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第17話 手紙は手紙を処理できる人に渡すべきだと思う。

 俺たちが館の玄関を入ると、セバスさんが現れた。

「お帰りなさいませ、マサヨシ様、クリス様」

 ここに帰るのが当たり前のようにセバスさんは言う。

「ただいま帰りました。義父さんは?」

 俺がそう言うと、セバスさんは嬉しそうに目を細め、

「執務室におられます。お連れしましょう」

 そう言って俺の前を先導した。



 執務室の扉の前に行くとでセバスさんはノックをする。

「何だ?」

 奥から義父さんの声。

「マサヨシ様がいらっしゃいました」

「おお、中へ入れろ」

 セバスさんは扉を開け、俺を通した。

「どうした?」

 俺に聞く義父さん。

「えーっと、デンドールって豪商を知ってますか?」

「ああ、聞いたことがある。

 あまり良い噂ではないが……」

「デンドールというのは、クリスが奴隷として納められる予定の商人だったのです」

 俺は俺とクリスが出会った状況と、クリスが俺の奴隷であること、そして、奴隷とはいえ、制約をつけていないこと、ドロアーテの街を歩いていた時に拉致され殺されそうになったところを返り討ちにし、宝箱と手紙を奪ってきたことを話した。

「そのような事情があったのか……。で、その手紙とは?」

 俺は手紙を差し出す。

「ふむ、取扱い禁止の品物を扱っていたようだな。

 吸うと気持ちがよくなるが、中毒性があり最後には体と心を病んでしまう薬だ。

 生産地の情報に、実際にバックについていた貴族。

 これはドロアーテの領主であるベルマン辺境伯が知るべき内容だ。

 私が手紙を書こう。それを持ってベルマン辺境伯に会いに行けばいい」

「わかりました。あと、この宝箱に入った物は?」

「今のままでは盗んだものになってしまうな。ほとぼりが冷めるまで隠し持っているといい」

 義父さんはウインクしながら言った。

 俺は、さっそく義父さんの書いた手紙とデンドールの手紙を収納カバンに仕舞うと義父さんの部屋を出た。



 そこにはセバスさんが控える。

 気になっている事があった。

「セバスさん以外に働いている者は居るのですか?」

 俺は聞いてみた。

「そうですね、私以外には料理人、庭師、馬丁代わりの門番ぐらいでしょうか?あと、街から洗濯をする女性を雇い入れています」

「私たちがこの館に来ると、忙しくなるのでは?」

「そうですね、でもその分働き甲斐は有りますよ?

 とはいえメイドの一人か二人は必要になりそうですね。そのうちですが……」

 と、少し考えながらセバスさんが言った。


 もう一つ気になる事がある。

「セバスさん。義父さんはまともに歩けるのですか?」

「移動の際は私が肩を貸しております」

「車いすというのは有るのでしょうか?」

「車いす?」

 首を傾げるセバスさん。


 この様子では知らないか……。


「私の知っている介護道具です。

 移動が楽になります。

 今度、絵にしてみます」

「はい、どのような形になるのか見てみたいものです。可能であればお抱えの職人に作ってもらってもいいですね」

「そうすれば、いちいち椅子に座りなおす必要もなくなるので便利になるかと……」

「マサヨシ様の絵をお待ちしております」

「わかりました」

 そう言って俺は離れた。


「車いすって何?」

 クリスが聞いてきた。

「ん?車いすというのは、椅子に車が付いているんだ。

 だからいちいち移動するときに立ち上がったり、目的地に着いても座りなおしたりする必要がない。

 だから、義父さんにもセバスさんにも便利かなと……」

「それは向こうの世界の物?」

「そういうことになるね。

 でも、この世界でもできるなら作ってみればいいと思う。

 それで誰かが幸せになれるならいいだろ?」

「そうね」



 義父さんとの夕食を終え、セバスさんが準備してくれた寝室に入る。そこには風呂もあった。

 クリスと二人で風呂に入り、キングサイズのベッドで二人で寝る。

「どうするの?

 明日ドロアーテに行く?」

「義父さんもああ言ったことだ。

 行ってみたほうがいいだろう」

 俺がそう言うと、

「私も行っていい?

 置いてけぼりは嫌だからね」

 と言ってクリスが抱き付いてきた。

「ああ、一緒に行こう」

 クリスの頭を撫でる。

 するとそのまま寝てしまう。


 俺もちょっと疲れたな……。


 そんな事を思っていると、知らぬ間に寝てしまっていた。



 翌日の朝食の時、

「車いすというのは、どんな物なのだ?」

 義父さんが聞いてきた。

「セバスさんから聞いたのですね。

 足腰の悪い人の移動を助ける物です」

「儂のためにあるような物だな」

「そのつもりです」

 そう言うと、嬉しそうに頷く義父さん。

「早く絵を描いて見せてくれよ。私も楽しみだ」

「わかりました、近日中に書いてお見せします。

 それでは、今日はドロアーテのベルマン辺境伯に会ってきます」

 そう言って、俺とクリスは扉でドロアーテに向かうのだった。



 ギルドの裏から表通りに出ると、デンドールの屋敷があった辺りから煙が上がっていた。

「ん?何かあったかな?」

「私は予想着くけど……。

 まあギルドで聞いてみたら?」

 ヤレヤレと言う感じでクリスは俺に言ってきた。


 俺とクリスはギルドに入る。

 グレッグさんは忙しそうに差配をしていた。

「何かあったのですか?」

「この街にドラゴンが出たんだ。

 そして、デンドールの館を粉みじんにまで破壊すると、空へ去っていった」

「ほっ、ほお……」

「マサヨシ、何か知らないか?」

「さっ、さあ……?」

 多分俺の顔には明らかに不自然な汗が流れていたと思う。

「まあ、あの商人が街の中に魔物を入れていた形跡がある。

 それに、悪い噂も多かった。

 それこそ、自らドラゴンの尻尾を踏むようなことをしたのだろう……」

 再び汗が流れる俺を見て、クリスはニヤニヤしていた。



 ギルドを出ると、

「あんな顔のマサヨシ初めて見た」

 とクリスが驚いていた。

「そりゃそうだ、思ったより被害がデカかったからな。

 あの屋敷が崩れたというじゃないか」

「まあ、ドラゴンのせいになったんだからいいじゃない」

「良いのかねぇ……」

 そんな事を言いながら、ドロアーテの街を統べるベルマン辺境伯の館へ向かう。


「すみません」

 俺は館の門番の一人に声をかける。

「冒険者が何の用だ?」

「私はマサヨシと申します。

 これはマットソン子爵からの紹介状。

 ベルマン辺境伯様へ取次ぎをお願いしたいのですが?」

「畏まった。しばらくお待ちいただけるか?」

 そう言うと、中に入って行った。


「マサヨシ様、主人が会うと申しております。庭におりますので、そこまでお連れしましょう」

 俺とクリスは門番について中に入った。

 暫く歩くと赤土の広い運動場のようなところへ着く。

 そこで大男が兵士を鍛えていた。


「お連れしました」

 そう門番が言うと、その場を去る。

「お前がマサヨシか?」

 赤銅色の肌に顔に大きな傷をつけた毛一本無いハゲた頭の男が笑いながら聞いてきた。

「はい、マサヨシと申します」

「儂はミケル・ベルマン。若いころからクラウスのオッサンにはいろいろ気にかけてもらっている。

 お前、あのクラウスのオッサンの義理の息子なんだろ?」

 義父さんは手紙に書いていたようだ。

「正確には『王都で手続きをすれば』ということになります」

「そんなことはいい。儂はお前をクラウスのオッサンの息子として扱う。

 にしても、エルフを連れているとはな?

 エルフは人と行動しないと聞く……奴隷か?」

「私が助けたエルフになります。隷属の紋章はついていますが別に制限も付けていないので、奴隷というよりもパートナーですね」

 俺がそう言うと、クリスは

「初めまして、クリスと申します。

 ミケル様、聞いてください。

 マサヨシったら私に手を出さないんですよ?

 自信を無くしてしまいます」

 と拗ねたように言った。

「クリス!」

 俺は止めようとしたが間に合わない。

「ハッハッハッハ…………」

 ミケル様は涙を流しながら笑い、

「エルフに手を出さないとは相当真面目なんだな」

 と、涙を拭きながら言った。

「真面目過ぎます!」

 半ば笑いながら言うクリス。

「まあ、幼女を求めるわけではないのなら、待ってやればいいのではないか?」

「そのつもりです。

 私はマサヨシより長生きの出来るエルフですから」

 そう言って笑うクリスが美しかった。


「さて、クラウスのオッサンの手紙には、どこかで手紙を見つけたと書いていたが……」

 ミケル様は仕事の顔に戻ったようだ。

 真面目な顔で俺に聞いてきた。

「これがその手紙になります。私はその内容までは見ていません。

 義父さんが『ベルマン辺境伯に見せたほうがいい』と言っていたのでお持ちしました」

 俺は手紙の束を差し出す。

 すると、クラウス様は手紙を読み始めた。

「これは、デンドールの……。

 あの貴族もかかわっていたのか。

 これが栽培場でこれが販売ルート。

 王都にまで食い込んでいる……」

 呟きながら手紙を見たあと、俺を見て、

「これは私が預かる。

 でな?

 このタイミングでデンドールの屋敷が崩れ去ったのだが、知らないか?

 ただ、ドラゴンが暴れたという報告もある。

 お前の傍にドラゴンは居ない。

 だから犯人ではないと思うのだが……」


 はあ……、一応言うか……。


「クリスを奴隷にしたのはデンドールです。

『珍しいエルフの冒険者を痛めつけたい』というのが目的だったようです。

 そのうちわかるでしょうが女型の魔物の剥製が飾られていた形跡があると思います。

 クリスがその最後の目標だったようです」

「いい趣味じゃないな」

 顔を顰め、ミケル様が言う。

「私もそう思います。

 ドロアーテを歩いている時に私とクリスは拉致され、デンドールの前へ引きずり出されました。

 私たちも身を守るために戦いました。

 そうしてドラゴンの檻を壊したのです。

 デンドールはそのドラゴンに恨まれていたのでしょう。

 その結果屋敷が瓦礫になった……というのが脚色した内容です」

「脚色したのはどっちだ、デンドールの趣味か?

 デンドールの館の話か?」

 ニヤニヤしながらミケルさんが聞いてきた。

「デンドールの館のほうですね」

「まあいい。

 今更わからんからな。

 二人で護衛を倒したとなると、お前もクリス殿も強いのか?」

「私は義父さんのオリハルコンの剣を片手で軽々振れます」

 と、俺が言うと真剣な顔になった。

「ほう、あの剣をな……。

 その体でか?」


 まあ、鍛えているようには見えないか……。


「ええ、この体でです」

「儂は、最近体がなまっていてな。

 強い相手が欲しかったんだ。

 手合わせしてもらえんか?」

「その方がいろいろ好都合なら」

 俺は意味深に言う。

「そうだな、あの館はドラゴンが粉々にしたことに間違いないだろう。

 この手紙はその中から掘り起こされたものなんだろうな……」

 ミケル様もニヤリと笑って言った。

「そういうことなら、手合わせしないといけませんね。」

「男って面倒ねぇ……」

 クリスのぼやく声が聞こえる。


「何か賭けるか?

 そうだな、私が勝てばそのエルフをもらおうか」

 ミケル様がそう言うと、

「いいわよ?」

 クリスが言った。

「クリス!」

 と俺が窘めるが、

「だって、負けないでしょ?」


 あー、言っちゃった。

 相手が怒る奴だそれ……。


「口の悪いエルフだな……。それでお前は何が欲しい」

 鋭い目に変わるミケル様。

「そうですね、ミケル様は義父さんに世話になったと聞きましたが、それは剣技のほうもでしょうか?」

「ああ、そうだ」

「でしたら、その剣技を教えてください。

 私は剣を貰っても扱えません。

 野蛮人のように剣を振ることはできても、貴族のように流麗に振ることはできないと思います。

 ですから、貴族の剣を教えてもらいたいのです」

「そんなことは儂に勝たなくても教えてやる。

 勝負が終わったらもう一度聞こう」

 そう言うと、訓練用の武器を取り出し、

「これを使え」

 そう言って木剣を渡されるが俺は断った。

「私は正直剣って使ったことが無いんです。

 これでも魔法使いなもので……」

「何?魔法使いのくせにその力を持つのか?」

 ミケル様が驚くのを見ながら、

「力だけは有るんです」

 俺はニコリと笑った。


 練習場の中央で、五メートルほど離れ俺とミケル様は対峙する。

 兵士の一人の

「始め!」

 という声で、俺とミケル様の二人ともが弾けるように動き始めた。

 しかし、しばらく様子を見たあと

「うぐっ」

 っという声がするとミケル様は動かなくなる。

 その時、俺の体はミケル様に重なり、皮鎧の上から鳩尾に拳をめり込ませた。


「それは本気の拳か?」

 脂汗を流しながら、ミケル様が言う。

「どうなんでしょう。

 私も本気を出したことが無いので」

 俺はにっこり笑う。

「儂の負けだな。

 手加減されたのはクラウスのオッサン以来だ。

 剣技なしのフェイント無しで俺が目で追えなかったのも初めてだ。

 恐ろしい男を養子にしたものだな」

「私が動くのは私の周りの大事なものに手を出そうとした時。

 クリスに何かあれば私は遠慮なく動きます」

 無意識に威圧をしていたのか、

「マサヨシ、威圧してる」

 とクリスが言った。

「ああ、すみません。

 デンドールの事を思い出したので……」

 と俺が言うと、

「ははは……」

 ミケル様は乾いた笑いとともに冷や汗を流していた。

「俺は負けた。何か欲しいものは?」

「それが別に無いんですよ。

 ですから、何かあったら助けてください」

「何を助ければいいのかはわからないが、その時には力になろう」

 そう言って握手をした。


「剣技を習いに来るというが、私の屋敷に来れるのか?」

 ミケル様が言った。

「ええ、毎日来ようと思えば来られます。

 私はドロアーテを拠点にする冒険者ですから」

 ミケル様が少し考えると、

「ちなみに、『炎の風』という盗賊団を知らないか?」

 と聞いてきた。

「ああ、リューイという者が頭だった盗賊団ですね。

 壊滅させましたが……」

 俺がそう言うと、

「我が領内の狼藉者を討伐してもらい感謝する」

 と、ミケル様は言ったあと、

「ギルドめ、こんな強い冒険者が居ると何で報告しない……」

 と呟いていた。


 毎朝、ミケル様とその兵士が練習をしているということなので、その練習に参加させてもらうことになる。



「そうか、ミケルがお前の剣の先生か……。あの小僧がなあ」

 遠くを見るように、義父さんが言った。

「そういう訳で、毎朝ドロアーテの屋敷に行くことになります」

「この体ではもうお前に教えることはできん。

 しかし、あいつに教えておいたおかげでお前が教わることができる。

 良かった良かった」

 そう言って喜んでいた。


 執務室を出てセバスさんに声をかける。

「どうなさいましたか?」

「マットソン子爵の兵って?」

「あそこに居る門番二人ですが?」

「えっ、庭師と馬丁を兼務している?」

 俺が驚くのを見て、

「はい。

 平原の多いこの街には魔物は滅多に来ません。

 私と兵士二人で事足ります。

 それにクラウス様は過去の武勲により、老齢になった今、兵役の義務もありません。

 ですから多数の兵士は要らないのです。

 しかし、マサヨシ様が養子になられた時はどうなるかわかりませんね」

 と、セバスさんはニヤリと笑いながら言った。


読んでいただきありがとうございます。

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