉めちゃダメだ!
「いや、やはり精霊はエルフが扱うもの。
精霊を渡せ」
「そうだ、精霊はエルフの物だ!
早く契約を解除しろ!」
最近我儘に動けたから、我慢できないのかね。
キレそうだ。
「オラ、精霊を返せって言ってんだよ」
「そうだ、精霊は俺たちの物だ」
ついには俺に近寄りローブの襟を持って揺すり始める始末。
いいよね、もう我慢しなくても……。
俺は騎士の体に触れると、騎士と精霊との契約を魔力で無理やり解除する。
青い犬と緑の犬。
その精霊たちは喜び俺の周りで飛び回った。。
ありゃ、デカくなったな。
見る間に体長二メートルの狼ほどの大きさになった。
俺は近づくと二頭の精霊の頭を撫でる。
「あらあら、精霊が増えたわね。
どうしたの?
よく懐いちゃって」
呆れた顔をしたマナが現れた。
「ん、そこの精霊騎士?
人間が精霊を持っているのはダメみたいなことを言ってたね。
鬱陶しかったから隷属契約解除してやったんだ。
契約書なしでやったから、俺のもんになったみたい」
尻尾を振る精霊たち。
「扱いが悪かったみたいね。
契約解除されて凄く喜んでいる」
俺とマナとの会話を驚いて見ている騎士たち。
「なっ、人型?」
「人型の精霊は高位の精霊。
そんな精霊がなぜ人間なんかに」
「お菓子が欲しいから」って言ったらマナが拗ねるな。
「自由だからよ。
あなた達に使われたら、魔法でがんじがらめでしょ?
好きにさせてもらえない。
この子たちがそう言ってる」
マナが精霊を撫でながら言った。
「マサヨシの傍に居れば、たまに仕事は頼まれるけど、ちゃんとその対価を払ってくれる。
魔力以外にも甘いお菓子も貰えるし」
あっ、お菓子が貰えるって言った。
「たまに撫でてくれるし。
あなた達みたいに物みたいに扱わない。
だから、私はマサヨシの周りに居る。
エルフのくせに、実体化できない多数の精霊がマサヨシの周りに居るのに気付かないの?」
騎士たちが目を細めて俺を見る。
近眼?
あっ、腰を抜かした。
「何にしろ、もうこの精霊たちはあなた達には戻らない。
諦めるのね」
マナがそう言うと、俺の体に戻っていった。
「じゃ、そういうことなので」
俺はその場から去ろうとする。
しかし、更に二人の騎士が現れた。
「お前、何をやっている!
なぜ、こいつらの精霊が……」
隊長っぽいかな?
「こいつ、俺たちの精霊を盗みやがったんだ!」
「そう」
ハア、またか……。
剣を持って構える四人。
「ほら、お前、速く火球を出せ!」
精霊に指示を出す隊長。
こいつ等の精霊は全部犬らしい。
隊長が火か……。
残りが土
大きさは……柴犬?
勝てないと思ったのか腹を出してひっくり返る。
服従のポーズ?
土の精霊は震えて粗相?
「だからさ、精霊が言うことを聞かない時点でダメなんだよ。
俺は騎士に近寄り肩に触ると、火と土の精霊に付いても隷属契約を解除した。
すると、狼のようになった火と土の精霊は俺の前で頭を下げた。
手に魔力を纏わせ精霊を撫でる。
騎士たちは剣を持ち、俺に切りつけようとしたが、オリハルコンの大剣で払うと根元から切れる。
「もういいだろ?
アンタらの負けだよ。
できれば何事もなくこの街を出て行きたかった。
言っておくけど、絡んできたのはお前らだからな」
そういうと、俺はアインを連れて、ヘルミーナの街をでるのだった。
その夜、夕食を終え、ソファーで寛いでいた。
その周りには属性を表す四色の狼……精霊が伏せて眠っている。
クリスがアレックスを抱いたままヤレヤレと言う顔でやってくる。
「あーあ、その精霊騎士は除籍ね。
精霊が居ない精霊騎士なんてただの騎士で使えないから。
しかし馬鹿ねぇ。
マサヨシの周りにはこんなに精霊が舞っているのに、気付かないなんて」
と言った。
「あーあー」
と精霊の狼たちに手を伸ばすアレックス。
「この子も、精霊が見えるのかしら」
アレックスの声を聞いた精霊の狼たちはムクリと起き上がり、アレックスの周りに集まると、頭を下げた。
「この精霊たちもアレックスに従うみたい。
でも、アレックスがもう少し大きくなったらお願いね」
クリスが精霊たちを撫でると、精霊たちは目を細める。
「アレックスはハーフエルフだけど、エルフ寄りみたい。
生まれてすぐに四属性の精霊を従わせるなんて。
私の血かしら」
「はいはい、王家の血筋と言うことにしておきましょう」
しばらくすると女性陣が集まりワイワイと話を始める。
俺と義父さんは、アレックスとシーラ、カールの子守をしながら軽く飲むのだった。
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